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第8回 東京ガス「電話レシピ」篇
わたし、ラジオ好きコピーライターの正樂地咲がお届けします「名作ラジオCMの時間」。
第8回は、2012年のACCラジオCM部門ゴールドを受賞した、東京ガスの「電話レシピ」篇をお届けします。
その衝撃を私はずっと忘れないだろう。
学生時代からラジオが好きで、広告会社に入社してからは、特にラジオCMをつくることが楽しかった。
プランナーになって5年目くらいで、今よりもっと訳が分からないままに、勘というとひどい話だけれど、ラジオCMといえば、こんな感じかなというものをなんとなくでつくっていた頃。
少し愉快な会話をして商品に落ちる、関西弁だとよりそれっぽい。人生を語るようないい話をして、教訓めいたコピーで〆る。先輩たちの名作を聴いては、その本質を理解できないままに、フォーマットだけ真似ていたそんなある日。このラジオCMに出会った。
冒頭、電話の呼び出し音で始まると、女性がひとりで喋りだす。
- 電話で話す若い女性:
- あ、もしもし、おかあさん、
- あのね、
- 聞きたいことがあって
- 電話したんだけど、
- むかしつくってくれた
- あのコロッケって
- どうやってつくるんだっけ。
どうやら女性は彼女の母親に電話をかけているようだ。
そう、電話の相手の声は聞こえなくて、こちらには女性が喋る声だけが聞こえる。いわば、友だちが親に電話かけているのを横で聞いているような感じ。喋り方も実に生々してく、広告でこんなのもありなんだと驚いた。
そしてこう続く。
- 電話で話す若い女性:
- ゆでたまごをゆでる。
- うんうん。
- じゃがいも。パセリ。
- パセリとかないな。
- パセリなくてもいいか。
- うんうん、今から作ろうと思って。
- うんうん。え?
- それをぜんぶまぜて?
- こねればいいの?
ここからはもうフェチの話で、さらに実際の音源をお聞かせできないこのコラムで書く話でもないのだけれど、私はこの女性の声も喋り方もすごくいいなぁと思ったのだ。
特に「パセリとかないな。パセリなくてもいいか。」の言い方ね。
これはこの企画のプランナーである、(つづく。)のクリエイティブディレクター/コピーライター 細川美和子さんが、実際にお母さんに電話をかけて、コロッケのレシピを聞いている声をそのまま録音したと後から知った。
知ったというのは嘘で、あまりに好きすぎて、制作会社の方が知り合いだったので、その方に電話して、どうやって録音したのかを聞き出したのだ。
ここから、私はラジオに限らず、自身の生活の5mにも満たない距離で流れている日常も、また、広告になることを知った。
ちなみに、私には、これだと!思うとしつこく追いかける癖があり、あなたのラジオCMが好きだ!と細川さんにじりじり近づき、お酒の席では、細川さんのモノマネをしながら、丸暗記したこのラジオCMを再現するという、狂気にまで至った。
もし人生でもう1本のしかラジオCMしか聴けないと言われたら(そんな状況意味不明だけれど)私は迷わず「電話レシピで」と答えると思う。もう心の底から大好きなラジオCMなのだ。
- 東京ガス「電話レシピ」篇(2012年)
- 〇C/細川美和子
- SE:
- プルルル(電話の呼び出し音)
- 電話で話す若い女性:
- あ、もしもし、おかあさん、
- あのね、
- 聞きたいことがあって
- 電話したんだけど、
- むかしつくってくれた
- あのコロッケって
- どうやってつくるんだっけ。
- ゆでたまごをゆでる。
- うんうん。
- じゃがいも。パセリ。
- パセリとかないな。
- パセリなくてもいいか。
- うんうん、
- 今から作ろうかと思って。
- うんうん。え?
- それをぜんぶまぜて?
- こねればいいの?
- 若い女性(モノローグ):
- ネットでレシピも
- 調べられるし、
- メールで聞けばすむんだけど
- やっぱり電話をかけてしまう。
- もしかしてわたし、
- お母さんの声が聞きたくて
- 料理してるのかな。
- だからあんまり、
- うまくならないのかもしれない。
- なんて。
- NA:
- 家族をつなぐ、
- 料理のそばに。
- 東京ガス
本コラムは隔週でお届けしていきます。次回は2週間後の2月22日(木)。さらにその翌週は、2人のスペシャルゲストをお迎えしてお届けします! また皆さまとお会いできますように。