関西の生活のにおいがする漫才風CM――本田技研工業「街のおでかけ」篇

サムネイル 関西の生活のにおいがする漫才風CM――本田技研工業「街のおでかけ」篇

第3回 聞く人の孤独に迫る150秒のラジオCM エフエム東京「ラジオの夜」篇はこちら

ラジオCMがテーマのコラムなので、音読バージョンもご用意してみております。

第4回 本田技研工業/ホンダのスクーター「街のおでかけ」篇

わたし、ラジオ好きコピーライターの正樂地咲がお届けします「名作ラジオCMの時間」。

第4回は1987年制作、本田技研工業の「ホンダのスクーター」、「街のおでかけ」篇をご紹介します。

関西のAMラジオってね、本当にずっと喋ってるんですよ。
ラジオやからあたり前の話なのですが、聴いていて、あぁずっと喋ってるなぁと思うんです。
矢継ぎ早というか、次から次にというか。

喫茶店に入っても、そうやってずっと喋っている人がいて相手の話を聞くよりも、自分が喋りたいことを互いに喋りあってるだけみたいな。

そんな文化丸ごとがCMになったのがこのラジオCM。

「街にな、おでかけしたらな、おもろい事多いで。」(「街のおでかけ」篇(その1)より)から始まって、街で見かけたおもろい事をただただ女の子2人が報告し合う。それが自然と漫才に聞こえる。

というのもこのラジオCMは、当時、大阪の吉本の劇場で活躍していた女性漫才師「メンバメイコボルスミ11」が出演している。80年代後半の関西の漫才にしては珍しく、淡々として、テンション低めなのが特徴的。

わたしは週に1回ほど劇場へ足を運んでいる程度のお笑いファンなのですがこのラジオCMを機に、メンバメイコボルスミ11の過去の漫才のネタを探してみてみると、令和のいま、すごくしっくりくるのです。

それは私が大好きな、「Dr.ハインリッヒ」であり、「ハイツ友の会」でありの、関西ローテンション女性漫才の礎のような。同級生ふたりのどこまで本当で、どこまで嘘か分からないお喋りに妙な説得力を感じるのです。

話は戻って、ラジオCMの話。

そうこのCMはCMであってCMじゃない。漫才だからどれだけ尺が長くても、ずっとすんなり聴いていられる。

わたしは今、ラジオCMをつくることの延長で、FM大阪『無理なくつづく(ロングコートダディ)』、J-WAVE『RADIO UDON(男性ブランコ)』などのラジオ番組をつくることもしているのですが、それをやってみようと思ったのは、明らかに、このホンダのラジオCMはきっかけのひとつで。

CMはCM然としていたら、ラジオの場合、特に届かなくて番組のようなCMこそが、いいラジオCMなんじゃないかと思っているのです。

あと受けた影響でいうと、このラジオCMの「その7」に登場する先輩の名前が「なべさん」で、近しい間柄の名前としてしっくりきすぎるなと感銘を受けたので、自分がつくるラジオCMにも、先輩役で「なべさん」なる人物を登場させて、なべさんがまかないでつくるサラダは「なべさんサラダ」という料理名にまでしました。

自分が生まれた年くらいに制作されたラジオCMにここまで影響されて。こんなにおもしろくて、生活のにおいのする、関西AMラジオ的なCM。200年後とかに、昔の大阪の日常として歴史の教科書にでも載るかもしれない。

  • 本田技研工業/ホンダのスクーター
  • 「街のおでかけ篇 その1」(130秒)
  • ○企画制作/電通関西支社
  • ○Pr+企画+C+演出/林尚司

A:街にな、おでかけしたらな、おもろい事多いで。ナンバ歩いとったらな、アベックがな、自転車ふたりのりして、ラブホテル入っていきよった。

そこまでして、エッチしたかったと思うけどな。

B:かなしいなあ、おとなって。

A:こないだ心斎橋でなあ、献血手帳見せて

「僕の趣味献血やねん」

言うて、女ひっかけてるやつおったで。

B:そんなんにひっかけられても、ぜったいについていかへんわ。

A:さいあくや。

B:雨の日になジープのって傘さしてるやつみてん。

A:ファンキーやな。

B:外人に道聞いてるやつもおったで。

A:うそや。

B:ほんま

A:へんやなあ

B:私な、前な、日本シリーズあった日あるやんか。ちょうど試合やってる時と思うねんけどな駅のホームにおってん。

家帰る途中でな電車のろうと思うててん。ほなな放送でな、「業務連絡、業務連絡ハライッパツ」言うたやんか。家帰ってスポーツニュース見たらな、ちゃんと原ホームラン打っとったんや。

