アフターコロナ&物価高騰の時代売り場・売り方はどう変わったか
2019年にはじまったコロナ禍は、世界中の人たちの暮らしを一変させ、今なお様々な産業においてその影響を残しています。生活者のライフラインを担う小売業においても、この期間の苦難を乗り越えて現在の姿があります。当時は感染対策をはじめ、売り場づくりや売り方に様々な対応や工夫が見られました。
そうしたコロナ禍が過ぎてアフターコロナやニューノーマルと言われる時代、小売業の売り場や売り方はどのように変わったのでしょうか?メーカーの営業の皆さんは自社の商品が販売される店舗や売り場を見て、そこに変化や課題を見つけることができているでしょうか?「特に変わった印象を持たない」「既にすべてがコロナ過の前に戻っている」と思われる方は次の変化についてあらためて売り場で注意してご覧ください。
コロナ禍によって変わった売り場や売り方
- ■購入頻度の高いたまごや牛乳などの商品をレジ付近に移動した
- ■レジの周辺で重点商品や季節商品(歳時商品)を訴求が増えた
- ■冷凍食品や家庭内時間の需要に合わせた商品の売り場を拡大した
- ■お買い得商品を店の入り口付近に集積(常設のコーナー化)して展開
- ■定番売り場でも関連販売(クロスセル)を訴求する商品の陳列を増やしている
- ■店舗内に宅配の受付やECの受け取りコーナが拡大した
以前、小売業の原理原則には「買い物客は売り場の滞在時間や売り場を移動する時間が長いほど、買い物をする」と言った考えがありました。この考えにならって、たまごや牛乳など買い物頻度の高い商品は売り場のもっとも奥(導線の最後)に位置することが定石だったのです。
しかし、コロナ禍で求められたのは買い物時間の縮小。小売業も長年の慣習やルールを変えて、たまごや牛乳などの日配品をレジの近くに配置するようになりました。コロナ禍における買い物経験は買い物客の意識に刷り込まれ、今でも「買い物に出かけるのは少ない回数で、手短に過ごしたい」という行動はデータからも顕著に見られています。
また、こうしたコロナ禍によって変化した売り場や売り方に加えて、2022年から私たちの生活や家計をじわじわと圧迫している商品の値上がりも、小売業の売り場や売り方に影響を与えていることを忘れてはいけません。
物価高が続く中で変った売り場や売り方
- ■チラシに掲載されるタイトルの多くが「生活応援!」「家計応援!」
月のはじめのチラシでは、その月の特売やお買い得セールなどの期間と商品を表記 - ■売り場やアプリでは価格訴求型の企画が大半を占める
売り場の“顔”になる入り口付近では生活歳時よりも価格訴求の商品が目玉に打ち出されている - ■エンドに並ぶ商品がナショナル商品からプライベートブランドへ
プライベートブランドも基礎商材はEDLP、付加価値商材は高価帯で展開するなど2極化が見られる - ■まとめ買いの促進として購入個数に合わせた割引企画やセット販売が増加
対象にする商品も冷凍食品やカップ麺など「まとめ買いの特性」などから選定される - ■小売業のアプリ会員を限定としたクーポンの配信やセール企画が増加
同じ買い物でもアプリを利用することで数百円の違いが発生
これらはGMS(大型スーパー)やSM(食品スーパー)に限らずに、ホームセンターやドラッグストアにおいても同じような傾向が見られます。買い物客はチラシやアプリに掲載される情報を見て、少しでも価格の安い商品を販売する店舗に行き、「生活防衛」の意識を持ちながら買い物をしています。こうした背景の中でメーカーの営業担当の皆さんは、小売業と商談を行うときに、何を意識しながら提案の内容を考えて話を進めていますか?
家計応援や価格訴求のテーマのもとで企画を展開すれば当然メーカーの利益は下がり、割引やセット販売による均一価格の訴求も同じ結果を招いてしまうでしょう。では、アフターコロナや物価高の中で、従来のメーカー・フェアや懸賞企画ではない取り組み方にはどのような方法があるでしょうか?価格訴求一辺倒にならない「切り口」や「筋道」を考えたいと思います。
小売業とメーカーの3つの接点のつくり方のポイント
小売業とメーカーをつなげるためのポイントを「コロナ禍」と「現在」を比べて紹介します。まず、「コロナ禍前」小売業との接点をつくり、自社の商品の商機を創ろうとしたポイントは大きく3つありました。
- ① メーカーの商品の販売データから併売値やリフト値の高い小売業の商品とのクロスセル
- ② ショッパーのインサイトを基に販促のテーマを設定してメーカーの商品による課題解決
- ③ 生活歳時を活用したマーチャンダイジングの掘り下げ
一方で「現在」はどうでしょう。物価の高騰が続く中で、前述した「コロナ禍前」の取り組み①~③が、次のような内容へとシフトしています。
- ❶メーカーの商品(ブランド)が小売業の生鮮品やプライベートブランドを併売することを促す企画の提案
- ❷商品の値上げが続く中で「家計防衛」を背景にしたショッパーのインサイトに注視して、そこから販促のテーマを考える
- ❸生活歳時の規模が縮小する中でコスパやタイパによる効果をテーマにしたものに入れ替える
コロナ後、かつ物価高が続く現在の取り組みから分析できるのは、メーカーのブランドが小売業由来の商品と肩を取り合って売る方法を考えるのが主流になっているほか、コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)への期待はまだ当分続いていくということです。小売業や生活者を囲む環境は常に変わります。こうした接点のつくり方についても、その時代の変化に合わせて都度見直していくことは必要不可欠です。
2024年がスタートしました。メーカーの皆さん。まずは担当ブランドや商品を、先述した物価高騰時代における❶~❸のポイントに当てはめてみてください。それによってどのような効果が期待できるか、考えるところから始めてみるのはいかがでしょうか。
リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏
2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。