データマーケターとこれからのキャリア――超・専門人材の部署異動で広がる可能性とは?(講談社×サッポロ不動産開発)

データの利活用は企業にとって当たり前に取り組むべきものとなってきました。しかし、データは収集・蓄積してみたものの、有効に活用できずに課題を抱える企業も多くあります。本連載ではサッポロビールでデータ利活用を推進し、直近では「ヱビスブランド」のファンコミュニティ「ヱビスビアタウン」の仕掛け人としても知られる福吉敬氏がホストとなり、
企業内でデータ利活用を推進するマーケターと対談。今回は今年9月に酒類メーカーからグループ内の不動産企業に出向した福吉氏と、講談社においてデータ利活用推進として入社し、8月から女性メディアを中心とした営業を担当する第二事業本部コミュニケーション事業第二部に異動した松村氏が対談。二人の出向・異動から見えた、データ人材のキャリアの可能性とは?
【本文中・敬称略】

写真 人物 プロフィール 講談社 第二事業本部コミュニケーション事業第二部 部次長 松村 吏司氏 サッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏
  • (左から)
  • 講談社 第二事業本部コミュニケーション事業第二部
  • 部次長 松村 吏司氏
  • サッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏

ノーコード、ローコードに頼りすぎるのは危険!?

福吉:私は9月にサッポロビールからグループ内のサッポロ不動産開発に出向しました。これまで、酒類メーカーであるサッポロビールで顧客を理解し、理解することによって顧客により良い価値を還元できるようなデータの利活用を進めてきましたが、今は顧客データ利活用にとどまらず、不動産事業におけるDXを担う役割になりました。

松村さんは、講談社が提供するデジタルマーケティングサービス「OTAKAD」を担当していて、なかなかお客さまと接点を持てないメーカーがお客さまを理解するために必要な各種データの提供でパートナーとして一緒にお仕事してきました。

そして、そんな松村さんも僕と時を同じくして、異動になり、いまは女性誌を担当する事業部に配属になったということで、今回は組織内におけるデータ利活用の話にとどまらず、データに精通した人材のキャリアについても言及できればと思っています。

9月から職場が変わり、改めて「自分にはこれができます」と明確に言える必要性を改めて感じています。なぜなら僕や松村さんは「営業ができます」とか「部長としてマネジメントができます」のように、わかりやすく自分にできることを提示することが難しいと感じるからです。

僕の場合には、「データを見ることができる」というのがスキルのひとつなのですが、そこには当然ながら、データの収集・分析の先にある価値提供も含まれます。ただ、その価値の部分を伝えるのが難しいとも感じます。

松村:確かにデータを「見ることができる」あるいは、「使える」「連携できる」などのスキルを持つ人は増えた印象です。しかし、実際にデータに関して大切なのは、データを解析した先に何を導き出せるか。しかし、データを基に新しいアイデアを創出できる人は決して多くはないですよね。これからのデータに精通した人材のキャリアの可能性を考える際、この領域にまで至れるか否かが試金石になるように思います。

福吉:データの先にある価値の重要性は、個人のスキルの話にとどまりません。なぜなら組織としてデータ利活用を推進できるかどうかでも同じ論点があると考えるからです。

この連載では、組織としていかにデータ利活用を推進できる体制をつくれるか?をテーマにいろいろな企業のデータ担当の方と対談を重ねてきました。他社を見ていても感じることですが、データを収集し始める前に「なんのためにデータを収集するのか?」。その目的を明確に設計できるかどうかが、企業がデータ利活用をうまく推進する上で重要だったりします。

「そんなこと当然ではないか」と思われるかもしれませんが、案外「これまで取れなかったデータが取得できるようになった」ということだけに満足してしまうケースが散見されます。

CDP立ち上げ時の失敗パターンとしてよく出てくるのが、多様なデータは取得できるようになったものの、実際のマーケティング活動に生かすには、とてつもなく精緻なマーケティング・ミックス・モデルをつくらないとならなくなってしまい、結果として実務に生かせないデータになってしまうということがあります。