A:でも私野球大嫌いや

B:私も大嫌いや

A:何であんなん見るのか判らんわなあ。

B:前、かしビデオ屋行ったらな、ヘルメットかぶったままで、エッチなビデオえらんでる人おったんや。

A:たいへんやな。

B:わかるわ気持ち。かなしいな。

A:街はおもろい事でいっぱいや。

B:家でごろごろしてる場合やないわ。

A:おでかけしよう。

B:おでかけしよう。

A:あんた何でおでかけする。

B:そんなん、私はあれにきまってるやん。

N:マチのおでかけ。たのしいおでかけ。
ブ~ン ブン ブン。
ホンダのスクーター。

  • 本田技研工業/ホンダのスクーター>
  • 「街のおでかけ篇 その7」(130秒)

A:おでかけしたらおもろい事あるで。自動車教習所の車に手あげて「最近のタクシーはちっとも止まらん」ってぶつぶつ言うとるおばあちゃんおったで。

B:うそや、うっとこお母さんちゃうか。

A:そういえば、ちっちゃかった。

B:かんけいないやん。ええ、おかあさんやん。

A:まぁなあ。

B:こないだなんかな。鰻谷でな迷子になって泣いてる子おったんやで。でな「お父さんどこ行ったん」てな優しく聞いたったんや。

A:聞いたったん。

B:ほなな「山へしばかりに」やて。私めっちゃはら立った。

A:めっちゃはらたつ。最近の子供はこましゃくれとる。

B:なぁ。

A:なべさんにな、こないだ車のせてもらったんや。

B:なべさん新車やで。

A:そや、きれいで。あんな汚すのいややから、土足厳禁にしてあるやんか。

B:潔癖症やもんなぁ。くつぬいで車乗るやつやろ、ようやってんなぁ。

A:天神橋行ってな、ゆりかもめ見たんや。

B:かもめかわいいやろ。

A:乗るときくつぬいだやんか。橋のうえにな、くつ置き忘れてしもたんや。気づいてもどったらな、人だかりできとったんやんか。

B:なんで。

A:びっくりしたで。みんな川の中のぞいとった。おかげでくつ取られへんかったんや。めっちゃ高かったのになあ。まだカードの支払い残っとるんや。

B:かもめかわいいやろ。

A:うん。なべさんなあ。

B:なべさんと仲良しやなあ。

A:うん。なべさんな、電話かかってきてな「はい、なべです」って出たんや。嫌いな女の子やったから、「やっぱり、なべちゃいます」って言うて切ったったんやて。

B:その電話、私がかけたんや。

A:……おでかけしようか。きっとおもろい事でいっぱいやで。

B:かもめかわいいしなぁ。おでかけしようか。

A:あんた何でおでかけする。

B:私のアシはあれに決まってるやん。

N:マチのおでかけ。たのしいおでかけ。
ブ~ン ブン ブン
ホンダのスクーター

本コラムは隔週でお届けしていきます。次回は2週間後の12月22日(金)。また皆さまとお会いできますように。

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正樂地咲(電通 6CRP局 コピーライター)
正樂地咲(電通 6CRP局 コピーライター)

ラジオに夢中な思春期を過ごし、電通入社後はラジオCM制作に夢中に。2022年「ラジオCMへの執念」を理由に「やってみなはれ佐治敬三賞」受賞。FM大阪「無理なくつづく(ロングコートダディ)」、J-WAVE「RADIO UDON(男性ブランコ)」の作家も。ラジオ以外で今は、ダスキン、台湾政府観光局、KDDI、ヒガシマル醤油、ニフレルなど担当。生活に近いところの企画が好きで得意です。

正樂地咲(電通 6CRP局 コピーライター)

ラジオに夢中な思春期を過ごし、電通入社後はラジオCM制作に夢中に。2022年「ラジオCMへの執念」を理由に「やってみなはれ佐治敬三賞」受賞。FM大阪「無理なくつづく(ロングコートダディ)」、J-WAVE「RADIO UDON(男性ブランコ)」の作家も。ラジオ以外で今は、ダスキン、台湾政府観光局、KDDI、ヒガシマル醤油、ニフレルなど担当。生活に近いところの企画が好きで得意です。

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