メーカー企業は、小売業への商談に「ショッパーインサイト」を活用できていますか?

前回のコラムで、物価高騰の時代におけるメーカーと小売業との有効な接点のつくり方の1つとして、「インサイトの活用」を挙げました。買い物客(ショッパー)のインサイトについてメーカーの方と考える際に「インサイトとウォンツの違いは何か?」このような質問を受けることがあります。また、「インサイトと、アンケート調査などから集まったモニターの声とはどう違うのか?」などの声も聴かれます。私が考えるインサイトとは「心の中にあるホットボタン」です。

また、ウォンツとインサイトの違いについては、「ウォンツは消費者のニーズを満たす商品やサービスへの欲求」であり、「インサイトは消費者が現実と理想の間に感じるギャップ(願望であったり、不満であったり)を埋めたい欲求」と考えます。つまり、心の中にある欲求を満たすためのホットボタンを見つけて押すことが、インサイトを活用して人の行動を変えるコツになります。この対象が買い物客(ショッパー)の場合は、新しい買い物行動や習慣を創り、売上などにつなげることになるのです。
※商品の購入者でなく、商品を利用するお客(コンシューマ)とは明確に分けて考えます。
では、ここでショッパーのインサイトを捉えて、売り場や売り方のテーマを作り、商品の販売や展開を考える際のフローを紹介します。図1

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ショッパーのインサイトを売上につなげるためのフロー

図
図1

図1は、商品の開発や売り方などを企業の皆さんと考える際に使用しているものです。ショッパーインサイトを把握することで売上に繋げるために。まずは、課題を抽出してから目標(解決すべき課題とそのゴール)を設定します。数値化することや、何を具体的に変えるかを明確にしておくことが大切です。

次に、①の「買い物をする場の状況の確認」。ここでは商品が扱われる業種業態と、商品が置かれる売り場(什器や棚)の確認することが必要です。売り場は実店舗以外にも、駅ナカや移動に利用するモビリティなど様々なケースもあります。この売り場を単なるスペースや陳列場所としてではなく「競合する商品との関係」や「環境が買い物客に与える影響」として捉えてみてください。例えば、移動中の乗り物であればそこにどのような環境や特性があるか、などを考えてみていただくとよいでしょう。

②で挙げたショッパーは買い物の対象者を指しますが、商品やサービスによっては代理購買など、買い物に影響を与える人の存在がいることなどに注意が必要です。例えば、栄養ドリンクや機能性食品などの商品は、飲用者が子どもやシニア層で、実際に買い物をされるのが親や母親というケースが挙げられます。買い物の際に、誰の意見や顔が浮かぶかなども影響する要因として取り上げることを押さえておくとよいです。

売場や売り方だけでなく世の中の動きやデータを見る

③のデータの活用や、④の社会の潮流について。コロナ禍など環境が一変するような出来事は、私たちの生活や習慣に大きな影響を与えました。社会や世の中の様子は消費や買い物行動にも綿密な関係を持ちます。そうした時の消費者や買い物をする人の意識調査などもインサイトを掘り下げる際の重要なデータです。

メーカーの営業の皆さんも小売業への提案の際にPOSデータやID-POSデータを利用されることがあると思います。ショッパーの等身大の姿を知る上では、まず、これらのデータは参考にするはずです。

しかしここまでは、目に見える事実(エビデンス)やデータなどの数値。必要なのは図1内の⑤にある「ショッパーの行動を変えるための『気持ちのボタン』を見つける作業です。

いったい、どのように作業するのか。例えば、ワークショップによって行う場合は、参加者ひとりひとりがショッパーになりきることで「願望」や「不満」を付箋などに描き出していく方法があります。「ショッパーの立場になって、こうしたいやこうなりたい」という願いを付箋に書きながら掘り下げることもあれば、「気持ちの中にある矛盾や葛藤のようなもの」にフォーカスしてそこに解決の糸口をデプス・インタビューなどで見つける場合もあります。

ショッパーのインサイトの決め方(絞り込み)

ワークショップなどで「気持ちのホットボタン」を絞り込んで決定をする際に何を根拠にするかといった点は最も重要です。「願望」や「不満」と言った軸で掘り下げて付箋に描かれた複数の声(枚数)のどれを採用すれば良いのでしょうか?

ショッパーのインサイトを決める際のコツ。それは小売業の視点と実際の売り場や売り方を想定して、“売り手側の価値から照らすこと”。つまり、ショッパーのインサイトだけに注目して掘り下げるのではなく、商品が陳列する状態や小売業の売り方などからも捉えることです。「小売業の視点」から整理をすると、テーマ〈核〉のようなものが見えてくるようになります。

小売業もメーカー企業も、ショッパーのインサイトを求めることが最終のゴールではなく、インサイトを探りながらも買い物客に提案する売り場や売り方の中で、「新しい売上(購買経験)」を作ることが真の目的です。「施策を行うことが目的にならないよう」にとはよく使われる言葉ですが、まさにこれが重要なポイントだと思います。売り場の展開やPOPなどからインサイト(心のホットボタン)を押して、買い物行動に変化や買い物の後押しをしているメーカーや小売業の事例に以下のようなものがあります。

  • ■日清食品カップヌードル:「最高にうまいのは、外だ。」
  • ■明治プロビオヨーグルトR-1:「冬はやっぱり弱るから。」
  • ■旭化成ホームズ: 「おいしく節約! 冷凍貯金」
  • ■イトーヨーカドー:「旬をおいしく! 漬けしごと」
  • ■成城石井:「冬の食卓を明るく照らす。立冬ヌーヴォ」
  • ■ドン・キホーテ:「その程度の機能ならドンキで十分だ!」

上記に共通している点は、広告にしても売り場のPOPなどの表現にしても、これらを目にしたときに「あ、それあるある!」と思わず頷く姿が想像できることです。インサイトを見つけて効果的な展開が期待できるか否かの判断は、こうした「買い物客に直感的に伝わるかどうか、そして行動につながるか」のシンプルな捉え方にあります。つまり説明を要したり、行動につながらないものはそこで留める。これらをインサイト抽出から展開を考える際のルールに進めます。

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写真 人物 リテイルインサイト 倉林武也氏

リテイルインサイト 代表取締役
倉林武也氏

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。


倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)
倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。

倉林武也(リテイルインサイト 代表取締役)

2018 年に流通小売業やメーカー企業・事業会社のマーケティング領域におけるコンサルティング業務を担う会社として起業。営業戦略や販売の支援、社内組織の活性化や社員の育成(ナレッジ研修や Teams や LINE などプラットフォームを使用した活動支援)を行う。近年、広告やコミュニケーションや販売促進のあり方が大きく変わる中、リアルな「場」(チャネル)や商談における課題をインサイトの抽出やデジタルを含む方法で最適解を追求。JPM(日本プロモーショナルマーケティング協会)アワード最終審査員 宣伝会議「ビジネスプロデュース力養成講座」「行動デザイン実践講座」ほかに登壇。

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