(本記事は月刊『宣伝会議』2023年10月号の転載記事です)
ジョブ理論×ChatGPTでオクトーバーフェストを考える
ジョブ理論は、消費者が製品やサービスを「雇う」理由を理解し、その「ジョブ」を満たすことで価値を提供するという考え方だ。今回、このジョブ理論とChatGPTを組み合わせ、具体的な企画例としてオクトーバーフェストについて考えてみる。
まず、来場者のジョブを理解するために、ChatGPTにジョブ理論を知っているか聞き、また、来場者の立場に立って、ジョブ理論で考えてもらったあと、以下のような質問をした。
では、具体的にオクトーバーフェストを考えてみて、
- 1. ジョブ理論に基づき、どのような企画をすればいいのか、また
- 2. その効果測定をするためのデータ取得方法、
- 3. そのデータ分析方法、について詳細に教えてください。
実際のChatGPTの返答はこうだ。
(前略)
- 1. ジョブ理論に基づく企画
- オクトーバーフェストの主なジョブは「楽しむ」「新しい経験をする」「友人や家族と時間を過ごす」「ビールや食べ物を味わう」「文化を学ぶ」などといえるでしょう。これらのジョブに対応する企画は以下のようになります:
- ──ビールテント:地元の醸造所や世界各国のビールを取り扱うテントを設け、多種多様なビールを提供する。
- ──音楽:伝統的なバンドやエンターテイナーを招待し、観客が楽しめる環境を作る。
- ──フード:ドイツの伝統的な食べ物や、その他の飲食物を提供するブースを設ける。
(中略)
- 2. 効果測定のためのデータ取得方法
- QRコードやモバイルアプリを使用して、以下のようなデータを収集します:
- ──チケット販売データ:購入者の数、購入時間、購入したチケットの種類(一般、VIPなど)。
- ──ビールと食べ物の購入データ:どのテントやブースが一番人気であるか、どの商品が一番売れているかなど。
(中略)
- 3. データ分析方法
- 収集したデータを以下のように分析します:
- ──売上分析:ビールや食べ物の販売データから、どの商品が売れ筋で、どの時間帯に最も売れているかを分析します。これにより、在庫管理や次回のメニュー作りに役立つ情報を得ることができます。
- ──参加者の動向分析:活動参加データやチケット販売データを元に、参加者の動向や興味の傾向を分析します。これにより、人気の活動を把握したり、次回のイベントでどのような活動を増やすべきかのヒントを得ることができます。
- ──満足度分析:アンケートデータから、参加者の満足度を測定し、改善すべき点を特定します。
以上の企画と分析を通じて、オクトーバーフェストの開催者はイベントを改善し、参加者のニーズをよりよく満たすことができ、結果的には売上の向上を実現できるでしょう。ただし、データのプライバシーとセキュリティには十分注意を払うことが重要です。
ジョブ理論に基づく企画では、来場者の潜在的なジョブを満たすためのアイデアや、効果測定のためのデータ取得方法では、QRコードの様々な応用例、分析方法では、多角的な分析が述べられている。
このように、ジョブ理論をChatGPTに適用することで、企画立案の質が向上する可能性がある。具体的なデータ取得の方法も検討できる。消費者のジョブの理解から始め、ジョブを満たすような企画や、その評価をChatGPTであらかじめ行っておくことは、有用になってくるはずだ。
Code Interpreterを用いてヒートマップを描いてみる
では次に、ChatGPT Plus利用者に対して2023年7月から利用可能になったCode Interpreterを用いたデータの分析方法についても触れたいと思う。
本場ドイツのミュンヘン市は、オクトーバーフェストのデータをOpen Data portalにて公開している。Code Interpreterを用いて、分析してみよう。
csvデータをアップロード後に、「このデータは何ですか?説明してください。」と尋ねると、各行がどのようなデータを示しているか、日本語で解説してくれた。
さらにここでビジネスに役立てるために、要素ごとの関係性を確認したい。例えば、「各列の要素同士の相関のヒートマップを描いてください。要素名は英訳を用いてください」と聞くと、【図1】と共に下記の回答があった。
上のヒートマップは、オクトーバーフェストの各データ列の間の相関を示しています。色の濃淡は相関の強度を示し、数値は具体的な相関係数を示しています。相関係数は-1から1までの値をとり、1は完全な正の相関(一方の変数が増加すると、もう一方も増加する)、-1は完全な負の相関(一方の変数が増加すると、もう一方は減少する)、そして0は相関がないことを示します。
このヒートマップから、以下のような情報を読み取ることができます:
- ──ビールの価格は年と正の相関があり、つまり年々ビールの価格は上がっています。
- ──同様に、鶏肉の価格も年と正の相関があります。
- ──ビールの消費量と全体の訪問者数には強い正の相関があります。これは、より多くの訪問者がいる年にはより多くのビールが消費されることを示しています。
- ──鶏肉の消費と全体の訪問者数や1日当たりの訪問者数には正の相関があります。
ただし、これらの相関は因果関係を示すものではないことに注意してください。たとえば、ビールの価格が上がるとビールの消費量が減少する、というような結論を導くには、他の可能な要因を制御した上で、より詳細な分析が必要です。
ChatGPTは、年と様々な要素の関係における、相関の事実の分析をしてくれる。
【図1】に関して著者の気付きも加えると、年を経るにつれ、ビールは価格も消費量も上昇している。チキン価格は伸びる一方、負の相関があることから消費は落ちこんでいることがうかがえる。チキン業者は、価格を下げる検討をしても良いかもしれない。
また、ChatGPTは、上記の相関は因果関係を示すものではないと注意を促してくれている。もし興味がある場合は、著者が2023年2月号掲載の「脳科学の視点」で触れた「育毛剤の効果」に関する因果推論の話を参考にしていただくと幸いである。
今回、ジョブ理論とChatGPTを組み合わせるアイデアと、相関分析の方法を解説した。次回以降もChatGPTをマーケティングやデータサイエンスで活用する方法を考えていきたい。
富士通
研究本部 人工知能研究所
研究員
山根宏彰氏
慶應義塾大学より、「キャッチコピーの自動生成に関する研究」で博士号(工学)を取得。大学院ではキャッチコピー研究の傍ら、慶應大学ビジネス・スクールにてイノベーションについて学ぶ。東京大学特任研究員時代にマルチモーダルAI研究、京都大学特定研究員時代には脳情報デコーディングに従事。理化学研究所
革新知能統合研究センターでの循環器系AI研究を経て、2022年9月より現職。AI技術コンサルティングも行っている。https://inside-brain.net/ja/