「米国の視聴者の約3割がパリ五輪はストリーミングで視聴」と回答、スポーツメディアのデジタル化の波

米国の地上波テレビにとって重要なジャンルのひとつとされるスポーツ中継。その背景にはライブ性と幅広いファン層が視聴するコンテンツ力の高さがある。近年、メディアのデジタル化が進む中、スポーツ中継もライブビデオストリーミングやソーシャルメディアなどのデジタル領域に参入している。ますます多くのスポーツが複数プラットフォーム上でリアルタイム視聴ができるようになった。その結果、スポンサーブランドが視聴者とつながる新たな機会が生まれている。

今回は、グローバルメディアエージェンシーIPG Mediabrands のニューヨーク本社でメディア戦略を担当する副島奈美氏が、同エージェンシーの調査機関MAGNAのブライアン・ヒューズのレポートを基に、デジタル化を続ける米国のスポーツメディア市場の動向を解説する。

ストリーミングプラットフォームが契約交渉に参入、放映権競争が激化

アメリカの放送局やケーブルテレビの視聴率は、ライブ放送の性質上、いままで以上にスポーツコンテンツに依存している。デジタル化が進む中、スポーツは引き続きテレビで最も人気のあるジャンルのひとつであり、パンデミック後、スポーツの生中継が復活するにつれて、世代を超えて成長の兆しを見せている。中でも、Y世代(ミレニアル世代)やZ世代など若年層を中心にライブ視聴率の増加傾向が見られる。


出典: Magna, メディア視聴動向2023年第二四半期レポート

しかし、地上波の最後の砦ともいえるスポーツでさえ、Apple、Amazon、Netflixなどの新しいプレーヤーがライブ中継に参入するにつれて、デジタル化の脅威にさらされている。スポーツメディアの性質上、放映権はリーグごとに複数年契約に縛られている。しかし、これらの契約の多くは今後、数年で更新される予定であり、ストリーミングプラットフォームがこれらの契約交渉に参戦することにより競争が激化することが予想される。

出典: Magna, スポーツレポート2023

こうした環境下、特に若年層では、スポーツの視聴方法が変化している。試合のライブ視聴率は依然として高いままだが、特にZ世代とミレニアル世代は、YouTubeやTikTokでスポーツコンテンツを短編ハイライトとして楽しんでおり、スポンサーブランドに新たなエンゲージメントの機会を生み出している。

出典: Magna, サブスクライバー・ブリーフ2023

また、アスリート自体がソーシャルメディアプラットフォームにコンテンツをリアルタイムで投稿するため、ソーシャルも新たなスポーツメディアチャネルになり始めている。例えば、サッカーのリオネル・メッシ、クリスティアーノ・ロナウドやNBAのステフィン・カリーなどのトップアスリートは、世界中で何百万人ものフォロワーを誇り、彼ら自身が世界的に影響力の高いメディアとも言えるだろう。

 

FIFAワールドカップのエンゲージメント数は59億越え

デジタル化の進展もあって、スポーツメディアはますますグローバル化しており、スポーツコンテンツは地域を超えて楽しまれるようになってきている。よってグローバルブランドがリアルタイムでグローバルなファンダム(特定のコンテンツを取り巻く熱心なファンの人々やその活動の総称)を活用する絶好の機会が多く生まれている。

例えば、2022年のFIFAワールドカップでは、カタールでの観客動員数だけでなく、メディアの視聴率も過去最高を記録した。FIFAによると、約50億人がメディアを通じてFIFAワールドカップカタール2022のコンテンツを視聴し、様々なメディアプラットフォームやデバイスを通じて試合を追っていた。視聴行動分析サービスを提供するニールセンによると、ソーシャルメディアでは、すべてのプラットフォームを横断して9,360万件の投稿があり、累積リーチ数は2,620億件、エンゲージメント数は59億5,000万件となっている。

2024年パリオリンピックでは、世界中の視聴者が地上波の生放送だけでなく、デジタルでもコンテンツを楽しむことが間違いない。IPGの調査機関であるMagnaでは、米国の視聴者の約27%がストリーミングでオリンピックを視聴すると推定しており、2021年の16%から大きく増加する予測だ。さらに、TikTokやInstagramなどのプラットフォームを通じて、アスリートやイベント参加者が個人アカウントでイベントを投稿することにより、ソーシャルエンゲージメントが高まると予想される。

