「言葉」と「絵」だけが人を本当に動かせる
阿部:最初に前田さんの自己紹介をお願いできますか。
前田:前田高志と申します。NASUというデザイン会社をしております。NASUというのは「成す」という意味で、これは僕が「デザインとは、何かを良くしたり、成功させたりするためにあるものだ」と考えていることに由来しています。
阿部:元々は任天堂でデザイナーをされていたんですよね。
前田:そうですね、15年くらい働いていました。ゲームのように、「遊んでみないとおもしろさがわからないもの」の魅力を、どうすれば遊ぶ前に伝えられるか。そこをデザインの力で”なんとか”しようと一生懸命に考えていたのが今につながっています。
これは決して「アートとコピー」に合わせて言っているわけではないのですが、本当に人の心を動かして行動まで変えられるのは「言葉」と「絵」しかないと思っていて。だからこそ広告の基本は「言葉」と「絵」なんですけど、企業経営においても「言葉」と「絵」があることで、限りある経営資源を一つのベクトルに向けて使っていくことができる。それを積み重ねながらイノベーションが起きやすい状態をつくっていくのがクリエイティブだと考えています。
阿部:前田さんはコンテンツデザインや広告領域にとどまらず、デザインの力を使ってプロジェクトや経営まで実践されていてすごいなといつも拝見しております。その背景には、「言葉」と「絵」が積み重なって、より良い仕事や経営が生まれていく”状態”をつくろうという一貫した企てがあったんですね。
「見つかりにいく努力」ができているか?
阿部:第三期で前田さんにご登壇いただいた回は、「SNSとどう向き合い、付き合うか」がテーマでした。100枚を超える魅力的なスライドをつくって講義をしていただきました。
前田:阿部さんと知り合って、講座に呼んでいただけるようになったきっかけもSNSですよね。そもそも僕はデザイン業界やクリエイティブ業界に自分が混ざっている実感すらあまりなかったんですけど、最近はそういう集まりにも呼んでいただけて、その際にSNSがおもしろいと褒められることが多いんです。それで初めて、自分はなんでSNSをしているんだろうと考えたんですが、決して自分は「発信を頑張っている」わけじゃない。「発信を頑張っているからいろんな仕事が来て、楽しそうにやっている」と思われているのかもしれないけど、それも違う。仕事が来たり声がかかったりするのは単なる結果です。僕はあくまでも、自分の全部を出した上で、全部出すしんどさを常にキープしようとしている。SNSはそのために使っています。もちろん、単に好きだからとか、人間性に合うからとかの理由もありますけどね。
阿部:僕は決してSNSでの発信が得意な訳ではないのですが、SNSは「友達を増やすツール」なんじゃなくて「自分を増やすツール」なんだと思ってから向き合い方が変わりました。自分の分身がXにもインスタグラムにもnoteにもいる状態をつくっておくことで、「あの人はこういうことをしている人なんだな」と誰かに見つけてもらいやすくなる。そうすることで出会いの面積が広くなる。SNSで自分の可能性を広げていけるのなら、それとどう向き合うか、一度考えてみることに意義があるのではないかと思い講義のテーマにしました。前田さんにご担当いただけて、参加した皆さんがすごくいい刺激を受け取っていたなと思います。
前田:ありがとうございます。僕みたいなことを言っている人もあまりいなかったと思うし、そもそも広告業界のクリエイターはSNSが苦手な人も多いと思うんですよ。発信するのはカッコ悪い、語りすぎるとカッコ悪い、みたいな空気もありますし。
阿部:わかります。でもそこでうまくSNSとの付き合い方を見つけて、自分の状態を共有することによって、チャンスや機会が広がっていっているのも事実なんですよね。
前田:たとえば僕が発信することによって、大御所のデザイナーに「アイツ言ってることめちゃくちゃだよ」って言われちゃってもおかしくないじゃないですか。でも、それはそれでいい。そっちの方がおもしろいし、気づきもあるし、応援もされる。
阿部:そうなんですよね。応援も生まれる。僕は今の時代、「見つかりにいく努力」をするのが結構重要になってきていると思うんです。「ブレーン」などの広告系の雑誌でアートディレクターやコピーライターの方を知ることもありますが、今こうしてみんながSNSを持った時に、「自分から見つかりにいける」という選択肢が一つ生まれて、そこに対する努力をするかしないかが新しい分かれ目になった。僕にとって「見つかり方」は3つあると思っています。それは、「講座」と「賞レース」と「メディア」です。講座を通じて同じ気持ちで何かを目指す、同志と呼べるような同期と出会って、声を掛け合ったり、何か成果が出た時にSNS上でも応援しあえるような関係性をつくること。賞レースに参加し、王道で勝負してもいいし、まだ誰もトライしていない裏道を発見して目立つことを狙うのもいい。メディアは人の経験談を求めているので、noteなどに「自分はこうやって頑張ってきた」というこれまでの軌跡をまとめておくと取材の話が入ってきたりする。そうやって「見つかりやすい状態」をつくることに大きな意味があるんじゃないかと。前田さんがおっしゃっていた「クリエイティブとはいい仕事が生まれやすい状態をつくることだ」にも繋がってくるのかなと思っています。
こんな時代に異様に熱い。出会いの渦に、いざ飛び込め!
阿部:登壇してみての率直な感想はいかがだったでしょうか?
