西本願寺の「変革者」との出会い クリエイターは片腕になれるか

自分に縁のある地域とテーマに貢献すること

「京都の西本願寺に定期的に通えることが条件で、ブランディングとマーケティングができる人を探している」というお話だった。そんなことってあるの!と思った。というのも、京都で仕事ができることはもちろん嬉しかったのだが、実家で同居していた伯母が(亡くなっているが)西本願寺の出版部に勤めていたので、小さなころは本当によく西本願寺に遊びに行っていたのだ。

お堂や境内が遊び場で、月1回以上は行っていたと思う。伯母の部屋にはたくさん親鸞関係の本があった。伯母の葬儀ももちろん本願寺派のお坊さんに来ていただいたし、うちの家は代々西本願寺の墓所に納骨している。つまり、僕自身はあまり足繁くお寺に通っているわけではなかったが、いわば薄い門徒(信徒)であった。断る理由がなかった。

「紹介したいのは、西本願寺のトップに就任された、安永雄彦さんという方。東京の築地本願寺の改革に取り組んでこられたプロセスを『築地本願寺の経営学』という著書にされている。今度は、西本願寺のトップとしてお寺の経営改革を手がけられる」とAさんから伺ったので、さっそく購入。12月の中旬に安永さんにお話を伺いにいったところ、様々な論点で意見が合ったこともあり、年明けからブランディングを任していただけることになった。

「まず、変革コンセプトを決めたい」とのこと。さまざまな企業や組織のミッションやパーパスを書いてきたが、浄土真宗の始まりから数えれば800年の伝統を持つ、お寺の改革コンセプトを書くには、歴史と思想をひもといた勉強が必要だと感じた。で、とにかく、周りの人に「自分の今後や、やりたいことを言っておく!」これが大事なので読者のみなさんも、変化の時は、どんどん周りの人に伝えてほしい。

こうして期せずしてフリーランスとなり、初めてのクライアントはお寺となった。期せずして人生後半の仕事に取り組み始めた気がしている。この先どうなるか・どう働くかは定かではないが、人生100年時代と言われるこれからの時間、いずれゆっくりと仕事の重心を故郷の京都に移していき、京都に貢献したいと思っていたので、ちょっと早まったかな、というくらいだ。

そのテーマとして「お寺」の変革はとてもやりがいがある。生まれ育った京都、伯母が勤めていた西本願寺で、自分が今まで培ってきた技術やナレッジを活用できることは幸せだ。考えてみれば、日本の人材は東京に集中しているので、それぞれが故郷に戻り、活躍することはいいことのように思う。

さらに、僕の場合は、孤独・孤立化の問題にとても関心があった。特に、僕自身が就職氷河期世代だが、200万人の同級生の、就職できずフリーターになった多くの人たちはどうしているだろうか。25年経った今、スキルとお給料を積み上げることが難しく困窮しているという記事を何度も見る。多くの同級生たちがどんどん社会の中で孤立するのではないかという危惧がある。お寺という存在がこうした孤独の問題に対して、何か役割を果たせるのではないか?と思ったのだ。

写真 人物 集合 12月7日のブランドマーク・タグライン発表会にて。中心が安永雄玄西本願寺執行長。右が京都のデザイナー、サノワタルさん。
12月7日のブランドマーク・タグライン発表会にて。中心が安永雄玄西本願寺執行長。右が京都のデザイナー、サノワタルさん。

そこから一年、なんとか走り切った。ブランドコンセプトを決め、タグラインとブランドマーク(ロゴ)を決めて、新しい西本願寺の方向性を内外に示すところまで来ることができた。そんなプロセスを振り返って、変革の仕事をしている方々にヒントを提供できればうれしい。方向性を形にしていく中での経験や気づきを、このコラムシリーズの中で皆さんにお伝えしたい。

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原田 朋(クリエイティブディレクター/PRディレクター/コピーライター)
原田 朋(クリエイティブディレクター/PRディレクター/コピーライター)

博報堂クリエイティブディレクター、スマートニュース広報責任者を経て、2023年独立。コピーライター出身の発想力と、テックベンチャーでの企業広報経験を掛け合わせ、ブランドの言葉を大切にした統合マーケティングコミュニケーションを実践。Code for Japan理事としてシビックテック普及にも注力。博報堂フェロー。

原田 朋(クリエイティブディレクター/PRディレクター/コピーライター)

博報堂クリエイティブディレクター、スマートニュース広報責任者を経て、2023年独立。コピーライター出身の発想力と、テックベンチャーでの企業広報経験を掛け合わせ、ブランドの言葉を大切にした統合マーケティングコミュニケーションを実践。Code for Japan理事としてシビックテック普及にも注力。博報堂フェロー。

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