松村:CDPを構築して「こんなデータまで取れるの!」と驚愕していたのだけど、あまりに多様なデータが取得できすぎて、それぞれの項目をどう読み解けばいいのか。解釈できる人が、ほとんどいなかった…なんてことは往々にしてありますよね。

福吉:松村さんはGoogleに在籍していた経験もあり、私たちのような一般企業とは比較にならないほど多様なデータが取得できる環境にいたわけですよね。Googleがすごいなと思うのはデータ収集するだけでなく、それを他者も使いやすいよう、成型して外部に提供しているところ。Googleが提供するデータを教師データとして一般の企業が活用することも可能です。

松村:GoogleはGoogle Analyticsなど、そのデータを分かりやすく活用できるソリューションも提供しています。一方で、それらのデータの裏側の仕組みを理解していないと、リスクも発生すると感じています。

福吉:データの裏側を理解することもそうですし、最近は「ノーコード・ローコード」を謳うソリューションが増えていて、ここにも危険があるのではないかと考えています。何かしらのエラーが発生した際、コードなどの基本を理解していないと、なぜエラーになったかがわからず、その解除方法がわからないということも多く発生しますよね。

松村:それは特に若い世代に対して感じる懸案ですね。私の世代だと、入社してまず1年はでコードを自分たちで書いていました。ある程度、裏側のことも理解できているから、エラーが起きたとしても、どの辺に問題があるのかが勘所でわかりますよね。

写真 人物 個人 講談社 第二事業本部コミュニケーション事業第二部 部次長 松村 吏司氏

データのプロがあえてデータを見せない選択をすることも

福吉:データも同様、データをなぜ見るのか、そのデータがどこでできているのか、それをどう成型するのかそのデータそのものの仕組みを理解しない限りは読み間違う可能性があります。

またこうしたデータに関する知識は一部の部門だけでなく、より多くの社員が理解している必要があると考えています。そこで私はサッポロ不動産開発に移籍してから、データの裏側の仕組みなど、社内に対してレクチャーを始めています。データを取得する入り口は各部門に点在しているので、だからこそある程度のデータに関する知見のある社員を各部門で育てていく必要があると考えているのです。

松村さんも組織内でデータを活用できる知見を広げる役割があると思うのですが、出版社のような個々人の企画制作力が重視される環境だと、データに頼らない感性も重視されるはず。そのあたり、どのようなバランス感で皆さんとコミュニケーションをとっているのでしょうか。

松村:特に、編集長といった職種だと感性を重視するイメージを持たれるかもしれせんが、実際には成長しているメディアの編集長は、自分たちのコンテンツに対する読者の反応をより精緻に知りたいというモチベーションがとても強いです。なので、データに対しても積極的に活用したいというニーズを感じています。

ただ、現在は多くの出版社が同様だと思うのですが「読者のコミュニティ化を進めるべき」、「会員化が重要である」という業界全体の流れの中で、そうした仕組みを作ってはみたけれど、そこで得られるデータを含めて活かし方に悩んでいる印象です。このあたり、僕たちのようなデータを見ることができる人間と編集長が対話をしながら、互いのアイデアを壁打ちしていくと、新しい展開が見えてきそうな気がしています。

福吉:雑誌は古くからあるメディアですが、ファンコミュニティのような場をつくる動きがすでにあったことは先見の明があったと言えるのではないでしょうか。もちろん、こうしたコミュニティから得られるデータをどう事業に生かすかは、松村さんが言うように、データが分かる人との対話が重要になりそうです。

先ほど、コンテンツに対するユーザーの反応を知りたいという編集部からの声があるという話がありましたが、特にコンテンツにかかわることだと、どこまでデータを提示すべきか、は悩むところもあるのではないでしょうか。

松村:そうですね。僕も、そこはよく迷います。トレンドをつくってきた方たちなので、

データに基づいて、あれこれ言いすぎると逆にそれが発想の飛躍を阻害してしまうことに

なりかねないという危惧も抱きます。ですから、サイトの仕組みなど、明確に改善できることについては、データで提示しますが、アイデア会議のような場では、あえてデータは見せないようにしています。

