「解約料」のあるべき姿を議論 価格戦略とも密接…消費者庁が研究会

「平均的な損害額」以外の実態探る

商品やサービスの「解約料」について、現行法の解釈とビジネスの実態に齟齬があったり、消費者トラブルの件数高止まりなどを受け、消費者庁は12月11日、「解約料の実態に関する研究会」の初会合を開催した。月1回の開催で、約1年程度の期間を想定する。

契約解除時などに消費者が支払う、いわゆる「解約料」の実態把握のほか、不当な解約料の条件や「解約料」にまつわる消費者トラブルを減らす方策を探る。

2022年の解約料に関する消費生活相談は3万1483件で、直近10年間で最多となった2015年の4万1569件からは減少傾向にあるものの、3万件超の水準で推移している。特に「商品」の解約料については、22年は直近10年間で初めて1万件の大台に乗った。

オンラインで開催で開催した。民法や消費者法の研究者で、継続的サービスの解約や、損害賠償の規律と価格に詳しい丸山絵美子教授(慶大法)を座長に、マーケティング、法と経済学、認知心理学の研究者ら5人が出席した。委員からは、「解約料の支払いに伴う、消費者側の不満の分類が必要」などの意見が挙がった。

マーケティングとして解約料は盲点

初回の実施では、マーケティングの中でも価格設定を研究する山形大学の兼子良久准教授が、「国内外を見渡してみても、マーケティング分野で解約料と価格戦略を結びつけた議論はほとんど行われておらず、全くの盲点」と指摘。

兼子准教授は「解約料と企業の価格戦略に密接な関わりがあるのは確か」として、解約料の支払いを条件のひとつとした低価格プランなどを紹介した。

「価格設定において消費者を区分する属性(=フェンス)として『解約料』を含めるケースは、『平均的な損害額』を算定根拠とした解約料とは言いづらい例。たとえば、廉価版のサービス提供で解約料の支払いも生じるが、全体としては低価格なプランがある。

このように商品・サービスの機能と価格に差をつけ、複数提供する『バージョニング』は、航空業界や動画配信サービスなど広い業界で増加している。背景には情報技術の進展で企業としては複雑な価格設定を管理できるようになったことや、消費者ニーズの多様化などがある」(兼子准教授)

しかし、違約金が損害額と関係がない場合、解約料によって収益をあげているとも言える。

「解約料を定めることによって解約率を抑止したい目的であったり、売上予測をしやすくしたいという狙いも伺える。〔こうした解約料の設定は〕長期的には、企業に対する信頼性を毀損する可能性がある」(同)

兼木准教授の発表に対し、法と経済学を専門とする西内康人教授(京大大学院)は、「解約料の設定は、企業のリスク回避行動の表れでもあるのではないか」として、「他国に比べて、日本企業はリスク回避行動を採ることが多いとされる。仮にリスクテイク力を伸ばすべきとなれば、そうした回避行動を正当化するような制度枠組みを設けるべきか、という点も疑問に挙がる」とした。

また、法と経済学の新井泰弘准教授(高知大)は、「価格だけをコントロールするより、価格と解約料の2つを操作したほうが利潤追求はしやすくなるし、直観的には納得できてしまう。しかし、事後的には損失補てん以外の目的について立証しようがなく、消費者側からは企業の本音と建前の区別が難しいと感じる」と述べた。

「解約料の支払いについて、消費者の不満のうち、どれが減らせるものかを仔細に分類すべき。仮に消費者の不満を減らすことに特化するのであれば、理由を問わず、何であれキャンセル可能にするのがシンプルであり強力となる。しかし、そうすると廃棄物が増えたり、環境負荷が増大したりといった別の課題が生まれるはずだ。消費者被害を最少にしていく上で背後にある制約を共有していきたい」(新井准教授)

認知心理学や消費者心理学の有賀敦紀教授(中央大)は、消費者の不満について、「そもそも消費者は自身がキャンセルする確率を過小評価する傾向がある」と話す。

「キャンセルを前提に契約することは考えづらく、解約するという状況はある意味で消費者にとって悪い事態。原因に対する不満や、解約料についてよく考慮せず選択した自分自身に対する不満、望んだ商品やサービスが手に入らないのに解約料を支払うこと自体への不満など、さまざまなものが考えられる。

その中では、選択肢として〔解約料について認識した上で〕選んだのだ、という納得をいかにできるかが、低減の方法としては比較的大事ではないか」(有賀准教授)

次回の開催は2024年1月15日の予定。

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