マーケティング全領域を掌握するCXOに対峙する戦略CD
従来は広告領域に限られるケースも少なくなかった企業のマーケティング・コミュニケーション。しかし現在は、事業や商品・サービスのブランディングやセールス、そしてCRMなど、領域が拡大している。
「さまざまな観点からクリエイティビティを発揮する戦略CDが必要とされている」と話すのは、博報堂の中川悠氏だ。同社では、博報堂DYグループなど総勢2000人規模のクリエイティブチーム「HAKUHODO CX FORCE」を発足。生活者価値を起点にバリューチェーン全体での顧客体験(CX)のデザインに携わっている。
商品機能の差別化に限界を迎えていること、人口減少を見据えたLTV経営への対応不足、パーパスアクションの不在…。さまざまな課題が各企業の前に横たわる中、「プロダクションからコミュニケーション、リレーションと、幅広くCXの観点を取り込む必要があると考えています」と中川氏。同氏が手がけた「BEERY(ビアリー)」「東京海上グループ イーデザイン損保 &e(アンディー)」という具体例を紹介する。
言葉と色を工夫しCXを向上させた「ビアリー」
「ビアリー」は、アサヒビールが販売する微アルコールビールテイスト飲料だ。「ビール製造後にアルコールを除く」という手法を取り入れた商品だが、ヨーロッパでは普及している一方、日本ではまだ珍しい。市場をどのように広げていくかについて、中川氏は、「いきなりスペックから考えるのではなく、社会潮流から始める」と提案した。
「ビール系飲料は既にいろいろ販売されており、新商品を出してもなかなか売れない。陳列棚に残り続けるには、社会の潮流に乗らないと売れないと考えた」(中川氏)
着目したのは、「ソバ―キュリアス」というライフスタイルだ。飲酒を我慢するのではなく、ポジティブな気持ちで「あえて飲まない」というもので、中川氏は「微アルコール」というフレーズに置き換えた。商品名も「微アルコール」をもじった「ビアリー」とし、生活者の記憶に残ることを企図。同時に黒基調のパッケージを採用し、「本格的な味」であることも表現した。
「複雑なシステムや莫大な設備投資ではなく、言葉やデザインによってCXを向上させることは可能」と中川氏は話す。
パーパス策定からスタートした「&e」
「&e(アンディー)」は、東京海上グループのイーデザイン損保による、自動車保険サービスだ。スマートフォンアプリと車載センサーを活用し、事故の際だけでなく、日常の運転もサポートするのが特徴。運転状況をスコアリングし、その成績によってポイントを付与する機能などがある。
「重要なのは、『事故のない社会を共創する』という、イーデザイン損保のパーパスを具現化するタッチポイントにもなっていること」と中川氏は話す。「&e」で取得したデータを基に、渋谷区とは、区内の危険な箇所を視覚的に把握できるよう、「『&eセンサー』自動車運転挙動 検知マップ」を作成。同区がスマートシティ構想の一環で提供するデータ可視化サービス「シティダッシュボード」で提供している。
登山アプリ「YAMAP」とは、登山者の安全を共創するプロジェクトを展開。また、金沢大学と共同で道路上で、特に子どもにとって危険である場所を可視化するWebサービス「もしかもマップ」を提供している。
「パーパスの策定という、上流のコミュニケーションから、具体的にどのような形で結実させていくか、という視点が大事だと思う」(中川氏)
CX創造にはバリューチェーンの統合が必要不可欠
CX向上を図る上で、課題となるのは、「組織や機能の分断」(中川氏)。分断には大きく分けて4つのパターンがあるという。中川氏いわく、「パーパスと体験がつながっていない」「取得したデータを活用できていない」「オンラインとオフラインそれぞれの体験が独立してしまっている」「バリューチェーン領域ごとに存在する部門が連携できていない」だ。
これらの課題への対処法は、「新規顧客を含む、生活者価値起点でのバリューチェーンを捉え直すこと」(中川氏)。
オンラインとオフラインとの統合、潜在データと顕在データを統合した分析を踏まえた体制づくりも重要だ。
「これらを実現する上で必要な役回りとしては、プロジェクトを推進する『CXリード』、さまざまなバリューチェーンに対応できる『CXクリエイティブ』、データをうまく活用する『CXデータコンサルタント』の3つ。これらが役割を果たし、相乗効果を生むことが、バリューチェーン横断で向き合うCX創造には欠かせない」(中川氏)
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HAKUHODO CX FORCE
URL:https://www.hakuhodo.co.jp/cxf/