宣伝会議は、2023年11月29日(水)、30日(木)に九段会館テラスにて「宣伝会議マーケティングサミット2023」を開催しました。2日間で合計34セッションの講演、展示ブースでのプレゼンテーション、マーケター交流会などが開催されました。本稿では、事業活動に寄与するオウンドメディアのあり方について議論したセッションについてレポートします。
なお次回の宣伝会議主催のリアルイベントは、2024年2月29日(木)、3月1日(金)に「アドタイ・デイズ2024春」を浜松町コンベンションホールで開催予定です。
企業起点と社会起点
─(オンライン上の)オウンドメディアというとたくさんの種類があります。オウンドメディアと聞いて思い描くものも各々で異なりそうです。整理をお願いできますか。
平山:4象限に分けて整理すると分かりやすいです。図1では、縦軸としてコンテンツが読める場所が「オフィシャルサイト」なのか、「ソーシャルメディアのプラットフォーム」なのかで分けています。一方で横軸は「企業/商品起点」のコンテンツか、「社会/個人起点」のコンテンツかで分けました。左側はコーポレートコミュニケーション要素が強く、右側はマーケティング要素が強いメディアと言えます。
2010年代後半から、企業はステークホルダーから「社会の一員としてどう貢献できるのか」を強く問われるようになりました。その機運を受けて、オウンドメディアも、社会的な視座に立って企業の考えを伝えていく内容が増えてきました。
オウンドメディアの役割は?
─企画運営しているオウンドメディアについて教えてください。
平山:私はキリンホールディングスのコーポレートコミュニケーション部で、note公式アカウントや、オウンドメディア「KIRINto」の運営、ソーシャルメディアの責任者をしています。Xは商品起点の公式アカウントもあれば、キリングループ全体の発信拠点としてのアカウントもあります。Instagramは商品の楽しみ方を知ってもらう内容です。
2019年に立ち上げた公式noteは、図1の4象限の左上にあたります。従業員の声を丁寧に伝えることで、共感を育成するメディアコミュニティとしての役割を担っています。
noteの中でも、Social(ソーシャルイシュー)、Process(経緯)、Personal(個人的な言葉)の3要素が入った記事はよく読まれる傾向にあります。2021年からは、社会起点でオピニオンリーダーと対談する「KIRINto」を公式サイト内に展開しています。
いずれのオウンドメディアも目指しているのは「だからキリンが好きなんだ」と思ってもらうこと。獲得したい企業イメージを貯めるためのメディア設計をし、広告では伝えきれないグループのビジョンをやわらかく伝え、メディアに合わせたコンテンツで企業としての人格の輪郭を表現することを意識しています。
企業によってはマーケティング寄りにオウンドメディア戦略を立てているところもあると思いますが、我々の場合はテレビ広告を中心にお客様との接点が取れているので、オウンドメディアは、広告では実現できない企業として伝えていきたいことをカバーする位置づけです。
原山:私はニチレイフーズのマーケティング部広報グループで、企業広報、商品広報を行っています。オウンドメディア「ほほえみごはん」やXやInstagram等のウェブ業務全般の企画運用を担当しています。
私たちの場合は、4象限の右側にあたるマーケティング寄りのオウンドメディアの使い方をしています。
ニチレイフーズは冷凍食品の会社なので、当然ながら冷凍食品を使っていただきたいのですが、その手前には「冷凍」という機能自体に親しんでいただきたい、という思いがあります。というのも、冷凍食品は店舗の中でも冷凍ショーケース内にしか置くことができませんから、お客様との接点も限られます。
一方でオウンドメディアであれば、いろいろなところで接点を持てるだろうということで2016年にオウンドメディアの「ほほえみごはん」がスタートしました。冷凍に関しての情報提供をすることで、冷凍が食のお悩み解決になること、「冷凍食品はニチレイ」と覚えてもらうことを目指しています。
食を扱うメディアなので、シズル感も大切にしながら、UI・UXにも注意しながら運営しています。記事の内容は、「白菜の冷凍保存法」のような暮らしに役立つ記事もあれば、他社とのコラボや、漫画で楽しく読めるレシピ紹介もあり、楽しくお伝えすることを意識しています。
平山:ターゲットが明確で課題解決型 のオウンドメディアですね。
事業に貢献するメディアへ
─オウンドメディアの運用体制は?
平山:社内のブランド担当から「商品にまつわる取り組みについて発信したい」とオーダーが入ることが多いので、オウンドメディア担当が連携しながら、ブランドとして伝えたいことについて、どの部分が「(広告などの)オウンドメディア以外のコミュニケーション」で伝えきれていないのかを確認していきます。そして、どこを伝えるとよりメリットが生まれるのか、情報を整理し、企画の骨子をつくっています。
SNSの運用や、取材・編集は外部の制作パートナーに入ってもらいますが、ライターやカメラマンといったクリエイターをアサインするときは、私から直接声をかけることもあります。なぜかというと、まずクリエイターにキリンのことを好きになってもらう必要がありますし、我々のメディアのトーン&マナーにしっかりフィットしそうな方にお願いしたいからです。
原山:「ほほえみごはん」の場合は、企画の部分から外部パートナーに委託していますが、KGI、KPIを明確にして、社内のメンバーも、外部のパートナーも誰もがどの施策をやっても、共通言語で語れるような環境づくりに注力しています。
平山さんがおっしゃるとおり、オウンドメディアに携わる人達が楽しんでいないと、コンテンツににじみ出てしまうものがあります。
平山:そうなんです。みんなが同じ方向を向いたコンテンツというのは、気持ちもコンテンツにのりますね。体制を整えることも、オウンドメディア担当のコミュニケーターとしての大事な役割になっています。
原山:オウンドメディアは環境づくり、企業文化をつくる土台という見方もできますね。
企業のオウンドメディアですから、事業貢献するメディアになっているかどうかも大事になります。企業・商品ブランド好意度向上をKPIとして、ブランド価値向上というKGIに近づけたかどうか、「ほほえみごはん」の読者調査を年1回実施して次年度の施策に活かすようにしています。PV数といった数値も大事ですが、質的なところも調査をしてPDCAを回すようにしています。
平山:こうした調査を実現するには、ある程度コンテンツの量がないと比較できませんし、効果測定までたどり着いているのがすごいですね。
原山:オウンドメディアは一つの手段にすぎません。ブランド価値向上にどれだけ紐づいているかを「道しるべ」にすることで、何か判断に迷ったときも「こっちのほうがブランド価値向上に寄与するよね」という会話がチームメンバーでできるようになりました。(敬称略)