出典: Magna, スポーツレポート2023

FIFAやオリンピックの公式スポンサーになることには多額の費用がかかるが、国境を超えて各国の視聴者にリーチしたいグローバルブランドにとっては唯一無二のモーメントであることには変わりない。独占権やコストのために公式スポンサーシップを利用できないブランドのために、メディア会社が提供するコンパニオンプログラムや関連コンテンツに出資したり、アスリート個人と契約することを検討するのもよいだろう。

 

女子スポーツの人気が拡大 大学生アスリートを起用したスポンサー活動も

また、アメリカでは女性スポーツのフランチャイズ人気が盛り上がりを見せている。米国では、WNBA(全米女子バスケットボール協会)やLPGA(全米女子プロゴルフ協会)などのプロリーグが、テレビやデジタルでの視聴率を伸ばし続けており、2023年のWNBAファイナルは、ABC とESPNでの放映の合計で72万8000人の視聴者を集め、過去20年間で最高記録を得た。また、より注目すべきは、「@WNBA」のソーシャルメディアアカウントで、今シーズン3億7300万回の記録的な視聴数となった。 この増加はWNBAのファン層が若年層に寄っていることにも関係している。

出典: Magna, スポーツレポート2023

若年層といえば、NCAA(全米大学体育協会)カレッジスポーツも、女子学生アスリートのソーシャルメディア活動により、多くのファンを魅了している。2021年から、米国の大学生アスリートは、ブランドからスポンサーシップを受けたり、ブランドに代わってコンテンツを投稿したりすることで報酬を受け取ることが可能になった。NIL(Naming, Image, Likenessの略)と呼ばれるこのようなスポンサー活動は、メディア広告以外に、ブランドがNCAAに参加する手法のひとつとして確立しつつある。

出典: Magna, スポーツレポート2023

 

スポーツメディアの多様化がもたらす、マーケティング施策の広がり

米スポーツ市場はますます人気が高まっており、ブランドがスポーツコンテンツをスポンサーすることによって、幅広いファン層にリーチすることができる。しかし、スポーツメディア環境がよりデジタル化するにつれて、ブランドは地上波だけでなくストリーミングやソーシャルメディアを活用して、主要なライブイベント中にブランドの存在感を高める必要も生まれた。

また、アスリートと提携することで、ブランドはライブゲーム以外でも存在感を高め、年間を通じてファンとの関わりを続けることができるだろう。さらにグローバルブランドであれば、ワールドカップやオリンピックなどの重要なグローバルモーメントを活用することで、同時に複数の市場にリーチできる。オフィシャルスポンサーになる以外でも関連コンテンツを提供することにより、ライブゲームや試合をサポートできないブランドもスポーツメディアに参加できるだろう。

“While streaming and the viewing habits of younger generations have challenged the traditional sports broadcast model, it has also created more opportunities for brands to connect with fans, whether it’s highlights, social media, podcasts, or companion video series.” Brian Hughes, EVP, Media Intelligence, Marketplace Strategy, Magna

「若い世代の視聴習慣は、従来のスポーツ放送モデルに変化をもたらしており、ハイライト、ソーシャルメディア、ポッドキャスト、コンパニオンビデオシリーズなど、ブランドがファンとつながる機会も増えている。」 – Brian Hughes 氏、メディア インテリジェンス、マーケットプレイス戦略、MAGNA

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IPG Mediabrands
副島奈美

米イェール大学で政治経済を専攻。その後東京のソニーに就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。




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副島奈美


米イェール大学で政治経済を専攻。その後東京のソニーに就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。







忍久保恵太


ユニバーサル・マッキャンで様々な得意先のヨーロッパビジネスをグループディレクターとして営業を束ねる。得意先のビジネス・コミュニケーション目標設定から、全体的なマーケティングコミュニケーション開発からターゲット層に合ったプランを設計し、効果を図るソリューションを提供。



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米イェール大学で政治経済を専攻。その後東京のソニーに就職し、本社スタッフとして東京・NYオフィスで働く。2003年に米コロンビアビジネススクールに進み、MBAを取得。卒業後は戦略コンサルティング会社、デジタル・エージェンシ―を経て、グローバルの大手広告代理店ユニバーサル・マッキャンにてグローバルメディア戦略を担当。







忍久保恵太


ユニバーサル・マッキャンで様々な得意先のヨーロッパビジネスをグループディレクターとして営業を束ねる。得意先のビジネス・コミュニケーション目標設定から、全体的なマーケティングコミュニケーション開発からターゲット層に合ったプランを設計し、効果を図るソリューションを提供。



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