※本記事は月刊『ブレーン』2024年3月号に掲載している「明るいCMプランナーの会 2023→2024」(p50~57)から抜粋しています。
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演劇を背景に持つ2人の若手監督の躍動
福里 今年もはじまりました。昨年名前を「哀しき」から「明るい」に変えたことで、身も心もすっかり明るくなった(笑)CMプランナーの会です。CM 制作において決定的な役割を果たすCMプランナーという立場から、2023 年を振り返っていきましょう。今回、吉兼(啓介)さんは残念ながら体調不良でお休みです。
そして今回のゲストには、博報堂の德岡淳司さんに来ていただきました。担当されたMIXI のWeb 動画シリーズ「俺たちのモンストーリー」は、2023 年の「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」(ACC賞)のフィルム部門B カテゴリーでグランプリを受賞されましたね。おめでとうございます。
德岡 ありがとうございます。4 年目で27歳の德岡です。よろしくお願いします。
福里 すごいですね、4 年目でグランプリ。さて、その繋がりで、今回の1 つ目のトークテーマは「若手CM ディレクターの躍動~岩崎裕介さんや泉田岳さんを中心に~」です。
岩崎さんは、德岡さんと組んだ「俺たちのモンストーリー」でグランプリ、そしてグランプリを最後まで争った「明治エッセルスーパーカップ」の「日々」シリーズ(ゴールド)も手がけ、関西電気保安協会「相方が関西電気保安協会になってしまった男」もシルバーと、B カテゴリーは“岩崎監督祭り”になっていました。同じく2023 年のTCC 賞では、「スーパーカップ」で審査委員長賞の受賞者にも名を連ねています。
一方、泉田さんはACC賞のフィルム部門Aカテゴリーでヒノキヤグループ「Z 空調の家」シリーズや、Bot Express「ある市役所で」篇がシルバー。TCC賞では「婦人画報のお取り寄せ」のCMで、同じく受賞者に名を連ねています。TCCで受賞者になるということは、演出だけでなく企画やセリフも担当されている、ということかと思います。
かなり際立って活躍しているお2人ですが、まずは德岡さんが「俺たちのモンストーリー」で岩崎監督に頼んだ経緯から聞いてみたいです。
德岡 最初の企画の段階では、累計1000万人以上いる「モンスト」ユーザーの実際にあったエピソードを形にする、ということだけは決まっていました。その後のエピソードを選ぶ過程から、監督に入ってもらう方が最終の着地も見えやすく、面白くなるのではないか、と。
そして、どういうトンマナの映像にするかを考えていた頃、岩崎さんが監督した「明治エッセルスーパーカップ」の「日々」シリーズが公開されたんです。普通の何気ない日常を、 過度な演出を加えずにドラマとして成立させている、それが狙いたい方向性と近かったので岩崎さんにお願いしました。5000 件以上集まったエピソードを岩崎さんと一緒に目を通して選び、その場で「このエピソードはこういう映像にできる」といった話もしながら進めていきました。
福里 その制作プロセスでは、なにか際立った特徴とかはありました?
德岡 エピソードの中に“モンストをきっかけに出会って結婚しました”というものがあったんですが、時系列が飛んでいるエピソードは描きにくい、ワンシチュエーションの方がいいと、演出の視点から指摘をいただきました。あとは岩崎さんも僕も、学生時代は教室の隅でゲームをやっていたタイプの人間だったので、少しでも嘘っぽい要素があると気になるというか、美談に敏感なところがありましたね。
福里 その2 人の感覚と、ゲームのシズル感が合っていたんですね。栗田さんはACC賞の審査員でもありましたがどう見られました?
