BtoB企業を題材にコピーライティングや企業ブランディングについて掘り下げていくコラムの3回目は、現在進行中のパナソニックの事例を取り上げたいと思います。
パナソニックは2022年4月、パナソニックホールディングスを持株会社とする新体制に移行しました。それまで家電事業などを担ってきた「パナソニック株式会社 アプライアンス社」が社名を引き継ぎ、新生「パナソニック株式会社」として船出することになります。
みなさんの中には「パナソニックはBtoCの企業なのでは?」と思われる方も多いと思います。たしかにパナソニックといえば、冷蔵庫や洗濯機などの家電のイメージが強いし、誰もが一度はパナソニックの製品を使ったことがあるはず。
しかし、家電事業を担うパナソニック株式会社であっても、売上全体に占めるBtoCの家電事業は4割ほど。残りの6割はBtoB事業なのです。つまり「パナソニック」という名前は知られていても、世の中に知られていない事業がたくさんある、というわけです。
甲子園のアレもパナソニック製
同社のBtoB事業で特徴的なのが、消費者とはまったく関わりのないところで黒子のように社会を支えているというより、じつは消費者の身近なところで日々のくらしを支えている、という点です。たとえば、スーパーマーケットで生鮮食品が陳列されている冷凍・冷蔵ショーケースをパナソニックは製造しています。また、今年阪神優勝で沸いた甲子園球場のナイター照明もパナソニック製。もうひとつ例をあげると、クルマに乗る人ならきっと一度は見たことがある、高速道路のトンネルの天井に吊られている巨大な換気送風機。あのような換気設備もパナソニックがつくっています。
このように、なくてはならないものとして日常生活を支えているパナソニックのBtoB事業ですが、BtoBの常として、多くの人がそれを認知することはありません。前回のコラムで「社名を売ることがBtoB企業にとって最大のブランディングになる」と書きましたが、今回取り上げるパナソニックの事例が提示するのは、すでに社名認知が高い企業が、事業内容にまで踏み込んで伝えるにはどうすればいいか、という問題です。そして、この「どう伝えるか」という問題はこれから社名を売ろうとするBtoB企業が直面している、悩ましい問題ではないかと思います。
新生パナソニックのブランディング
ここで、ブランディングの経緯について説明します。冒頭に述べたように、2022年4月、新たに「パナソニック株式会社」という会社が設立されました。ブランド名やブランドのロゴは変わらずとも、新しい会社には新しいブランド戦略が不可欠です。そこで、1年あまり前から水面下で新生パナソニックのブランディングが進められ、同社初のデザイナー出身執行役員である臼井重雄氏のもと、社内にブランドコミュニケーションチームが編成されます。そして、クリエイティブディレクターとしてグッドデザインカンパニーの水野学さんが指名され、そこにDEのプランナー牧野圭太さんと僕が参集し、社内外のメンバーが一体となったプロジェクトチームができあがりました。
企業の意志を集約する言葉を開発
ブランディングの第一歩は指針となる言葉の開発でしたが、100年以上の歴史を持ち、BtoB事業も、BtoC事業もあり、国内外に9万人以上の従業員を擁するパナソニック株式会社。そんな超巨大企業の指針を短い言葉に集約するのは至難の業です。品田正弘新社長に話を伺い、パナソニックミュージアムや迎賓館などの施設を訪問して創業からの歴史を学び、創業者松下幸之助氏の著作を片端から読み込み、何度もミーティングを重ねた結果、「Make New」というアクションワードと日本語のコピー「パナソニックは未来の『定番』をつくっていく。」を開発しました。これらの言葉は、くらしの不便や不自由を解消する革新的な製品をつくり、より豊かな社会の実現に貢献してきたパナソニックの、未来への意志を表現したものです。
オウンドメディアを立ち上げる
新生パナソニックのブランディングは「Make New」の旗印のもとでおこなわれることになりますが、その中心的な役割を担うのが、新たに立ち上げた「Make New Magazine」というウェブ上のオウンドメディアです。当然、BtoB事業の取り組みも「Make New Magazine」を通じて発信されることになります。おそらく四半世紀前であれば、テレビ(地上波)を使って、「Make New」という広告キャンペーンを大々的におこない、BtoB事業を題材にした新聞広告シリーズを全国紙で展開していたはずです。しかし、今は2023年。この時代にふさわしい「伝え方」を考えた結果、このやり方に帰結しました。既存のメディアに囚われない取り組みそのものがパナソニックの「Make New」でもあるのです。
パナソニックの事例は後編につづきます。