栗原聡さん
慶應義塾大学 理工学部教授、慶應義塾大学共生知能創発社会研究センター センター長。慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。博士(工学)。NTT基礎研究所、大阪大学、電気通信大学を経て、2018年より現職。科学技術振興機構(JST)さきがけ「社会変革基盤」領域統括。人工知能学会副会長・倫理委員会委員長。
Q 世界の人工知能研究における日本の状況についてどう見ていますか。
2016年にディープラーニング搭載のAI囲碁ソフト「アルファ碁」と、当時世界トップクラスの実力を誇っていた韓国の対局で、AIが勝利しました。このニュースは世界に大きな衝撃を与えると同時に、人工知能やディープラーニングといったワードが注目を集め、この年は「人工知能元年」と呼ばれるようになりました。
私がこの一連の出来事を振り返って感じるのは日本の研究力の低下です。昨年の生成AIの登場など、これらのブームは全て海外が発端となっているということ。日本と違い、海外では開発して終わりではなく、実用化まで確実に結び付けているのです。日本は海外からかなり遅れを取っており、この状況に私は焦りを感じます。主導権は他国に譲ったとしても、日本も何か存在感を発揮できるはずなんです。
Q AIと人間の共創マンガの実現に取り組む「TEZUKA2023」プロジェクトで印象に残っていることを教えてください。
制作の最終段階に入り、作品の最後に出てくるAIがつくった主人公のセリフを、手塚治虫さんの子息、眞さんが書き換えました。AIのセリフは、メンバー一同納得のいく良い内容でした。でも完成間近の最終チェックで修正した眞さんのセリフもすごく良かった。そこには、父親である治虫さんと親子として暮らした日々のエモーショナルな体験や記憶といった、血のつながりのある絆が存在していたからだと思ったのです。こんなセリフは、そうした人間らしいバックグラウンドを持たない今のAIには到底出せないだろうなというもので、AIの性能面に新たな課題を見出すきっかけになりました。
栗原聡のインタビュー記事は、月刊『宣伝会議』2024年3月号に掲載。
月刊『宣伝会議』デジタルマガジンでは、2013年から本連載の過去10年分のバックナンバー記事を閲覧可能です。