企業間決済を導入し、地方に営業を置かなくても新規顧客開拓が可能に
本セミナーでは、変わりゆく広告ビジネスから未来を予測するとともに、そこで求められるこれからの価値づくりとその実践について、企業間決済といった経営戦略も含めた構想について、3部構成で紹介された。
第1部講演では、「世界で起こるビジネスモデルの大変革 その時、広告産業はどう変われるのか?」と題し、名古屋商科大学ビジネススクール(東京校)教授の根来龍之氏が登壇し、産業全体で変革を迎える中で広告ビジネスの近未来について説明した。生成AIが検索連動広告の脅威となる点や、キャッチコピー・写真・画像が生成されることによる役割の変化などが紹介された。また、求められる顧客体験やブランディングに柔軟に対応できる広告事業社が成長するだろうとの見解を示した。
第2部講演は、「BtoB企業間決済による顧客囲い込み戦略~広告業界の成功事例~」と題し、アメックスの細谷淳司氏が登壇。 2022年に同社が行った「中小企業の企業間決済についての調査」の結果をもとに、企業間決済の現状と課題、導入メリットについて解説した。まず、国内のキャッシュレストレンドとして、キャッシュレス決済導入についてBtoCでは一般的となりつつあるが、BtoBでは12.5%に留まっていることや、昨今急激に企業間決済を取り扱う企業が増加していることを紹介した。
上記調査結果によれば、発生したクライアントの「支払い遅延」のうち21.6%が未回収 、営業担当者は回収業務に手間を取られているという。また、取引を開始する際の与信審査について、支払いを受ける側の54.1%が与信審査に課題を感じていると回答。また、この調査においては、55.6%が資金繰りに課題感を抱いたことがあるという。
細谷氏は、企業間カード決済が広告主、広告会社の課題の解決につながると強調 。企業間決済導入による広告代理店側メリットとして、与信審査・管理の手間とコストを削減することや売掛金回収のリスクと手間を軽減すること、キャッシュフローの安定化、既存顧客の満足度向上、新規顧客の獲得を挙げている。
一方、広告主側のメリットとしては、経理処理の簡素化・手間軽減、コストの一元管理(コストの見える化)、キャッシュフローの改善(支払期限の延長)、入金漏れ・遅れの回避、ポイント・プログラムを列挙。アメックスは独自の企業間決済の仕組みを持ち、オンライン環境があればどこで も利用可能のため、請求書払いの場合でも既存のシステムを大きく変更することなく、かつ初期投資もなく簡単に導入可能なシステムであることを説明した。今後、日本での企業間ビジネスにおいて、利便性の面からもキャッシュレス決済が主流となりそうだ。
第3部の「まだ間に合う! 広告業界大変革に乗り遅れないためのキャッシュレス戦略」と題されたパネルディスカッションには、求人広告サービスを展開するディップ 西谷龍二氏とデジタルマーケティング支援を提供するPLAN-B百々雅基氏、そして第2部に引き続きアメックスの細谷淳司氏が登壇。宣伝会議の谷口優氏がモデレーターを務めた。
アメックスの企業間決済を導入している上記二社に、その効果について質問した。西谷氏は「キャッシュレスの導入により業務効率化が実現し、コストが削減された」と回答。特に飲食業界は与信管理が難しい企業が多いため、キャッシュレスを導入したことで手間が省けたことを大きなメリットに挙げる。顧客満足度という観点からは、「いかに継続的に広告掲載をしてもらうかが、売上に大きな影響を及ぼす。そういった意味では顧客満足を高めることで継続率が上がり、売上が伸びていくといった好循環が生み出せるようになった」と振り返る。
また、アメックスがさまざまなマーケティング活動 の中でディップについて紹介することで、問い合わせが法人会員から届いているという。全国36拠点を持つディップは1500人を超える営業部隊が活動しているが、既存の営業基盤とは異なる企業から掲載の問い合わせがあるそうだ。「純粋に顧客基盤が開拓できている事例であり、さらに地方となると競合と比較をされることなく1本釣りをするような形での相談ができて、掲載までスムーズに行く点は大きなメリット」と語った。
百々氏は「地方企業の新規開拓に取り組み始めているが、地方の中小企業はオンラインでの情報収集よりも知人のツテがチャンネルになっているためアプローチが難しい。この課題に対して、アメックスの営業が中小企業の方に課題をヒアリングして、そこから弊社がサポートできるような企業を紹介してくれる」とメリットを話す。PLAN-Bが地方に営業所を置かなくても全国に営業をかけられるという体制が構築でき、新規顧客開拓に役立っているそうだ。ユーザー目線でのメリットとして「支払い処理における銀行振り込み手続きが不要になる」、「支払いに関する請求がクレジットカード請求に一次元化される」、「外国通貨取引の決算に使えて便利」の3点を挙げた。
最後に細谷氏は、「パートナーシップを作る全体の一部分かもしれないが、キャッシュレスという観点で新規の顧客獲得、顧客の満足度の向上、その前段における与信や債権回収リスクの軽減という、戦略上の強みの攻めと守りという部分を広告業界でも引き続きご支援できれば」と未来への展望を述べた。