本コラムでは、プロジェクトマネジメント力を高めるために必要な思考の型・原則・技法を身につけるドリル(練習問題)を、「プ譜」という共通フォーマットを使用して提供します。出題のネタは、古今東西のビジネス事例、歴史上の出来事、SNSで話題になった事例、マンガなどから幅広くピックアップ。すきま時間で楽しく取り組みながら、プロジェクトの計画立案や意思決定の力を高めることを意図しています。今回は誰もがよく知る納豆を題材に、未知のプロジェクトではどうしても起きてしまうヌケモレを防ぐための方法を考えます。
今回のドリルで鍛える力(ドリルの狙い)
・プロジェクトに必要な要素を洗い出す力
・要素の「あるべき状態」を定義する力
こんな問題に心当たりがある人にお薦め
・立てた計画によくヌケモレがある
プロジェクトドリル3問目「片手で納豆を食べよ」
難易度★☆☆
ドリルのシチュエーション
みなさんはある日ケガをして、片手が包帯でぐるぐる巻きになってしまいました。しばらくの間、生活も仕事も残る手一つでこなさなければいけません。そんな中、夕食に下図のようなパッケージの納豆を食べようと思いました。
片手で納豆をかき混ぜて食べるのは初めての経験です。納豆をかき混ぜて食べるというプロジェクトを成功させるための要素には、パッケージのフタ、カラシやタレ、納豆とカラシなどがくっつかないようにするフィルム、かき混ぜるための箸などの道具といった「要素」があります。これらの要素はプ譜の「中間目的」欄に該当します。
プロジェクトの計画づくりでは最初にこれらの要素をヌケモレなく洗い出すことが必要なのですが、大事なのは要素が「どのような状態になっているか?」の定義です。
「フタという要素がどんな状態になっているか?」「タレやカラシがどうなっていないと、次の段階に進めないか?」といったことを定義しなければなりません。
問題
フタを開けてから納豆をかき混ぜて食べるまで、どの「要素」がどんな「状態」になっていないといけないかを下のプ譜に記述したのですが、大事な要素と状態が1つ抜けています。それが何か考えて下さい。
解答と解説
このドリルは私のプロジェクト研修でもよく出すのですが、半分以上の方が、ある状態を見落としていて調味料を入れた納豆をかき混ぜられません。
その状態を見落としていることで、どのように納豆をかき混ぜられていないか、次の動画をご覧ください。
パッケージが箸の動きに合わせてくるくる回ってしまいかき混ぜることができません。このような「あるべきではない」状態になっている原因は、「パックが固定されている」という状態が抜けているからです。
ドリルの教訓
納豆を食べるという慣れ親しんだ行為であっても、片手しか使えないという未知の状況におかれると、大事な要素とその状態を見落としてしまいます(あるいはその可能性が高くなります)。
プロジェクトの仮説・計画を立てる行為は、まだ始まっておらず(未然)、形もない(未形)なかで行う難しい作業です。仮説には「予測」が含まれますから、当然大なり小なり見落としは起きます。それでも仮説段階でこれらの見落としを一つでも多く発見すれば、プロジェクトの失敗の芽を潰すことができます。
そのためには、未来の目標を実現しているとき及びその過程の状態を“ありあり”と想像すること。それを言葉にして書き出し、順に並べてみること。できれば一人だけでなく、プロジェクトに関係する人々と一緒にこれらの作業を行う(レビューする、レビューを受ける)といったことが効果的です。また、モックアップやプロトタイプなどを時間とお金をかけずにさっさと作って、早く小さく試すことで、これらの見落としを発見する可能性とスピードが高まります。さらに、必要と思っていた要素が実は不要だったというムダや、要素間の矛盾なども発見することができます。それにより余計なコストの支払いも防止することができるのです。
このドリルで参照したWebコンテンツ
竹林 崇@脳卒中リハの専門家, 作業療法士, PhD(医学)
片手に障がいを持たれた方のための『片手で納豆かき混ぜキット』がほぼ完成したと作業療法士の友人から連絡がありました。ケースにフィットする強力な滑り止めと、片手でパッケージを開ける工夫、備品の収納等、考えられています。需要はありますでしょうか?今までにない便利グッズだなと思います。 pic.twitter.com/rDAQ3n3TeO
— 竹林 崇@脳卒中リハの専門家, 作業療法士, PhD(医学) (@takshi_77) January 17, 2022
『プ譜』についての詳細はこちら
『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)
ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。
「プ譜」の解説動画はこちら
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