栗田 素晴らしいと思いました。それまでソーシャルゲームの広告は射幸心を煽るものが多かったのが、人生における「モンスト」の存在感やその良さを提示していて、同時にクライアントの課題も新鮮な切り口で解決している感じが良かったですね。演出でいうと、ノンタレの役者の使い方がすごく上手ですよね。キャスティングがうまいなと思っていました。
德岡 岩崎さんはキャスティングにこだわられますね。僕が勝手に「劇団岩崎」と呼んでいる、よく岩崎さんの仕事に出られる役者さんたちがいまして、その方々は岩崎さんが表現したい方向性をつかむのがすごくうまいんです。セリフの言い方ひとつとっても、ここは「なっ!」じゃなくて「ぬあ!」なんだとか、すごくこだわっていました。
福里 セリフの「間」も独特ですよね。岩崎さんが以前に手がけた「ハット首脳会談」(2022 年公開、ピザハット、イエローハット、リンガーハットのコラボCM)はその真骨頂という感じで、ストーリーとかいうよりもただただ「間」がおもしろいというものでしたよね。この岩崎さんならではの「間」を表現できる場として、オンライン動画というのは相性が良いのかなと。でも一方で、たとえばサイボウズ「kintone」のCM「オフィス」シリーズなど、秒数が短いテレビCM でも、ちゃんと同じような印象は受けるんですよね。
神田 僕も何回かご一緒していますが、岩崎さんは「ノーミーツ」などで今も劇作家として脚本を書いてもいるんですよね。だから配役がうまいのも、演劇感覚で役者の設定や人物像を深掘りして、“この人はそんなに裕福ではないから、こういう部屋に住んでいるだろう”と、細かく背景の設計をしている感じがしました。きっとリアルなものが好きなんですよね。
福里 「リアルさ」はおそらくキーワードですよね。
山本 泉田さんが手がけたホットペッパービューティーのWeb 動画「春」と同じような感じで、リアルで等身大だけど、完成度が高くて、共感が持てる。結果そのブランド自体も好きになれる感じですよね。
「CM っぽくないCM」をCMプランナーはどう見るか
鈴木 演劇をやっている人たちの時代が来たなと思いました。泉田さんも「劇団ドラマティックゆうや」を主宰されていて、セリフや間が両者ともナチュラルで。僕はCMをつくる時、訴求するために意図的に、引き算・足し算しようっていう風に考えてしまいがちなんですけど、お2 人は全く違う感じがしました。
福里 それありますよね。これまでの優秀なCM 監督には、訴求のために到達すべき点から逆算して伝え方を考える、というプロがたくさんいて。それが今の時代には広告臭く見えてしまう面もあると思うんですが、この2 人はあたかも逆算していないかのような自然さがあります。
鈴木 そうですね。15 秒のテレビCM だと最短距離で映像をつくらないといけないですが、B カテゴリー(オンライン動画)は良い意味で遠回りのセリフ劇など、間をうまくつくれるんでしょうか。一度お願いしてみたいです。
大石 「モンスト」は、企画自体も素晴らしいと思いました。僕は2 年前に「モンスト」を担当させていただいたことがあったんですけど、結構難しくて。というのも、長くゲームをやっている上級者の人たちと、初心者と、両方への配慮をしなければいけないんです。德岡さんたちの仕事は、上級者も“俺たちのモンストってこれだよね”って共感できつつ、初心者も“こういうゲームいいな”って、両取りできていますよね。
福里 大石さんは、泉田さんとは仕事したことありましたっけ?
大石 U-NEXT の「2人とU-NEXT」シリーズでご一緒させてもらいました。面白かったのが、僕がセリフを書いて泉田さんに演出をしてもらったんですけど、演出コンテをアップしてくださる時に「悔しいですが、このセリフに勝てなかったです」って言ってくださって。セリフに対して強い意識があるなと思いました。
神田 僕も泉田さんとご一緒したことがありますが、岩崎さんとも共通して思うのは、狙いによってはCM プランナーが企画を考えない方が得策になる場合がある、ということ。
僕らはCM プランナーとして育ってきて、脈々と受け継がれてきたCM の潮流的なものを通じて企画をつくったりするんですが、お2人はそれとは全く別の演劇という世界からCM を見ている感じがするんですよね。だから監督自身が台本を書いてそれを仕上げると、CM の外側にある新鮮な空気が出てきて、今っぽい上がりになる。課題によってはそれが向いている時もあります。
……続く内容は、「問われるCMプランナーの役割」「個人賞は必要か?広告賞との付き合い方」「2023年、ベストテレビCM&WebCM」「2024年、明るいCMプランナーたちが目指すこと」などです。
続きはぜひ誌面でご覧ください(ご予約・ご購入はこちら)。
- 【「明るいCMプランナーの会 2023→2024」参加者】
- 福里真一(ワンスカイ CMプランナー/コピーライター)
- 大石タケシ(電通 第2CRP局 CMプランナー)
- 神田祐介(神田商事 クリエイティブディレクター/CMプランナー)
- 栗田雅俊(電通 CMプランナー/コピーライター)
- 鈴木智也(博報堂 CMプラナー)
- 德岡淳司(博報堂 コピーライター)
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