マーケティングにおける投資効果がどの程度あったか、そのmROI(Marketing Return on Investment)改善を図るためのアプローチとしてMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)が改めて注目されている。MMMとは、売り上げ、サイト来訪数などのビジネス指標と、メディア出稿量や外部要因を時系列データで集め、統計モデルを用いて各マーケティング活動によって生み出された成果を分析する手法である。
MMM導入にあたっての現状と課題
マーケティングの新しい施策を実施するためには、関係者の合意形成が欠かせない。導入から実行に至るまでに関係者の数が増えれば、必然的に議論の量と頻度が増加する。特にMMMに関しては、専門家のサポートを得ながら、分析手法などの統計リテラシーのギャップを埋めることで、マーケティングの成果につながるだろう。
電通の福田氏によると、MMMの導入企業が増える一方、うまく運用ができていないという相談が増えているという。続けて次のように話した。「大事なことは、目的を明確にし、できることとできないことを合意形成すること。そして、効果検証のすべてをMMMに背負わせないことです。MMMとそれ以外のアプローチを考え、最適解を提示することが今のマーケターに求められています。MMMにも得意分野と苦手分野があるため、成功事例と失敗事例を踏まえて、クライアントさまが意思決定をスピーディにできるよう、わかりやすく言語化していくのも我々の役割です」
電通クロスブレインの川邊氏は投資収益率に関連するアプローチについて、「生活者一人ひとりの動きから導くアプローチ、過去のデータから生活者集団全体の動きを予測するアプローチの2つがあります。クライアントさまの解決したい課題に対して適切なアプローチ、かつ、合意形成しやすいアプローチを考える必要があります」と語る。
データ起点のmROI改善
MMMで統計解析をする際、企業によって臨機応変にモデルを作成する必要がある。広告が直接売上に貢献する場合もあれば、広告が検索数に影響し、その検索が売上に貢献する場合も存在するため、複数のパスを組み込んでモデルを構成する必要がある。その他にも、店頭施策や価格プロモーションをモデルに組み込むなど、議論を重ねながらマーケティング施策がどの程度売上やコンバージョンへ寄与していたのかを推定する手法がMMMだ。
「最近ではより手軽で、より短期間で行うMMMがクライアントさまからの要望としてあります。それを受けて、電通では『Fast-MMM』というツールをつくりあげました。クイックにデータ分析ができることで、より早くマーケティング施策の合意形成ができることとなります」(川邊氏)
時系列データが集まらない課題
川邊氏によると、MMM施策に取り組みたくても過去数年間を遡った時系列データが揃わない、多岐にわたるマーケティング変数を整理しきれないといったクライアント企業からの問い合わせに対して、簡易的キャンペーンの評価「Casual Impact」という手法を提案しているという。具体的には、時系列分析の手法を活用し、集めるデータを少なく、モデルもかなり簡易化したものだ。データ収集にかかる時間を短くし、キャンペーン前や実施中にある程度のデータ収集・分析準備を行うことで、キャンペーン終了から効果量測定までの時間を短縮し、次の施策実施に向けて速やかなPDCAを提供することができる。
「クライアント様の商材や、効果を計測したいKPI、入手できるデータによって、スタンダードなMMM、カスタマイズしたMMM構築からMMM以外のアプローチまで最適解を提案しています」(川邊氏)
意識調査をベースとしたmROI改善
福田氏は「キーワードは、スピードとカスタマイズ。PDCAのスピードが事業貢献のスピードに比例してきます。カスタマイズというのは、クライアントさまによってクイックにやりたい、しっかり深く研究したいと要望もさまざまですので、どのMMM施策が最適なのか理解して、クライアントさまに向き合っていきたいと考えています」と話す。
電通の寺村氏は「いろんな生活者がいるということは、マーケティングのKPIも企業ごとに違い、いろんな施策があります。まさにそれに合わせていくことは、カスタマイズかなと思います」と話し、キャンペーン認知や信頼感、利用意向などの意識指標をベースにmROI改善策としての事例を紹介した。
「意識指標をKPIとした場合、スピードとどう向き合うのかが重要になってきます。広告に接触したあとのカスタマージャーニーは色々なパターンがあります。アプリ広告に接触したが、次の行動に移らない人もいます。ただ、サービスへのポジティブイメージが浸透することで、ダウンロードに至ることもあり、その場で効果が出なくても、最終的にKGIに貢献する。そういった指標がいくつもあります」
mROI改善へのステップとは
大事なことは、意識指標をKPI評価に含めることを両者で納得すること。そして、そのためには意識指標に関わるアスキング調査が必要だ。複数のメディアを比較して、媒体ごとの評価は可視化できるが、重複効果を加味できない。寺村氏によると、この課題を踏まえて「mROI Analytics」を開発したという。このツールの特徴は、意識指標に対する全施策の貢献度を可視化できること、媒体評価の正確性、検証スピードがアップしたためカスタマイズ可能だということ。mROI Analyticsは、過去データをもとにした事前準備が不要なため、クイックに効果検証ができる。
「事前準備のところで、アスキング調査内容の設計が大事でした。設問を多くするとデータ取得のコストが膨らみ、効果検証へのスピードが下がってしまいます。できるだけクイックにできるようにすることを重視し、溜まったデータをいかに早く処理するか、いかに正確に分析できるかを意識する必要がありました」(萩野氏)
続けて萩野氏はこれまでの実績とその成功の要因について、次のように話した。
「成果につながった要因は2つあります。1つは、定点で見る指標や分析を通じて得たい知見を事前に合意できたこと。そして、もう1つは初回の分析に多くを求めすぎずデータを蓄積していく考えに共感いただけたことだと思います」
「複数のKPIを可視化する分析では、それぞれのモデルの精度を高める必要がありました。どのメディアが効いたのか、プランナーやアナリストと議論を重ね、仮説を持ちながらモデルを組みました。MMMとmROI Anayiticsを活用した事例はこれから増えていくと考えています。全体予算をふまえてマクロ視点ではMMMを活用し、個別キャンペーン単位の効果を可視化するミクロ視点ではmROI Analyticsを活用するという整理が、効果検証のスキームになっていくように思います」(萩野氏)
最後に、福田氏は次のようにまとめた。「色々なKPIや分析スキームがありますが、大事なのは企業の皆さまが意思決定をスピーディーにかつ、適切に行えること。そこを我々がサポートしていけたらと思います。」
※本記事は2023年11月開催「宣伝会議マーケティングウェビナー」で配信された講演のレポート記事になります。
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