販売数アップ、顧客拡大には「ファネル拡大」が必要
統合型PRを柱として、データ×テクノロジーを融合したPRを展開するビルコム。近年、同社のもとには企業のマーケティング部やPR・広報部などから、次の3つの相談が増えているという。
(1)市場の飽和や縮小化に伴い販売数が伸び悩んでいる
(2)ロングセラーブランドはあるがブランドとともに顧客が高齢化し、若年層の新規顧客拡大に苦戦している
(3)これまでのような、広告×営業力での販売拡大がうまくいっていない
「いずれの内容にも共通して、ファネル拡大ができていないのではないか」と長沢氏は指摘する。
「顕在的なニーズにアプローチしていくだけでは顧客獲得が先細りになっていく。広い潜在層に、『自分に必要だ』と思ってもらうことで、認知を増やし顧客を獲得していくことが重要。それがファネル拡大。ファネルを広げるには、既存商品の価値を拡張させ、PRしていくことが有効」(長沢氏)
新しい顧客開拓や情報の波及にはPRが有効
そもそも、広告とPRはどう違うのか。広告において情報発信者は広告主になる。PRは情報発信者が第三者となり、メディアや専門家、消費者がそれにあたる。広告は欲しい人にダイレクトに伝えるのには有効で、PRは潜在顧客を掘り起こしていくことに有効。
その一方で、情報伝達を第三者に任せるため内容をコントロールできない側面はあるが、情報が波及していくということには効果が高い。また、客観的な情報ということで信頼度が高く受け取られる。新しい習慣や利用シーンの提案、いろんなメリットを伝えていくのにはPRが向いているという。
コンセプトや提供価値を「言葉化」する
長沢氏は「商品の価値を拡張するためのコツ」について2つのポイントがあると考える。ひとつは「市場創造記号の開発」、もうひとつは「情報波及のステップ 」だ。
「市場創造記号の開発」として、参考例に挙げるのは、日本コカ・コーラの「アクエリアス」だ。「熱中症ゼロへ」というプロジェクトに参画し、従来のスポーツドリンクという位置づけから、「熱中症対策にも」という価値拡張に踏み切った。アプローチ可能な消費者層を広げ、食品スーパーなどの熱中症対策コーナーにも商品が置かれるように。価値を広げることにより、ブランドを大きくした好例という。
「市場創造記号」の開発で重要なのは、「『ブランド価値』『社会時流』『ターゲットインサイト』にきちんと目を向けること」が大事であり、さらには、花粉症や加齢臭など解決しなければいけない課題(イシュー)、朝活や手間抜きなど潜在的なニーズに応える(ソリューション)という2つの視点 からコンセプトや提供価値を言葉化することがポイントだと提言した。
情報波及には、着火・共感・拡大のステップ
もうひとつの「商品の価値を拡張するためのコツ」は、「情報波及のステップ」だ。
「大きく分けると、まずコンテンツを作り、『着火』させること。それを専門メディアでの掲載やマス・インフルエンサーでの評判形成によって『共感』を得られるようにすること。最後に『拡大』させていくこと」(長沢氏)
定番ブランドの価値拡張マーケティングの成功例として、旭化成ホームプロダクツの「ジップロック®」の事例を挙げた。「ジップロック®」といえば、食品などを保存するための袋としてのブランドの地位を確立している。ただし、食品保存用途の市場が飽和状態となり、売上を伸ばすには新しい用途の開発や、ユーザーの世代拡大など、潜在顧客層にアプローチを広げていくことが必要となった。
そこでまず、ビルコムが提唱する市場創造記号を開発するための3つのポイント(ブランド価値、社会時流、ターゲットインサイト)を整理してみたい。ブランド価値においては「厚手で密封性が高い、酸化や乾燥に強い」、社会時流においては「共働き世帯が増え、時短で家事したいという意識の向上」、ターゲットインサイトにおいては「平日は時短調理したい」。これらをふまえて、ジップロック®で何ができるのかを考えた結果、市場創造記号を「下味冷凍」に据えた。
休日にお肉を買い込んでおいてジップロックに入れ、下味をつけて冷凍しておく。平日の朝に冷蔵庫に移動させておけば、帰ってきて焼くだけでおかずが完成。それまで30分かかっていた平日の夕食準備が10分でできるという提案だ。食品保存の用途で使っていた人はそのままに、下味冷凍という調理の提案をすることにより「時短ができる」「楽ちんだ」と新しい利用法を提案でき、売上拡大や使用頻度向上につながった。
テレビの情報番組で報道されたうえ、2019年の食トレンド大賞にも下味冷凍が選ばれた。その後、SNSのハッシュタグも10万を超え、検索数が定着し、年を追うごとに若年層にも検索されるようになった。
「下味冷凍」浸透における成功ポイントは?
長沢氏は、「下味冷凍」浸透における成功ポイントを次のようにまとめる。
「まずは、下味冷凍のメリットをファクト化したこと。冷凍の分野や消費生活アドバイザーなどの専門家を起用し、時短の時間数や節約の金額などを数値化した。それにより、メディア素材として活用されやすくなった。
次に、着火点コンテンツとして下味冷凍食堂のオープン。参加者自身で下味冷凍の仕込みをし、焼いて食べるという体験を1時間で体感してもらった。記者会見を行い、いろんな媒体で報道してもらうことで情報が拡散していった。
また、ターゲットが合致する雑誌とタイアップするなど、マス・インフルエンサーでの評判形成に尽力した。さらにはユーザーを巻き込んで投稿キャンペーンを行い、コミュニティを作っていった。
「『市場創造記号』を浸透させるステップを丁寧に進めていくこと。それが商品の価値の拡張につながり、ブランドの停滞感を打破することにつながります」(長沢氏)
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