前田:令和の時代にもこんなに熱い人の集まる場が残っていたのか!と思いました。僕が20代の頃なんかは転職も珍しかったから、一度「デザイナーになる」と決めたらとにかく食らいつくしかなくて。みんな必死に何か掴もうとしていたし、いいものをつくろうとしていました。でも今はそれが薄れてきている。「おもしろいこと」「やりたいこと」が人それぞれに分散して、しかも割とすぐにできてしまうからでもあると思います。それが、この講座にはまだあの熱があったと。講義終了後の質問の列も全然途切れなくて、「自分の作品に何かフィードバックください!」と次々に食らいついてきて。質問に来ない人は、それはそれで教室の一角でもう次の作品の打ち合わせに入っていたりして。
阿部:前田デザイン室からも前田さんの紹介で何人も受講してくれていますよね。
前田:はい。ものすごくやる気のあるタイプの人も参加していますし、よくできるのに「自分なんて」と遠慮しがちな人にも声をかけて参加してもらっています。そしたら結果として広告賞の受賞に繋がって、実力の証明になっていました。
阿部:出会うことによってチャンスが生まれて、受賞に結びつく方も本当に続々と生まれていますね。
前田:これだけ熱い人が集まってきて、競い合いを通じてさらに熱くなる仕組みができている場は珍しいのではないでしょうか。アートディレクター養成講座もコピーライター養成講座も熱い人が来ますが、「アートとコピー」は両方からきますから。
阿部:この空気感は例年の特徴なので、四期でも同じです。一皮剥けたい、変わりたいと思っている人にはとても良い機会になると思います。「少しでも何かを掴み取りたい」というその思いをポートフォリオにぶつけて、ぜひご応募ください。お待ちしています!
(質疑応答)
Q. 参加できる人のレベルの目安を教えてください。
A. 何より大事なのはやる気です。というのも、どれだけできるかというより、それよりは人それぞれに積み重ねてきたものに注目したいと考えるからです。この講座では、自分の力と相手の力を組み合わせて最大限にしていきます。過去には学生で参加されて伸び伸びと取り組み結果を出された方もいますし、デジタルに知見のある方が参加して朝日新聞広告賞のデジタル連携の部で結果を出された方もいます。レベルやジャンルより、やる気。そう思っていただければと思います。
Q. 参加にはポートフォリオの提出が必須ですが、どのような内容だと良いですか?
A. 必ず「こういう内容がないといけない」というものはありません。これまでに書いたものやつくったもの、してきた活動を「伝わる」ようにまとめてください。選考の際に見ているのは、どんな人なのか、出会う準備ができているかという点です。あとはご自身の解釈で構いませんので、気持ちのこもったものをお待ちしています。
※受講決定後、講座同期生にそのままポートフォリオを共有しますので、共有が難しい件は記載しないでください。
Q. 講座当日にどうしても都合がつかない場合のアーカイブ受講は可能ですか?
A. 残念ながらアーカイブ受講は実施しておりません。ただ8ヶ月の中で不測の事態も起きうるかと思います。その際には別途ご相談ください。
Q. コンビを組んだ受講生同士はどのように連絡を取り合っているのでしょうか?
A. zoom、Miro、LINE通話、Google Meetなど、それぞれがやりやすい手段で連絡をとりながら制作を進めています。遠方からの参加者の場合、講座の期間を通して一度も直接会っての打ち合わせをしたことがないという方もいますが、問題なく受講いただいています。
Q.忙しくて課題への時間が割けない時などはどんな工夫をしていましたか?
A. 課題とコンビの発表は、毎回の講義の最後に行われます。そこから課題の提出まではおよそ3週間あります。この3週間を毎回フルで全力疾走する必要はなく、事前に忙しくなる時期がわかっている場合はそこを避けたり、各々がアイデアを考えてくる時間と詰めて作業する時間を分けて緩急をつけたりと工夫されています。アート生は締め切り直前にどうしても作業が増えるので、職場や家族に理解してもらってサポートを受けるという方もいらっしゃいました。
阿部 広太郎
電通/コピーライター
電通入社後、人事局に配属されるも、クリエーティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。自らの仕事を「言葉の企画」と定義し、広告クリエーティブの力を拡張しながら社会と向き合う「クリエーティブディレクター」を目指す。2015年より、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)。
前田高志
NASU クリエイティブディレクター/デザイナー
1977年兵庫県生まれ。大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂株式会社に入社。約15年広告販促用のグラフィックデザインに携わったのち独立。 2016年2月からNASU(ナス)という屋号でフリーランスとしてスタート。NASUとは、デザインで成(為)すの意。同年4月から専門学校HALにて非常勤講師に。2017年から大阪芸術大学非常勤講師に(現在はいずれも退任)。 2018年NASUを法人化。「美しさ」と「遊び心」のあるデザインが強み。クリエイターコミュニティ「マエデ」(旧前田デザイン室)を主宰。 2021年『勝てるデザイン』(幻冬舎)、『鬼フィードバック』(エムディエヌコーポレーション)を出版。 2023年にビジネス書とデザイン書の新刊発売予定。
広告業界を超えて活躍する、最強のコンビを、ここから。
コピーライター養成講座×アートディレクター養成講座
「アートとコピー」コース 阿部広太郎クラス
第4期、エントリー締切(2月15日)迫る!
コピーライターとデザイナー・アートディレクターが共に学び、切磋琢磨し合う特別な講座です。
◯2024年3月9日(土)開講
◯コピーライターとデザイナー・アートディレクターをそれぞれ25名ずつ募集します。
◯2024年2月15日(木)エントリー締め切りです。
◯エントリーのためにはポートフォリオ提出が必要です。
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