本コラムでは、プロジェクトマネジメント力を高めるために必要な思考の型・原則・技法を身につけるドリル(練習問題)を、「プ譜」という共通フォーマットを使用して提供します。出題のネタは、古今東西のビジネス事例、歴史上の出来事、SNSで話題になった事例、マンガなどから幅広くピックアップ。すきま時間で楽しく取り組みながら、プロジェクトの計画立案や意思決定の力を高めることを意図しています。今回はプロジェクトの計画を立てるうえで、最も重要な「勝利条件」について考えます。
今回のドリルで鍛える力(ドリルの狙い)
・プロジェクトの成功の定義を多様に表現する力
・多様に表現したものから1つを選び取る力
こんな問題に心当たりがある人にお薦め
・プロジェクトの目標があいまいで何のために行うのかよくわからない
・プロジェクトに取り組む際、何から始めたらいいかわからない
出題形式
本コラムのドリルはすべて「プ譜」を用いて出題・解説します。プ譜を知っているよという方は、今すぐ画面をスクロールして頂いてけっこうです。プ譜を初めて知るという方はこのままお読みください。
プ譜はプロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化するフレームワークで、「獲得目標」「勝利条件」「中間目的」「施策」「廟算八要素」の5つの項目で構成されています。(詳しい説明については下記の動画をご覧ください)
プロジェクトドリル1問目「サッカーの試合に勝利せよ」
難易度★☆☆
ドリルのシチュエーション
あなたはあるサッカークラブのコーチとして働いています。週末に迎えるリーグ戦は最終節を迎えていますが、これまでチームを率いていた監督がクラブオーナーとの関係悪化から辞任してしまい、シーズン最後の試合はあなたが臨時監督としてチームを率いることになりました。勝っても負けても優勝や降格には影響のない試合です。クラブのオーナーからはとにかく勝って締めくくってほしいとだけ依頼されました。監督となったあなたはどのようにして試合に勝てば、成功したと言えるでしょうか?
問題
試合に勝つという目標は、プ譜の「獲得目標」欄に書きます。そして、「どのようにして試合に勝てば、成功したと言えるか?」という成功の定義を、「勝利条件」欄に書きます。
勝利条件は「試合に勝つ」という一つの目標に対し多様に表現することができます。みなさんの好みや価値観に基づいてもいいですし、率いるチームの将来やメンバー構成などの条件はご自身で自由に設定して構いませんので、できるだけ多様な勝利条件を出してください。
解答と解説
みなさんはどのような勝利条件を表現できたでしょうか?「試合に勝つなら、相手より1点多く取ればいいんでしょ?」と考えたあなたは、勝利条件の表現がまだまだあいまいです。5対4で勝つのも、1対0で勝つのも相手より1点多く取っていますが、このような結果になるための計画はまったく異なるものになります。
勝利条件はその表現次第で、どんな選手を起用するか?どんなフォーメーションにするか?前半と後半でどのような作戦を用意しておくか?作戦を実現するためにどんな練習をするか?といったことが変わってきます。5-4で失点のリスクを恐れず攻め込む計画と、1点取ったら自陣に引きこもって守り切る計画とでは、考えることや実行することが同じになるわけがありません。つまり、勝利条件の表現次第で計画はガラリと変わるということなのです。
では、勝利条件があいまいあるいは「ない」とどうなるでしょうか?この場合、あらゆる試合に勝つために「やったほうがよさそうなこと」を考えて実行せねばならず、思考する量や作業量が膨大になってしまいます。量が増えれば複雑さが増し、難易度も上がってしまいます。
このような状態を「無限定」と呼ぶのですが、勝利条件には「無限定」を「限定」する機能もあります。限定することができれば、考えなくていいこと、行動しなくていいことはやらずに済みます。
ドリルの教訓
プロジェクトが始まるとき、勝利条件は決めていないか考えもしていないことが多いです。そのため、まずは勝利条件を多様に表現し、そのうちのどれが最も得たい成果なのか?手に入れたい変化なのか?といったことを考えて決定しなければなりません。そして、勝利条件が複数存在していると各種の問題の原因となるため、関係する人々の間で勝利条件を統一していく必要があります。
そしてもう一つ大事なことがあります。サッカーの試合に勝つという目標は他者から与えられたものですが、勝利条件は自ら設定する自由があります。目標があいまいなのは困ることではなく、みなさんに与えられた自由とチャンスなのです!
このドリルで参照した書籍
『ヨハン・クライフ「美しく勝利せよ」』(二見書房)
『プ譜』についての詳細はこちら
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)
ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。
「プ譜」の解説動画はこちら
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