広告取引適正化に向けて「自主行動」促す

広告界における取引健全化の取り組みが進んでいる。かつては「億単位の取引が口約束のまま進む」などと言われてきたが、近年のコンプライアンス重視の流れを受け、書面による受発注が浸透しつつあるといえるだろう。とはいえ、受発注をめぐるトラブルは後を絶たないことも事実。絶え間ない改善に向けた取り組みが求められる。
 
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広告取引のさらなる改善に取り組む

主要広告会社らで構成される日本広告業協会(JAAA)は2023年3月、「広告会社におけるサプライチェーン全体での取引適正化に向けた自主行動計画」を策定したと発表した。経済産業省、中小企業庁が各業界団体に対して、サプライチェーン全体での「取引適正化」と「付加価値向上」に向けた自主行動計画の策定と着実な実行の要請を行っていることを受けたもの。

具体的には以下の通り。

  • 1.価格決定方法の適正化
  • 「買いたたき」の抑止、労務費、物流費等の外的要因による変動による、価格協議の対応など。
  • 2.発注時の書面交付
  • 発注時の書面交付。取引条件の明確化のため、書面等の交付に努めるなど。
  • 3.コスト負担の適正化
  • 契約成立後の発注キャンセルの際のコスト負担について、明確化、ルール化に努めるなど。
  • 4.支払条件の改善
  • 2026年の約束手形の利用の廃止に向け、支払の現金払化を促進するなど。
  • 5.知的財産・ノウハウの保護
  • 知的財産取引の適正化のため、「知的財産取引に関するガイドライン」の趣旨を踏まえて、受発注者間の対等な関係での取引を実施。
  • 6.働き方改革に伴うしわ寄せ防止
  • 発注元の取引が起因となり発注先の「働き方改革」推進を阻害するような要請を行わないよう、十分に配慮する。
  • 7.サプライチェーンの維持に向けた取り組み
  • サプライチェーン全体の機能を維持し、共存共栄と規模・系列等を超えた新たな連携と下請振興法の振興基準を遵守する。
  • 8.フリーランスとの取引
  • 発注時の取引条件を明確にする書面等の交付を行うなど、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」を踏まえた適切な取引を行う。
  • 9.取引上の問題の申し出をしやすい環境の整備
  • 発注先が取引条件について不満や問題を抱えていないか自ら聞き取るなど、発注先が申し出をしやすい環境の整備に努める。

JAAAはこれまでも、広告宣伝取引に関する契約を交わす際の指針とするための「広告取引基本契約モデル案」を日本アドバタイザーズ協会と共同で作成したり、下請法を会員社に周知する『広告会社のための下請法ガイドブック』を配布したりと取引健全化に取り組んでいる。

フリーランスへの配慮を

写真 表紙 『広告制作料金基準表 アド・メニュー’24~’25』
発売日:2023年12月27日/定価:10,450円(本体価格+税)/ISBN 978-4-88335-581-5

広告制作は、専門職能を持つ数多くのプロフェッショナルによって支えられており、取引は企業間によるものだけではなく企業対個人によるものも含まれる。特にフリーランスなどの個人は取引交渉の場で不利な立場に立たされることもあるほか、トラブルの際に自身で解決することが求められることになる。

コピーライターらによる職能団体である東京コピーライターズクラブ(TCC)によると、2022年現在、約900人の会員のうち、法人化しているケースも含む個人事業にあたる人は全体の35%に及ぶ。事務局へ寄せられる相談の多くは、報酬の不払いだという。

こうした状況を受け、TCCでは書面によるフィーの交渉や事前の契約書の締結を奨励し、それらのテンプレートを提供しているほか、トラブル対応などをテーマにしたトークイベントの開催などを通じて啓発に取り組んでいる。

下請法の徹底や取引の健全化に政府が注目していることの背景には、取引にかかわるトラブルは今でも起こっているという現実がある。東京オリンピック・パラリンピックを巡っては談合事件とされ、広告会社の役員などが独占禁止法違反(不当な取引制限)の罪に問われる事態に発展した。2023年にも、広告会社による大手広告主企業への制作費の過大請求が報じられている。こうしたトラブルを防ぐためにも、正しい受発注フローの徹底や、事前の書面による料金交渉を心がけ、互いにチェックしていくことが改めて肝要といえる。

(『広告制作料金基準表 アド・メニュー’24~’25』より抜粋)

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