連載の第8回は「ステマ規制」の管轄官庁である消費者庁表示対策課課長の高居良平氏より、ステマ規制導入後の変化や、規制に至った背景、運用に対する考え方などについて、特に広告業界の方々に向けた解説をいただきました。
詳しくは消費者庁の「ステルスマーケティングに関する検討会」に委員として参画していたクチコミマーケティング協会(WOMJ)の山本京輔による以下の2本の解説とあわせてお読みください。
消費者庁にはどんな疑問が寄せられている?
ステルスマーケティング告示については、告示指定後から様々な業界団体から多数の講演依頼や質問をいただき、事業者の皆さまが制度の勉強・理解に努めていると感じています。
また、同規制の施行に前後して、報道でも多く取り上げていただき、消費者も含めて規制に関する関心も高まっており、ステルスマーケティングの防止に資する環境が形成され始めていると感じています。
また、2023年10月2日から、消費者庁Webサイト内に「ステルスマーケティングに関する景品表示法違反情報提供フォーム」を設置しています。事業者、消費者、インフルエンサーなど様々な方からの情報提供を受け付けております。
これまで、「商品をサンプリングし、お客さまへ任意でSNS投稿への協力を促す場合は広告であることが分かる表示が必要なのか」「自社の社員・関係者が行った投稿について、どのようなものがステルスマーケティングと判断されるのか」など多くの質問をいただいています。ステルスマーケティング告示について、不明な点・不安な点があれば相談に応じておりますので、消費者庁までお問い合わせください。
広告業に携わる皆さまは、直接ステルスマーケティング告示に基づく処分を受けることはありませんが、広告業界の健全な発展のため、ステルスマーケティングを行うことがないように法令遵守に努めていただけたらと思います。
また、今回のステルスマーケティング規制は、広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すこと自体を規制するものです。広告であることが一般消費者にとってはっきり分かるものであれば、自由に広告・宣伝活動を行うことができます。
今回は、これまで寄せられている問い合わせ内容を踏まえ、改めてその内容について広告業界の方々向けに解説します。
なぜ「ステマ規制」に踏み切ったのか
消費者庁は、広告であるにもかかわらず広告であることを隠す、いわゆる「ステルスマーケティング」を規制するために、景品表示法5条3号に基づき、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(以下、「ステマ告示」という)を新たな不当表示として、2023年3月28日に告示による指定を行い、併せてステマ告示の運用基準も定めました。本告示は、2023年10月1日から施行されました。
一般消費者は、広告など事業者の表示であると認識すれば、その表示内容に、ある程度の誇張・誇大を含むことがあり得ると考え、商品選択の上でそのことを考慮に入れるでしょう。
しかし、実際には、事業者による表示であるにもかかわらず、それが事業者ではない第三者の感想であると誤認する場合、一般消費者は、その表示内容にある程度の誇張・誇大を含むことがあり得るとは考えないことになり、ここに一般消費者の誤認を生じさせ、一般消費者の商品選択を歪めるおそれがあるのです。この点が景品表示法においてステルスマーケティングを規制する趣旨となっています。
本告示は、「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」及び「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」の2つの要件からなります。
「自主的な意思による表示」と客観的に認められるか
1つ目の要件「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」とは、景品表示法2条4項及び5条柱書の事業者の表示の定義を引用したものであり、ステマ告示の対象を明確化するために引用されたものです。
ステマ告示の運用基準では、事業者の表示とされるものは、これまでの判決・解釈を踏まえ、事業者が「表示内容の決定に関与した」とされる場合です。事業者自身が表示を行うもの、事業者自身が表示内容の決定に関与の上、第三者に表示を行わせるものも含まれます。
あくまで表示「内容」の決定に関与であって、表示に対する関与ではないことから、事業者と第三者との間に何らかのかかわりがあるとしても、第三者の表示が、当該「第三者の自主的な意思による表示と客観的に認められるもの」であれば、事業者の表示とはなりません。
2つ目の要件「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」とは、表示内容全体から、一般消費者にとって、事業者の表示であることが明瞭になっていなければ、この要件に該当します。一方で、「広告」である旨が明瞭に表示されている、あるいは、表示内容全体から一般消費者にとって、事業者の表示であることが明瞭であれば、ステマ告示に該当しません。
また、本告示は、景品表示法の規制体系が前提となります。したがって、本告示の対象となるのは、商品または役務を供給する事業者が行う表示となります。事業者に当たらない者、例えば、事業者から広告・宣伝などの依頼を受けて表示するインフルエンサーやアフィリエイターは、規制対象とはなりません。
規制対象になる・ならないの違いは?
