ブランド成長に資する広告には定性的な価値の活用が欠かせない
昨今は、広告メディアの評価の軸において成長を続けるデジタル広告の影響を受ける機会が増えている。複数のメディアを共通の指標で評価できる環境は、精緻な統合プランニングの実現において欠かせないことだ。一方で、個々の広告メディアが内包する価値は、統一的な指標だけで明確にできない側面も強い。
そこで「MCx」チームではメディア×コンテンツが保有する定性的な価値を明確にすることを目指し、「メディアコンテンツ エンゲージメントスコア調査」を実施している。本調査はメディアが生み出すコンテンツが、生活者に与える心理的影響を指標化したもの。2022年に実施したプレ調査は「熱中度」を、それを踏まて2回目となる2023年は項目を「熱中度」「習慣度」「信頼度」の3軸にして調査を実施し、コンテンツが持つエンゲージメントスコアを算出している。
「MCx」チームが個々のメディアをエンゲージメントという軸で調査をし、スコア化を行った背景には、広告投資に対して求められる説明責任のさらなる高まり、広告主の統合プランニングに対するニーズの拡大、広告主が設定したKPIに対する個別メディアの貢献度の可視化を要望する声の高まりなどがあったという。さらに中村氏はその背景について次のように語る。「当社ではIGP(Integrated Growth Partner)というスローガンを掲げています。広告主さまからは複数の手段を統合したソリューション提供を求められていますが、その実現に際しては、運用型のデジタル広告に象徴される量的な指標中心の世界だけでなく、質的指標も合わせて、プランニングに落とし込むことが必要と考えています。これが実現しないと、本質的な意味でIGPの実現は達成しないと思うからです」。
以前から雑誌やラジオなどのマスメディアは、エンゲージメントという定性的な価値が評価されてきた。しかし、その可視化や発信に際しては、各メディア業界別に独自の取り組みが進んでおり、統合プランニングに使える指標とは言いづらい面があった。そこで今回の調査には、中村氏、宮崎氏、大野氏はじめ、複数メディア部門から多くのメンバーが参加している。
個々のメディアによって、エンゲージメントという言葉の定義は異なる。何によって、エンゲージメントという価値を可視化すべきか、メンバー内で議論を重ねてきた。結果、最新の調査から熱中度に加えて、習慣度と信頼度という項目を加えている。
コンテンツに着眼することであらゆるメディアが調査対象に
調査結果から得た気づきを中村氏は次のように語る。「紙のメディアでは熱中度と信頼度が高い傾向がありました。特に熱中度については、自分の世界観の中で誰にも、邪魔されず、自分のタイミングで、コンテンツを消費できる環境が大事であることが分かりました。これらの結果は、想定の通りでしたが、習慣度という観点では、SNSが高スコアを獲得。コンテンツへのアクセシビリティが高いことから、SNSの習慣度が高まっていたことは発見でした」。
ラジオを担当する宮崎氏にとっても日ごろ感じていたラジオの魅力が可視化される想定内の結果が多かったという。「例えば、深夜枠の芸人さんのラジオ番組など、もともと熱狂的なファンがついていることが魅力のコンテンツで熱中度が高く出ました。一方で平日の通勤時間帯に聴取されるニュース番組は、習慣度が高い傾向に。これまで、なんとなくでしか、わからなかった各コンテンツの強みを明確に説明できるようになりました」(宮崎氏)。
さらに宮崎氏は「習慣度が高い番組の場合、認知を獲得したい新商品の広告に適していると言えそうです。一方で熱中度が高い番組はパーソナリティによる番組内での紹介を含めたタイアップ型の広告など、使い分けた提案の納得度が増すと思います」と話す。
新聞を担当する大野氏も長く、“信頼のメディア”と言われてきたメディア価値を改めて可視化できたと感じていると話す。新聞は信頼度や習慣度が高い傾向にあったが、さらに大野氏は新聞の面によるコンテンツジャンル別の各種指標の精査に、次なる新聞の価値を発掘するヒントが眠っていると感じているという。
「トータルとしての新聞の信頼度を測るだけでなく、政治、経済、社会、生活、スポーツ、さらに地域情報などのコンテンツや面別の違いを明確にすることで、より精緻な新聞広告のプランニングに生かせると考えています」(大野氏)。
宮崎氏も同様の気づきを得ているという。「熱中度と一口にいっても、アニメ番組の熱中と、スポーツ番組の熱中は質が異なる可能性があると考えています。ラジオの場合には特に熱中の質を精査することで、新しいラジオを活用した提案につなげていきたいです」(宮崎氏)。
コンテンツ価値を広告の価値につなげていく
「MCx」チームでは今回の調査結果を検証しながら、日ごろ向き合っている各メディア企業とも結果を共有し、クライアントに対するより高度な提案に生かしていく予定だ。「具体的に各担当の分野でどうプランニングに落とし込んでいくのか、いま議論を深めているところです。今回の調査で分かったことは、熱中度・習慣度・信頼度が高いメディアコンテンツが、必ずしも広告興味度が高いわけではないということです。コンテンツの価値を広告の価値へとつなげるためには、広告手段の選定が必要であり、そこに私たちメンバーの企画提案力が生きてくると考えています」(中村氏)。
また、「今回はトラディショナルメディアのエンゲージメントの可視化に着眼しましたが、前述のSNSしかり生活者のコンテンツ体験の場は広がっており、調査対象は今後拡張していく必要があると考えています。例えば、電通グループでは2023年7月にRobloxとパートナー契約を締結していますが、メタバース空間やゲームといったメディア、コンテンツも含めるなど、その時々の環境に合わせて調査設計も進化させていく予定です」と中村氏。
“コンテンツ”に着眼することで、個々のメディア特性や指標を超えた統合的なプランニングを実現することにつながりそうだ。
「MCx」の前身となる組織は2019年に発足。マーケティングのDXを行うに際し、グループ内の各メディア、システムにおける人的リソースやノウハウの連携を強化することが重要との考えで設立された。「AX」「BX」「CSN」の3つのチームから構成され、各メディア局(ラテ、新聞、出版、OOH)、コンテンツ、スポーツを中心に、デジタルマーケティング、ソリューション部門などのメンバーが集まる社内横断組織となっている。
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