本コラム「世界の広報・PRパーソン400人が今、考えていること」も最終回となりました。本稿ではこれまでの5回を振り返りながら、今一度、要旨をまとめたいと思います。
出典は、独立系PRエージェンシーのグローバルネットワーク「IPREX(アイプレックス)」が昨年まとめたグローバル調査レポート「State of Global Communications and Marketing 2023」。世界28カ国431社の広報・PR担当者(各社1名ずつ)からの回答を集計したものです。
IPREXは、当社を含め62のパートナーエージェンシー(加盟企業)が世界100カ国・地域をカバーしています。回答は各クライアント企業に尋ねたものと、第三者機関を通して得たものが含まれていますが、事業会社の広報・PR担当者のみを対象としたグローバル調査としてはこれまでにない規模となっています。
それでは早速、振り返っていきたいと思います。
際立った「アジア」の特異性
第1回では、「アジアが最も広報・PRの難易度が高い理由」と題して、アジア地域のコミュニケーション環境の特異性を紹介しました。
地理、文化、言語が多様で、経済の発展度合いもさまざまというアジアは、世界で最もグローバルコミュニケーションが難しい地域として捉えられている。この結果には頷いてしまった方々も多いのではないでしょうか。
それ故か、第3回「日本の企業はどんなPR会社と仕事をするべきか?」の回で述べたように、エージェンシーの利用も進んでいます。国ごとにPR会社を雇う、グローバルPR会社と一括で契約する、(IPREXのような)国際ネットワークを活用する、とさまざまな利用方法がありますが、それぞれが欧米と比べても高かったのは印象的でした。
また、グローバルコミュニケーションをインハウスですべて賄っているという回答が、世界各地域と比べても低かったのがアジア太平洋地域でした。日本で広報・PRに従事される皆さんは、こうしたコミュニケーション環境とトレンドを押さえておくと、自社で動く際にも役立つでしょう。
テクノロジーで広報業務はより「深化」する
第4回では、生成AIを中心としたテクノロジーの進化に触れました。さまざまなAIプログラムの登場に注目が集まる中、AIの真価は業務効率化だけでないと、米DHパートナーのアンドレイ・ミルロイは説きました。
「AIの肝はオーディエンスの深いインサイトを得られることと、莫大な量のデータを取得し分析できること。これにより私たちは、より高度な思考、分析、クリエイティブに時間を使うことができるようになるでしょう」
調査結果でも、グローバルで50%の回答者は今後のグローバルコミュニケーションが「難しくなくなる」と楽観的な見通しを持っており、そのうち3人に1人はテクノロジーをその要因として挙げていることもわかりました。
テクノロジーの活用は今後必要不可欠となり、単に日々の業務を楽にするツールではなく、いかに「これまでできなかったこと」を可能にできるかという視点で採り入れるのがよいでしょう。
グローバルコミュニケーションは経営イシュー
第2回の記事では、 広報・PR業務がなかなか「経営陣に理解してもらえない」という課題を浮き彫りにしました。同様に、ブランド・メッセージの一貫性もグローバルコミュニケーションのイシューのひとつであること、またダイバーシティへの取り組みも北米を中心に進んでいること(第5回)も明らかになりました。
こうしたブランディングやDEIB(ダイバーシティ&インクルージョン、エクイティ、ビロンギング)は経営課題そのものであり、それゆえに「経営陣の理解」が一層必要であるということでしょう。単にメディアリレーションズや報道対応以外にも広がるコミュニケーション業務のダイナミズムも感じられるのではないでしょうか。
こうしたグローバルトレンドを一度に見られる調査レポートはなかなか他になく、各国の広報・PR担当者が国を超えて共通理解を得られる一助になるでしょう。
今回のレポートをとりまとめたIPREXの前グローバルプレジデントであるジュリー・エクスナーの言葉を、最後に紹介したいと思います。
「インド・ムンバイでメディア対応を行う場合でも、シンガポールで戦略を立てる場合でも、ベネズエラのカラカスでコンテンツを制作する場合でも、世界中のコミュニケーション担当者には、場所の違い以上に多くの共通点が存在します。
これは、本グローバル調査から得られた重要なポイントのひとつです。ますます二極化し困難になる社会の中で、その共通点は心強くも感じられます。世界のどこにいるかに関係なく、私たちは同じ課題を共有し、そして機会を提供していければと思います」