日本の企業はどんなPR会社と仕事をするべきか?


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前回のコラムでは、独立系PRエージェンシーのグローバルネットワーク「IPREX(アイプレックス)」が実施したグローバル調査によるレポート「State of Global Communications and Marketing 2023」をもとに、グローバル広報・PRの3つのイシューを解説しました。

今回は広報・PRに携わる方であれば気になるであろう、「企業とPRエージェンシーの付き合い方」についてグローバルの傾向を見ていきます。

どういったエージェンシーを活用しているのか?どういった業務をインハウスとエージェンシーで役割分担しているのか?など、インハウス側、エージェンシー側など置かれる立場にかかわらず、効率的・ 効果的な業務推進に向けて参考にしていただけたら幸いです。

なお、今回も調査内容によってはアメリカ大陸(Americas)、アジア太平洋(APAC)、欧州・中東・アフリカ(EMEA)とエリアごとの集計もあり、興味深い結果になっています。それでは、詳しく見ていきましょう。

国内か独立系か外資か、PRエージェンシーの種類


グラフ その他 どのようなタイプの外部パートナーの支援を受けているか」に関する設問から。 出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」
「どのようなタイプの外部パートナーの支援を受けているか」に関する設問から。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」

今回の調査では、回答者にどのようなタイプの外部パートナーの支援を受けているかを聞いています。回答者は28カ国の異なる企業に所属する400名以上にまたがりますが、インハウスの広報・PR担当者であること、そして回答者の所属企業は自国以外でも事業活動を行う国際企業(MNCs)である点が共通です。

結果を見ると、

  • ・国ごとのエージェンシー(Agencies hired for individual countries, country by country)が回答者の43%で最多
  • ・IPREXのような独立系コミュニケーションエージェンシーのネットワーク(An established network of independent communications agencies e.g., IPREX)が35%
  • ・エデルマンやWPPのようなグローバルなコミュニケーションエージェンシー(A global communications agencies, e.g., Edelman, WPP)が34%と近似

という結果となりました。

また、5社に1社はフリーランス(Freelancers in individual countries)も活用するなど、全てインハウスで賄っている企業(No external support: we handle it all in-house)は20%にも満たないというのも興味深い結果です。

なお、これらの項目の内訳について、日本のケースを挙げながら補足します。

「国ごとのエージェンシー」というのは、特定の国を活動領域にしている、内資を中心とする代理店を指しています。一部、海外に子会社を持っているケースもありますが、日本を中心に活動しているという点でいえば共同ピーアール、サニーサイドアップなどが日本では当てはまるでしょう。

「独立系エージェンシーのネットワーク」は大手広告/マーケティンググループなどの資本が入っていない代理店が加盟している国際的なネットワークになります。ネットワークは、私たちが加盟するIPREX以外にも、PROI(日本ではプラップジャパンが加盟)、IPRA、IPRNなどがあります。

「グローバルなエージェンシー」は逆に、大手広告/マーケティンググループ(WPP、オムニコム、ピュブリシス、インターパブリックなど)などの資本が入っている外資系のPR会社などを指します(フライシュマン・ヒラード・ジャパン、バーソン・コーン&ウルフ・ジャパン、MSL Japanなど)。世界最大のPR会社であるエデルマンはこれらの資本は入っていませんが、世界65都市以上に拠点を構えグローバルをカバーしているため、このカテゴリとされています。

これらはアドタイに掲載されている、岩澤康一さんのIPRNに関するコラムでも詳しく説明されていますので、併せてご参照ください。

アジア太平洋の企業に、外部PRサポートが必要な理由

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「どのようなタイプの外部パートナーの支援を受けているか」(地域別)に関する設問から。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」

この「どのようなタイプの外部パートナーの支援を受けているか」の設問に対する回答ですが、実は地域別で見ると、異なる景色が広がってきます。上図からは、アジア太平洋が極端に他の地域と異なること、そしてアメリカ大陸と欧州・中東・アフリカが非常に似た結果になっていることがわかると思います。

アジア太平洋の企業では、外部パートナーのトップ3(国ごとのエージェンシー、独立系エージェンシーネットワーク、グローバルエージェンシー)の利用は他地域よりも高く、より外部支援のニーズが高いといえます。事実、インハウスで全てを賄っているという回答も他地域より少なくなっています。

これは初回のコラムで紹介したように、アジアの地理、文化、言語などの多様性に起因していることが容易に想像できます。インハウスだけではなかなかコミュニケーション業務の対応が難しく、国・市場ごとのエキスパートを活用することが最善策なのでしょう。

香港のエージェンシーの経営トップに聞いてみた!