福吉:松村さんのようなデータに強い人材が、データの話をあえてしないという選択をするなんて、すごいですね。

松村:メディアはPVのような数値だけ伸びればよいわけではなく、そのメディアらしさを体現する記事の存在も必要なのだと理解する経験があったからだと思います。そうしたコンテンツは、なかなかデータ解析の延長では見えてこないものでもあります。

福吉:メディア運営でデータを見すぎると、内容が中庸に向かってしまうということはよくおきますよね。僕はサッポロビールで「ヱビスマガジン」というオウンドメディアを運営してきましたが、そこでも松村さんが言うような経験をしました。

例えば、「ヱビスマガジン」では「幸せを呼ぶ『十日戎』って関西だけの祭りなの?と神社の人に聞いてみた」という記事を出していたのですが毎年、1月の十日戎の時期になると、多くの人が来訪する人気コンテンツになっていました。単純に数字だけを見ていたら「歳時に関するコンテンツはユーザーを集めることができる。だからクリスマスもバレンタインも記事をつくろう」という発想になってしまったかもしれません。

しかし、ちょっと考えれば、歳時なら何でもよいわけではなく、「ヱビスビール」というブランドとの親和性を考えれば、日本の四季や生活に寄り添うコンテンツを発信すべきで、海外発祥のイベントまで取り上げるべきではないですよね。

松村:例えば、講談社には美容メディアの「VOCE」があります。タイアップ広告などはクライアントさんに評価いただいていますが、こうしたメディアがオンラインのディスプレイ広告で売上をどんどん拡大させていくべきかと言えば、少しマッチしないかもしれません。

そういう事業が中心となるとすると、PVなどの数値だけでなく、ブランドの姿勢を訴求するコンテンツも重要になってくるはず。いずれにしろ、メディア運営では「自分たちは何をすべきか」を決めることができる、意思決定者の存在が重要ですよね。

福吉:目的の言語化ですね。そして読者もクライアントも「VOCE」がこれまでブランドとして約束してきたことを守り続けてくれるから、ついてきてくださるということがありますよね。

写真 人物 個人 サッポロ不動産開発 経営企画部DX推進グループ 福吉敬氏

デジタルの知識は2年で過去のものに、学び続けることが大事

福吉:ここまで松村さんと話してきて共有できたことは、データそのものからは示唆を導きだせない。大事なのは、そのデータを読み解き、翻訳して説明できる力だということです。そして、こうしたスキルを持つ人を会社は育てるべきだし、会社から機会をもらった人は自らも学ぶべき姿勢を持つべきですよね。

松村:学ぶということに関して疑問に思うのは、社内でデータを非開示にしている会社です。私はいろいろな会社に行ってその会社のデータを扱う人たちとお話をさせていただく機会が多いのですが、まったく開示しない会社もあります。会社のルールやプライバシー等理由は多くあるのですが、全部非開示にしていると何の発展性もありません。

福吉:データの民主化ですね。

松村:今、事業に関わっている人が、ちょっとデータを見始めると、今までやってきたことに自信が持てるようになります。逆に仮説がちょっと違っていたということが分かっても、改善することができます。

福吉:私事ですが、今、複数のIT関連の試験を受験しようと準備しています。再度、周囲に教える立場になったので、改めて勉強をしているのです。だからこそ強く感じるのですが、若い人ほど基礎学習をもっとやった方がいいな、と。

松村:当社でチームに新しいメンバーが入ってくると、必ずGoogleの「アナリティクス アカデミーコース」を受講してもらっています。基礎知識だけを身に着けてもリアリティはないですが、学んだことを実務の中でわからないことがあった際に再度、見直すことで生きた知識になっていくのだと思います。

福吉:学び続けることの重要性は、若い人たちだけでなく全ての方に当てはまります。僕も若い人から聞かれて、言っている言葉自体が分からないということが起きたりします。デジタルの知識は2年経ったら完全に過去のものとなる。僕たちも知識のアップデートをし続けることはすごく大事ですよね。

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