鹿児島県から北海道まで商品配送
コンビニほどの広さ(約200平方メートル)の町の電器店「カノデンキ」(福岡市東区、古藤充社長)は、今年創業50周年を迎えた。一人ひとりの顧客宅に訪問し、小さな悩み事まで丁寧に対応する地域密着型の電器店として成長を続け、2023年の年商は前年比10%増の4億 2000万円を達成。町の電器店は商圏の顧客に特化した経営が主流だが、同店はYouTubeでの動画配信や全国配送に対応したECサイトの開設といった施策で県外にもアプローチする。動画編集やECサイトの運営を担う社員の松岡義展氏は「家電量販店やネット通販が台頭する中で生き残るためには、新規獲得や商品の付加価値を伝える工夫が必要不可欠」としており、 伝統的な町の電器店にも変化が起きている。
東芝ブランドの家電取次店であるカノデンキは、2021年にYouTubeで「カノちゃんねる」 (登録者数=約1650人)を開設し、TVS REGZAのテレビシリーズ「レグザ」の紹介動画を1週間に1回 のペースで公開している。これまで70本以上の動画を投稿し、人気動画は5万回以上再生されている。メーカーが用意したPR動画ではなく、同店の従業員が制作したオリジナル動画を配信している点が特長で、動画では複数のテレビの前で従業員が画質や音質など細かい違いを比較紹介している。
動画配信は新たな顧客を獲得する目的で開始。商圏外でも同店を知る人が増え、県外の視聴者が来店したケースもあったという。街の電器店 は客層の高齢化も課題となっており、同店の主要な1客層も60代以上。動画は30~ 50代の反響が大きく、客層の若返りにもつながっている。
チャンネルの効果を高めるため、2023年4月に 、テレビ販売専用のECサイト「K-SHOP」を開設。「カノちゃんねる」からアクセス可能で、動画を見て興味を持った商品をその場で注文できる。メーカーの協力で全国に発送しており、1月現在までの売上は約1800万円。チャットでスタッフが柔軟に価格交渉に応じる点が特長で、北海道や鹿児島県など遠方からの注文も多い。
松岡氏は「ネット通販に不安を感じる人も安心して購入できる仕組みを提供したい」と話す。スタッフの顔が見えないECサイトでは高額商品を購入しにくい点が課題となるため、「K-SHOP」ではスタッフの顔出し動画や気軽に相談できるチャットで信頼を得て販売につなげる。顧客との信頼関係を構築する町の電器店 は高額商品を提案しやすく、ECサイトでもその強みを発揮したい考えだ。
町の電器店 は高齢客をターゲットに、巡回訪問などの接点活動を通じて高価格商品の販売につなげる経営スタイルが多い。同店も商品販売後に不具合の有無などを定期的に確認するはがきや年3回の店内イベントなどで顧客の生活に関する悩み を把握し、最新機種への買い替えを提案している 。
一方、家電関連情報サービスを扱うナインテンが運営する「家電流通データバンク 」によると、従業員4人以下の電気機械器具小売業の事業所数は2014年時点で約2万店舗となり、2007年から約3割減少している。後継者不在や量販・ネット通販の台頭が背景にある。
1974年 創業の同店は当初、古藤社長の両親 が経営していたが、現在は約20人の従業を抱える店舗に成長した。小さな町の電器店が生き残れた理由について、同店は「地域密着の強みを維持しつつ、デジタル化の波に乗り遅れなかったことが大きい」と話し、「SNSやWebサイト を通じて、地域店も自ら情報を積極的に発信していく必要がある」と強調した。