香港に本社を置くIPREXのパートナーエージェンシー「Newell PR」のマネージングディレクター、デビッド・クロスデールにも、アジアにおけるコミュニケーションについて考察を聞いてみました。

グラフ その他 Newell PR マネージングディレクター デビッド・クロスデール。以下で触れる不動産プロモーションの会場にて
Newell PR マネージングディレクター デビッド・クロスデール。以下で触れる不動産プロモーションの会場にて。写真=本人提供

当人はイギリス出身でありながら約30年にわたり同社に在籍し、うち20年以上は代表の立場でエージェンシーを経営している人物です。まずアジアの概況についてこう話します。

「アジアは異なる発展段階にある国々で構成される大きな地域であり、均一ではありません。 日本や韓国などの先進国から、バングラデシュやミャンマーなどの発展途上国まで多岐にわたります。また、言語も多種多様で、文化の違いも大きくあります。

したがってひとつの PR エージェンシーがアジアのすべての市場をカバーすることはリソースとマネジメントの観点から困難で、例えば各市場の労働法だけとってもそれが想像できるでしょう。そのため、大手エージェンシーであっても特定の国や地域ではアウトソーシングを行うことになり、地理的に近い市場でも成果を出すためには地元のパートナーに頼ることが多くあります」

こう話すと、一例を挙げて詳しく説明してくれました。

「Newell PRではちょうど、カンボジアのプノンペンにある高級不動産を手がけるシンガポールの不動産会社のために、香港でのプロモーションを実施したところです。見込み顧客や投資家への販売イベントを5 つ星ホテルで開催するプロジェクトだったのですが、(香港での)広告、ソーシャルメディア、インフルエンサーを活用したキャンペーンを展開し、週末の 2 日間で 60 名以上の来場につなげました。実際、いくつかの不動産の売却も実現しました」

中華圏の影響を色濃く受けるシンガポールの企業であっても、やはり香港という異なる市場では、現地のPRエージェンシーが果たす役割は大きいという証左でしょう。

社内外でどのように業務を分担しているか

グラフ その他 「広報・PR活動におけるインハウス業務と外部パートナーに委託する業務」に関する設問から 出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」
「広報・PR活動におけるインハウス業務と外部パートナーに委託する業務」に関する設問から。
出典:「State of Global Communications and Marketing 2023」

レポートでは、いくつかの業務内容についてどの程度インハウスでの対応、外部パートナーへの依頼が進んでいるのかも示されています。

上の図はグローバルでの集計ですが、日本の読者の皆さんにも馴染みのある「翻訳」(Translations)の業務などは4割弱が社外で実施と回答。逆にクライシスコミュニケーションやSNSアカウントの管理は70%弱をインハウスで対応していることが明らかになりました。

従来、専門性が高いものやリソース負荷が高いものは外部パートナーで実施するケースが多くあり、メディアリレーションズ(Media relations outreach、30%が社外で実施と回答)などは代表的だと思われます。この点は、世界に多く存在する広報・PRエージェンシーの存在も大きいでしょう。

SNS向けのコンテンツ制作(Creating content for social media)、コンテンツマーケティング(Content marketing)などはまだ外部化比率が30%未満ですが、プラットフォームの細分化・高度化などによって外部パートナーの活用がより進むのではないかと私は見ています。

テクノロジーの進化や不安定な政治経済によって、消費者をはじめとしたステークホルダーの価値観や行動様式は大きく様変わりしています。そんな中、専門領域と地域性を掛け合わせたエージェンシーパートナーの存在価値はより大きくなり、企業はいかにそれらをうまく活用するかでビジネスの成否が分かれるようになるでしょう。

次回は、世界を席巻している生成AI(Generative AI)など、テクノロジーがいかに広報・PRに影響を及ぼしているかについて、紹介していきます。ぜひまたお会いしましょう!

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前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)
前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)

サッカー選手として19歳でイタリアに渡り、ウンブリア州ペルージャにあるセリエDのチームでプレー後、中田英寿氏のスポーツマネジメントで有名なサニーサイドアップで広報・PRの実務経験を積む。その後、博報堂プロダクツ、インテグレートを経て、広報・PR、広告、マーケティングに関する多角的なキャリアを積んだのち、2012年に統合PRコミュニケーションサービスを提供するラ・クレタを創業。2019年にグローバルPR子会社のアソビバ合同会社を設立し現職。国内企業のほか、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダ、イスラエル、シンガポール、インド、中国などの多様な海外クライアントのプロジェクト経験がある。

前田圭介(アソビバ CEO/ラ・クレタ 代表取締役)

サッカー選手として19歳でイタリアに渡り、ウンブリア州ペルージャにあるセリエDのチームでプレー後、中田英寿氏のスポーツマネジメントで有名なサニーサイドアップで広報・PRの実務経験を積む。その後、博報堂プロダクツ、インテグレートを経て、広報・PR、広告、マーケティングに関する多角的なキャリアを積んだのち、2012年に統合PRコミュニケーションサービスを提供するラ・クレタを創業。2019年にグローバルPR子会社のアソビバ合同会社を設立し現職。国内企業のほか、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オランダ、イスラエル、シンガポール、インド、中国などの多様な海外クライアントのプロジェクト経験がある。

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