CESは、家電ショーとしてスタートしましたが、今日ではテクノロジーとイノベーションのイベントに変化を遂げています。CESでは、スマート家電に始まり、AI、ヘルスケア、ロボティクス、XR、サスティナビリティ、そしてダイバーシティに至るまで、先端的な取り組みに触れることができます。ここで触れることができるテクノロジーは、産業からビジネスモデル、ライフスタイルを大きく変化させることは間違いなく、マーケターにとっても注目すべきイベントだと言えるでしょう。そんなCESを現地からレポートしていきます。
韓国、フランスの存在感が目立つ。スタートアップの拠点、EUREKA Parkは大盛況
CES2024 現地レポートは、最終回の第4弾。今回は、今年の出展の傾向に注目したいと思う。日本からの出展企業、韓国企業、欧米企業の他、大企業、スタートアップという視点からもレポートしたい。
まずは、ある意味で第二の主役となっているエリア、EUREKA Parkについて紹介したい。ここは、1,400以上のスタートアップが出展するエリア。このエリアで存在感を発揮していたのが韓国とフランスだ。
韓国は、政府だけでなくSAMSUNGやLG、HYUNDAI、POSCOなど大企業が支援するコーナーも大きく面積をとっており、会場の半分近くは韓国のエリアであった。官民合わせて力を入ている様子が伝わってくる。次に、政府の後押しの強いフランスでも130社以上の出展があったという。さて、気になる日本はJETROによるJ-Startupエリアや大阪商工会議所のJAPAN TECHエリアなどに約50社程度の出展であった。その規模感は、お隣の韓国との差を感じてしまうものだった。
このEUREKA Parkで注目したのは、先ほど触れた韓国の大企業支援による出展だ。LGやSAMSUNGなどの韓国企業はCESのメイン会場でも、大規模に出展をする2社だ。これらの企業は基調講演やプレス発表会を毎年、行っている。そこで必ず強調する取り組みがオープンイノベーションだ。今年も、AIを中心とした両社のプラットフォームやスマートフォームのエコシステムに関する発表があったが、オープンイノベーションの取り組みを非常に重視した内容であった。その、姿勢の一旦が、EUREKA Parkでの韓国大企業コーナーでのスタートアップ出展だと感じた。これは、日本の大企業の特にスタートアップ連携、CVCに取り組む方は、参考にすると良いのではないだろうか。
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ブランド露出としても注目するべき韓国B2B企業の出展
今年、筆者が注目していたのは、CESでの存在感を高めつつあるB2B企業による出展だ。もちろん、以前からB2B企業の出展はあったが、ここ数年間で非IT系企業のB2B企業の出展レベルが一段と向上している。コンテンツの質、規模、そしてCES会場全体に占める存在感の高まりを感じる。
B2B企業の出展において、注目するべきは韓国企業だろう。HD HYUNDAI、DOOSANというトラディショナルな重工企業の出展がそれだ。彼らは、B2C企業にも劣らない高い品質レベルの出展をしていた。そして、基調講演、プレス発表会との連動性も高く全体として効果的なプレゼンテーションをできていたのではないかと筆者は考える。少なくとも、CES来場者やメディアを通じて米国市場でのブランドインパクト与えたのではないだろうか。
■HD HYUNDAIの展示の様子
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■韓国重工メーカーDOOSANの出展の様子
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■自動車メーカーHYUNDAIの出展の様子
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SAMSUNGは、スマートホームのオープンプラットフォームであるSmartThingsを強調
CES全体の展示で最も大規模に出展し、多くの来場者を得ていたのはSAMSUNGだろう。今年は、より一層、彼らのスマートホームのプラットフォームであるSmartThingsに力を入れた展示となっていた。このSmartThingsのエコシステムの広さ、拡張性やAIと連携することによる新しい生活提案、環境対応への寄与など、展示の場にもストーリー性と機能説が両立した優れた展示となっていた。
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■その他の企業による注目の出展
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CES2024を終えて
今年は、大きな変化を感じるCESであったと筆者は考える。まずは生成AIを含めたAIの実装と産業やライフスタイルへの影響。欧米・韓国企業の取り込みスピードと投資の速さを感じる機会となった。実際の投資や開発状況はさておき、こと発信という側面では欧米・韓国が日本企業より先に進んでいる印象を与えていたと思う。
次に、サスティナビリティやダイバーシティが、やはり当面の間は主要なテーマになるだろうという確信だ。そして、韓国の巨大テック企業、欧米の大企業によるサスティナビリティの発信は、プロダクトへの実装、サスティナビリティやダイバーシティへの対応が企業やプロダクトの競争優位に寄与しており、きちんとプロダクトとして機能的価値を提供していることを主張している点が非常に重要だ。
CESは、やはりテクノロジーとファクトとしてのプロダクトを見に来る場所であり、オーディエンスもそれを期待している。CESで発信する、韓国や欧米の企業はB2C、B2B問わずにそのことを理解し、登壇発信、展示を行っていた。日本のマーケターは多く見習う点があるだろう。
最後に、イノベーションは自社単独ではなし得ないということを伝え、オープンイノベーションや協業が重要な役割を果たしている点に注目される。プレス発表や基調講演を担ったSAMSUNG、LG、ロレアル、SIEMENS、HD HYUNDAIを始め、米国・韓国企業はGAFAMやスタートアップとのコラボレーション、オープンイノベーションによるエコシステムの重要性と取り組みを強く訴えていた。
特に生成AI領域でのGoogleやMicrosoftとのコラボレーションが非常に多く目にする年であった。特に昨年のサムスンは、“サスティナビリティ”が主役であったが、今年は間違いなくAIを取り込んだSmartThingsそして、Bixbyプラットフォームであり、それらを包含するオープンなエコシステムであったと言って間違いないだろう。
最後にB2B、特に韓国企業のB2B企業の存在感だ。HD HYUNDAI、DOOSAN、自動車エリアでB2B領域を発信したHYUNDAI。国内企業と比べて、展示規模・質・コンテキスト共に優れていたのではないだろうか?そして、CESがB2B企業にとって、ブランド発信の重要な場としての影響力を拡大させて続けていると実感した。日本のB2B企業のマーケターはCESを活用した、国内・グローバルのコミュニケーション設計を検討しても良いのではないだろうか。
さて、オープンイノベーション、AI連携、B2Bの発信、サスティナビリティ。日本のマーケターにとっても新しく重要なテーマが多く発信された2024年のCESであった。多くの基調講演やプレス発表はYouTubeでフル動画の閲覧が可能だ。本稿で伝えた企業のプレゼンテーション動画を視聴することをオススメしたい。
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森 直樹氏
電通 ビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センター
エクスペリエンスデザイン部長/クリエーティブディレクター
光学機器のマーケティング、市場調査会社、ネット系ベンチャーなど経て2009年電通入社。米デザインコンサルティングファームであるfrog社との協業及び国内企業への事業展開、デジタル&テクノロジーによる事業およびイノベーション支援を手がける。2023年まで公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 デジタルマーケティング研究機構の幹事(モバイル委員長)を務める。著書に「モバイルシフト」(アスキー・メディアワークス、共著)など。ADFEST(INTERACTIVE Silver他)、Spikes Asia(PR グランプリ)、グッドデザイン賞など受賞。ad:tech Tokyo公式スピーカー他、講演多数。