本運用基準は、事業者などにおける予見可能性を確保するために定めたものです。そして、本運用基準は、本告示の規制趣旨、事業者の表示となる場合・ならない場合の考え方と具体例、事業者の表示であることが分かる場合・分からない場合の考え方と具体例について、それぞれ記載しています。
本運用基準は、本告示の運用に当たっての基本的な考え方を定めているものですが、不当表示に該当する場合のあらゆる場面を網羅しているものではなく、事業者が行った表示が本告示に規定する不当表示に該当するかどうかについては、個別事案ごとに判断することとなります。
「第三者の自主的な意思による表示」と認められるか否か
(1)本告示の「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示」についての考え方(本運用基準第2柱書き)
景品表示法上、ある表示が事業者の表示とされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合です。本運用基準においては、さらに、そのような場合を第三者側から見たものとして、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」との考え方を示しています。
したがって、見かけ上第三者の表示のように見えるものについて「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合」とは、「客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合」です。
<事業者が表示内容の決定に関与したとされるものについて(本運用基準第2の1)>
○事業者が自ら行う表示について
事業者が自ら行う表示には、事業者が第三者になりすまして行う表示(例えば、事業者と一定の関係性を有し、一体と認められる従業員や、事業者の子会社などの従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示)も含まれます。
見かけ上従業員の表示のように見えるものが、事業者の表示に該当するかについては、例えば、従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務、表示目的などの実態を踏まえて、事業者が従業員の表示内容の決定に関与したかについて総合的に考慮し判断します。
○事業者が第三者をして行わせる表示について
事業者が第三者をして行わせる表示とは、事業者が第三者の表示内容の決定に関与している場合であり、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合です。具体例は以下のとおりです。
・第三者に依頼して、SNS上や口コミサイト上などに自社商品を表示(投稿)させる場合
・不正レビューを集めるブローカーなどに依頼して、自社商品のレビューを表示(投稿)させる場合
・アフィリエイターに依頼して、自社商品を表示させる場合
また、事業者が第三者に対してある表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について、事業者と第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者は表示内容の決定に関与したとされ、かかる第三者の表示は、事業者の表示となります。
この判断にあたっては、事業者と第三者のやり取りの内容など(メールの内容など)、対価の内容(金銭以外も含む)、主な提供理由(宣伝目的など)、事業者と第三者の関係性の状況(過去の取引関係・将来の取引可能性など)などの実態を踏まえて総合的に考慮し判断します。
<事業者が表示内容の決定に関与したとされないものについて(本運用基準第2の2)>
事業者が第三者の表示に関与したとしても、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められる場合は、事業者が表示内容の決定に関与したとはいえないことから、事業者の表示とはなりません。
この判断にあたっては、第三者と事業者の間の表示内容に関する情報のやり取りの有無、表示内容に関する依頼・指示の有無、対価の提供の有無、過去の取引状況や将来の取引可能性などの実態を踏まえて総合的に考慮し判断します。主な具体例は以下のとおりです。
・第三者がある事業者の商品又は役務について、SNSなどに自主的な意思に基づき表示(投稿(複数回の投稿も含む))をする場合
・事業者が第三者に対して自社の商品又は役務を無償で提供し、SNSなどを通じた表示(投稿)を行うことを依頼するものの、事業者が表示内容の決定に関与することなく、第三者が自主的な意思に基づく内容として表示(投稿)を行う場合
・事業者とアフィリエイターとの間で表示に係る情報のやり取りが、直接または間接的に一切行われていないアフィリエイト広告による表示を行う場合
・第三者が、自主的な意思に基づきECサイトのレビュー機能を通じて、購入した商品などのレビューの表示(投稿)を行う場合
また、新聞・雑誌発行、放送などを業とする媒体事業者(インターネット上で営む者も含む)が自主的な意思で企画・編集・制作した表示については、通常、編集権が媒体事業者にあるため、事業者が表示内容の決定に関与したといえないことから、事業者の表示とはなりません。これには、記事の配信、書評の掲載、番組放送(事業者の協力を得て制作される番組放送も含む)などが含まれます。
ただし、媒体事業者の表示であっても、事業者が表示内容の決定に関与したとされる場合は、事業者の表示となります。この判断の際には、正常な商慣習を超えた取材活動などである実態にあるかどうかが考慮要素となります。
「事業者の表示」であることが明瞭であるか否か
(2)「一般消費者が当該表示であることを判別することが困難である」についての考え方(本運用基準第3柱書き)
この判断にあたっては、表示内容全体から判断することになります。表示内容全体から判断とは、表示上の特定の文言などではなく、表示内容全体から一般消費者が受ける印象・認識を基準に判断します。
<一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものについて(本運用基準第3の1)>
事業者の表示であることが記載されていないものと、事業者の表示であることが記載されていたとしても、それが不明瞭な方法で記載されているものに分けられます。主な具体例は以下のとおりです。
・事業者の表示であることが全く記載されていない場合
・アフィリエイト広告において、事業者の表示であることを記載していない場合
・動画において一般消費者が認識できないほど短い時間において事業者の表示であることを示す場合
・一般消費者が事業者の表示あることを認識できない、文言・場所・大きさ・色などで表示する場合
<一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているものについて(本運用基準第3の2)>
表示内容全体から事業者の表示であることが分かりやすい表示の例として以下を挙げています。
・「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言や「A社から提供を受けて投稿している」などのように文章による表示を行う場合
社会通念上、事業者の表示であることを記載せずとも、一般消費者に事業者の表示であることが明瞭であるものが存在します。この場合には、これらは本告示の対象とはなりません。具体的には、以下のような場合が考えられます。
・放送におけるCMのように広告と番組が切り離されている表示を行う場合
・事業者自身のWebサイトにおける表示を行う場合
・事業者自身のSNSアカウントを通じた表示を行う場合
・観光大使などの社会的な立場・職業などから、一般消費者にとって事業者の依頼を受けて表示を行うことが社会通念上明らかな者を通じて、当該事業者が表示を行う場合
消費者庁 表示対策課長
高居良平(たかい・りょうへい)
1996年公正取引委員会事務局(現事務総局)入局後、在アメリカ合衆国大使館一等書記官、官房国際課企画官、東北事務所長、審査局訟務官などを歴任し、2023年7月から現職。兵庫県西宮市出身。