社内に広報活動で使えるネタが眠っていないだろうか。社会的な関心が高まっている情報、旬なテーマにアレンジできるネタを発掘し、メディア露出につなげていくための方法について、「広報企画」に関する本の著者がアドバイスする。
※本稿は『広報会議』2024年3月号の記事を転載しています。
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─先ほど事例でお話いただいた「便利な機能のアプリ」を「残業をなくせるアプリ」と伝えるように、商品機能をベネフィットにつなげて広報活動する「アレンジ力」を高めるためにはどうすればいいのでしょうか。
片岡:長沼さんがリリースと記事タイトルの差を見ている、とおっしゃっていたように、アウトプットをイメージする力をつけることが大事です。どういう言葉をアウトプットにつなげたいのかを具体的に考えておいて、実際に露出した時に事前のイメージとの間に生まれたギャップを見るのがいいと思います。広報活動の質の調査にもなります。
アウトプットをイメージできるようになると、例えば、「日本酒の熱燗が冷めない技術ができました」と伝えるより、「鍋料理が冷めない」と書いたほうが、ベネフィットを受ける人は幅広いだろうな、ということが直感的に分かるようになると思います。こうしたアレンジ力を養うには、表現はベタですが、好奇心を持ってできるだけ色々な経験をすることですね。何か一つのことしか知らないとそれしかできなくなってしまうものですが、複数のことを経験していればその知見を活かした対応の選択肢が生まれます。良さそうなものがいくつかあればABテストをして、より良いものを選ぶことができます。
長沼:報道内容は本来制御できるものではないのですが、入り口となるネタを用意して、数値的な裏付けを行いながら文脈の導線をつくることはできるはずです。その導線をイメージしながら話題を設計し提案するようにしています。
─「画になる広報企画」「メディアでの撮れ高を増やす企画」にしていくために工夫できることはありますか。
片岡:例えば、先に挙がっていた「人手不足」に関連して人事系のネタについて広報活動すると考えてみましょう。これまでは一般的に「働き方改革」という文脈が多かったのですが、今はダイバーシティやリモートワークなどフレックスな働き方が発展してきています。ですので、例えば、同じ会社の社員が働く風景を1日でも、1週間でも映像にするだけで、社員ひとり一人の多様性は編集によって広報ネタになるのではないでしょうか。「画になる企画」をつくる上では、こうしたコンテンツをつくるプロデュース力が大事になると思います。
長沼:「働き方」はだいぶ一般的になってきたテーマなので、「人事施策×多様性」のように掛け合わせで企画するのもよいですね。シニアに特化して採用しますとか、子育て中のお母(父)さんに限った求人募集とか、働き方や多様性に関わるテーマ性を画的にも際立たせることで、より強烈な熱量や撮れ高が期待できるのではないでしょうか。テレビ的には赤ちゃん連れのお母(父)さんたちが採用面接に集まると画になりそうです。ちなみに私が広報をお手伝いした企業では「バンドマン採用」という施策を打ち出し、元バンドマンだった社長のパーソナリティーも含め話題になりました。
─コラボで話題を広げていく広報企画のポイントは?
長沼:新しい価値観の普及や黎明期のテクノロジーの技術啓発を手掛ける場合、企業が単体で頑張るより、外部の団体や組織を巻き込んだコンソーシアムを通じた広報を展開すると客観性が担保され熱量が増幅しやすくなります。究極的には自らNPOや業界団体を立ち上げることもお勧めします。
また大学教授や公的機関などの専門家の手を借りるという方法もあります。社会の理解がまだ追いついていないようなテーマでは、公的機関との共同研究プロジェクトなどのコラボレーションは確からしさを高める上で有効です。こうした座組みにはメディアが取り扱いやすくなる効果もあるので、メディア向けセミナーでも専門家からの解説が含まれる構成にできると良いでしょう。
片岡:本業と副業をはっきり分ける時代でもないのでNPOを立ち上げるというのは有力な選択肢ですね。
社会課題の解決につながる企業の社会的責任を果たす大きな物語を達成するために、他社やNPOとのコラボ企画を考えていくことになると思います。その際、企業側が資金提供だけするのではなく、本業に直結する技術や人材といった自社ならではの「強み」を活かして、企業収益につながるような付加価値を生む企画にすること。これが社内外で、取り組みに対する説得力を高めるポイントになってきています。
─広報の効果を最大化するために、パブリシティに限らずPESOをいかに使いこなしていくかについてアドバイスをお願いします。
長沼:オウンドメディアでいうと、動画コンテンツは重要になっています。最近はTikTokに代表されるショート動画が吸引力を持っていますね。ただ内容については、基本的に対メディアと同じ目線で、今ホットな事象、熱量の高い話題に対する解説や、そこに絡むベネフィットを紹介することがポイントだと思います。タイミングよくコンテンツが公開できるように準備をしています。
片岡:ペイドメディア、アーンドメディア、ソーシャルメディア、オウンドメディアのそれぞれが重なり合う領域でいかに相乗効果を出せるか、事前に戦略を立てていくこと、これに尽きると思います。例えばペイドメディアは、これまで広告部門の仕事だったかもしれませんが、PESOモデルのひとつとして、必要に応じて広告を使うことを考える。ソーシャルメディアでの拡散施策も行う。そのデザインの仕方が広報活動全体の相乗効果を決めるので、ここは各社が研究すべきテーマになっていくと思います。(敬称略)
『成果を出す 広報企画のつくり方』
著者 片岡英彦氏
かたおか・ひでひこ 東京片岡英彦事務所代表。企画家・コラムニスト・戦略PR事業。日本テレビを経て、アップルコンピュータのコミュニケーションマネージャー、日本マクドナルドマーケティングPR部長などを歴任。企業のマーケティング支援活動のほか、WOMマーケティング協議会(現クチコミマーケティング協会)発足時のガイドライン検討委員を務める。東北芸術工科大学企画構想学科学科長/教授。
『先読み広報術』
著者 長沼史宏氏
ながぬま・ふみひろ アステリア執行役員コミュニケーション本部長。大手メーカーで、広報・IR担当としてのキャリアを積んだ後、2015年に新興IT業界へ転身。旬の話題に絡めたPRを通じて“お茶の間”にリーチする話題づくりで実績を重ねる。技術の普及・生態系の保全・働き方改革に取り組む各種団体で理事などを務め、社会啓発につながるPR活動も展開中。東北大学特任准教授(客員)・コミュニケーションアドバイザー。