小売業とメーカー企業の「エンド・ユーザー」の捉え方の違いについて

皆さんが日々の業務でよく使う「エンド・ユーザー」という言葉。この言葉の意味を調べると、「商品やサービスの最終的な消費者」と出てきますが、今回の記事では店舗を利用したり、買い物をされる「お客さま」として定義づけてお話していきます。

今回は、小売業とメーカーそれぞれにおける「エンド・ユーザー」の考え方がテーマです。私は小売業の組織や店舗で働く人たちと向き合う時に、必ず“Retail is Detail”と言う言葉が頭に浮かびます。小売業が取り扱う商品やサービスや店づくり、そして、商品の調達や物流などを考えると、それらは常に細かな作業やルールの積み重ねでできていることを感じるからです。

また、小売業の仕事に携わる多くの人が大切にしている言葉に次のようなものがあります。それは、アメリカ・ニューヨーク州などで展開するStew Leonards(スチュー・レオナード)というスーパーマーケットのポリシーにある以下の言葉です。

Rule1: The customer is always right! ルール1:お客さまはいつも正しい。
Rule2: If the customer is ever wrong, reread Rule1. ルール2:もしお客さまが正しくない
と感じたらルール1に戻れ。※参考写真1

 

これはStew Leonardsの各店舗に刻まれている言葉です。しかし、この言葉は、Stew Leonardsだけではなく、海外の小売業がエンド・ユーザーであるお客さまとの向き合い方をわかりやすく表現しています。日本の小売業の関係者が海外へ店舗視察に行く際にも、多くの店長やバイヤーがこの店舗に立ち寄っているほどです。

そのような海外視察の結果もあり、日本の小売業においても、このような考え方や意識は深く浸透。店舗の商圏に住んでいて、お店で接する全ての人たちのことを“お客さま”として、サービスや商品の提供が行われているのが日本の小売業です。

例えば、小売業のバイヤーや店舗のスタッフに「皆さんのエンド・ユーザーは誰ですか?」と尋ねれば「それは全てのお客さま」と言う答えがすぐに返ってきます。

では、ブランドをはじめ多くの商品を持つメーカー企業から捉えた場合のエンド・ユーザーとはどのような人たちでしょうか?

 

メーカー企業にとっての「エンド・ユーザー」とは

メーカーの商品開発に関する資料や、小売業との商談資料や提案書の文面ではよく「ターゲット(層)」と言う単語を目にします。ターゲット:的、標的、目的、対象…。どれも物々しい捉え方や表現に映りますね。小売業とメーカーの「エンド・ユーザー」に対する考え方には、こうした点にも大きな違いが存在しています。この違いこそが商談(話し方)や展開(販売の仕方)においても温度差やズレとして現れる原因。言葉の意味が一致していないままでは真の協業や協力は生まれません。では、小売業とメーカーが持つ「エンド・ユーザー」観の違いを近づけるためには、何が必要なのでしょうか。

 

ショッパーのインサイトを追求することで合致点を探る

ショッパー・マーケティングやショッパーインサイトと言う言葉が日本で使われるようになって10年以上が経ちます。私の部屋の書籍棚にも「ショッパー・マーケティング」(財団法人流通経済研究所著)・「インサイト」(桶谷功著)が並んでおり、今でも時々精読しています。お客さまをカスタマーやコンシューマーでなく、ショッパーとして捉えてその行動や心理を掘り下げることによって、小売業とメーカーの接点をつくる考え方が成り立っていくと思うのです。

米国の消耗財メーカーの業界団体ではショッパー・マーケティングを次のように定義しています。「ショッパー・マーケティングとは、ショッパーの行動に関する深い理解に基づいて開発され、ブランドエクイティを構築し、ショッパーを惹きつけ、購買決定に導くために計画されたすべてのマーケティング刺激からなる活動」。

この「ショッパー・マーケティング」の定義を捉えたうえで、小売業やメーカー企業の実務や商談で活かすためには、次の点を理解し、注意していく必要があります。

■売り場におけるショッパーの買い物行動について
 →ショッパーの属性や売り場によって買い物行動は異なる

■店舗の業態(GMSやドラッグストアやコンビニエンスストア)によるショッパーの違い
 →店舗の利用目的が異なれば、ショッパーの意識や買い物行動は違う

■ショッパーの買い物に影響を与えるモノや人の存在
 →代理購買や、商品の選択の際に影響を与える人について

■ショッパーの実店舗における商品購入とECにおける商品購入の特性(ちがい)
 →買い物脳とウェブにおける選択脳の違いを理解する

■デジタル化によって起こるショッパーの買い物行動の変化
 →デジタル化によって変わる買い物行動と変わらない行動について

メーカーは小売業のバイヤーをはじめ、担当者との商談や商品の説明を行う前に、これらをチェックを怠らないようにする必要があります。メーカーが企画を展開する際に「買い物客の行動に期待した変化がない」「デジタルツールを使用したが思ったほど効果・売上につながらない」という原因には、こうしたショッパーの行動やインサイトを捉えられていないことが背景にあることを押さえておかなければなりません。

 

ショッパーの理解が小売業とメーカー企業の関係を強化する

小売業においてはインストア・プロモーションを展開する際、「52週計画」や「104週計画(52週を、さらに平日と週末に分けてマーチャンダイジングを検討する材料)」を元にしながら、ショッパーを捉えた新しいテーマや切り口を常に考えています。小売業が週別の計画を元に運営や販促を行うことは長年の方法ではありますが、競合との差別化や新たな需要の創造を図るには、それだけでは対応が難しい時代に差し掛かってきました。

近年ではこれらに地域性や地産を重視する「ローカル」やSDGsをはじめとした「持続可能な開発」「エコ活動」への積極的な取り組みも見られますが、小売業にとっては商圏のショッパー(買い物客)の理解が一番に重視されています。

メーカーにとっても市場における競合企業や商品の多い中、ブランドを大事に思い、重視することは大切なことです。しかし、「自社のブランドのターゲット」という考え方を持ちながらも、「取り組む店舗(その商圏)におけるショッパーは誰か?」「ショッパーが持つ厄介な課題を我々メーカーのブランドや商品がどのように解決するのか?」「そこに購買行動や消費行動と言う習慣をつくることで、新しい売上につながることができるのか?」を意識し、提案することが小売業との関係づくりでは重要な〈鍵〉になります。

次回はショッパーとの接点である「今、売り場で起こっていること」について解説します。

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リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。




倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)
倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。

倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。

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