9月21日から27日まで行われた今回のAdverTimes.Daysではテーマを「Invisible→Visible」と設定。メディア投資の効果、テレデジ融合の最適な投資配分、さらには前例通りが通用しない時代のマーケティングの勝ち筋まで、「見えない」を可視化する新たな挑戦をする方々が、自らの取り組みを解説した。
最終日にはLazuli代表取締役 CEO/CTOの萩原静厳氏がファシリテーターとなり、ネスレ日本常務執行役員の島川基氏が「ブランドがデジタルセールスにおけるデータの利活用を加速するために取り組むべき商品データの重要性」をテーマに、ネスレ日本の取り組みを解説。ネスレグループのデジタル戦略や、なぜ組織を超えたDX戦略が必要なのかなどを説明した。
ネスレグループのデジタル戦略
ネスレグループ(以下、「ネスレ」)では2025年までに①Eコマース比率を25%②デジタル広告投資を70%③4億のファーストパーティデータを獲得することにより、Eコマースとグループ全体でのデジタルマーケティングの加速を目標としている。またデジタルで成長を吸引するためのプライオリティとして①大規模な消費者への直接アクセス②チャネルレスコマースへの対応③リアルタイムの消費者の行動分析を掲げている。「ネスレでは企業が作った枠組みで売り場を考えるのではなく、ユーザー基点で戦略を立てるために”チャネルレス”という表現を使用している」(島川氏)。
背景にはEU 一般データ保護規則(GDPR)をはじめとした個人情報保護強化の流れで、今後サードパーティーデータやクッキーの活用が難しくなっていくことを鑑み、まず自社できちんとしたファーストパーティデータを保有することによって、直接ブランドと消費者がつながる関係を作りたいという考えがある。
「ネスレとして1人1人のお客様にどのように寄り添うか、戦略的に取り組もうとしている」。
その為ネスレでは先駆者的にD2Cを戦略の中心に据えスケールを獲得してきた。
「日本においても、『ネスカフェ』のような消費財の販売は小売店を通じて行っており、消費者と直接つながらない現状があった。そこでコーヒーメーカー『ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ』をIoTでつなげて、『お客様がどのようなコーヒーを飲んでいるか』『どのようなエラーが一般的に多いのか』等、リアルタイムで当社に届く仕組みを作った。IoTでつながったデバイスはすでにマーケットで累計数百万台出荷されており、自社D2Cを通じた定期購入者も多い。このように先駆者的にチャレンジするのはメリットがある。スタートして約8年。ネスレ会員及び定期購入者はスケールを獲得し、コーヒーメーカーは市場トップとなるなど、フォーカスした投資をした結果が形になってきている」と述べる。
ネスレでは今後日本市場で予想される人口減、エネルギー価格高騰と労働力不足、個人情報保護法やクッキー規制などの諸問題の中、持続的な成長のカギはチャネルレスコマースとデジタルだと考えている。その中でデジタルが担う役割は、「製品や情報へのアクセシビリティを担保」し、「顧客体験(CX)の改善を通じてユーザーあたりのLTVを拡大」することであり、そのためにもファーストパーティデータの活用が重要になると考えている。
「グローバルではデジタルシェルフにおける品揃えや商品情報の質の担保がKPIにも設定されているほど、デジタルは重要視されている。お客様がオフライン、オンラインを跨いで一貫したブランド体験を得られるように取り組み強化していく必要がある」(島川氏)
データ活用の現状と今後について
現状ではネスレ日本でのデータ整理はまだ十分ではないという島川氏。「事業部側が持っているデータ、消費者が保有しているデータはそれぞれの部署が取りまとめている。そこの情報が連携しきれていないという課題に取り組んでいる。またパーソナライゼーションなど顧客に視点が行くのは良いが、そもそもの自社のプロダクトが、自社から見た場合と消費者から見た場合どのように認識されているのか、実は誰も現状がつかめていないのではないかという課題もある」という。
「より精緻なセグメンテーション、ターゲティングを行い、スケールを伴ったカスタマイズ提案ができるようにするため、まずは自社で抱えるデータをきちんと定義すること、またそのために自社のリソースを担保していくことが必要だ」(島川氏)
現在プロダクトデータの利活用が世界的な潮流になっている。
「顧客データ×トランザクションデータ×プロダクトデータ、この3つの掛け合わせによってどんな価値が提供できるのか、その中でも『商品データ』にはポテンシャルがあると思っている。その人にあった商品情報を提供することについては、まだまだ改善の余地がある。そこを打破するにはプロダクトが持つ切り口をどれだけ増やせるかが大事なのでLazuliのようなプレーヤーには期待している」と述べる。
ネスレの掲げるパーパス(存在意義)は「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」。これを具現化するために、「製品を単体で売って終わりではなく、お客様の生活の中にネスレのブランドがパートナーとして寄り添えるような『つながる』顧客体験を提供していきたい」という。
Lazuli PDPとは
AI・自然言語解析をコア技術としたスタートアップのLazuliは2020年に代表取締役である萩原静厳氏を含む複数メンバーによって設立された。プロダクトデータプラットフォームの開発・提供をしている。同社のアドバイザーには東京大学大学院教授でAI研究を専門とする松尾豊氏、オイシックス・ラ・大地のCOCOである奥谷孝司氏、トレジャーデータ共同創業者である芳川裕誠氏、太田一樹氏が参画している。
同社が提供するサービス「Lazuli PDP(Product Data Platform)」は、商品情報の生成・加工・管理に特化したプラットフォームであり、AIを活用して商品情報を生成・加工し、効率的にデータ活用ツールへ連携、セールスや分析の強化が可能となっている。
現在は国内を中心に営業活動を行っているが、今後はグローバルにも展開を予定している。
登壇者
島川 基氏
ネスレ日本株式会社 常務執行役員 デジタル&Eコマース本部長 兼 デジタル&Eコマース本部 新規ビジネス開発部長
ネスレ日本に入社後、飲料事業本部にてブランドマーケティングを担当。「ネスカフェ」ブランド全体のマーケティング施策を立案実行。2020年よりネスレスイス本社にてZoneAOAアシスタントリージョナルマネージャーとして各マーケットの経営企画支援を行い、2022年1月より日本に戻り現職。D2CやEコマース全般の統括、デジタルCXの実現に向け、部門を横断してイニシアチブをリードしている。
萩原 静厳氏
Lazuli株式会社 代表取締役 CEO/CTO
2005年に株式会社リクルートに入社し、データサイエンティストとしてスタディサプリのAI活用の実証実験を始め、数々のデータ活用・事業装着をリード。2015年にスタディサプリAI研究所を立ち上げ、東大松尾豊教授との共同研究を始めAIに関わる産学連携の各種取り組みを推進。2018年に株式会社トレタへ入社し、データ部門責任者兼データサイエンス研究所所長に任命。2020年にLazuli株式会社を創業。
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