――昨今、TikTokのマーケティング活用について企業の経営層の関心も高まっていると聞きます。この状況を、どのように受け止めていますか?
堤洋祐氏:インターネット市場全体が拡大するなかでも、動画市場の隆盛は言わずもがなです。さまざまなコンテンツの動画化が進み、多くの人たちがスマートフォンを有するいま、生活のあらゆる場面で動画を視聴することが当たり前となっています。そのようななか、広告主においては、動画コンテンツを活用するか否かを決めるフェーズは終わり、活用する前提で、どのプラットフォームを選ぶか、という段階に入っていると感じます。
また、生活者の動きとして注目していることとして、検索行動自体を動画プラットフォームのなかで行っていることが挙げられます。可処分時間のなかで、映画やドラマなどの映像コンテンツを楽しむといった、従来のエンターテインメントとしての消費だけではなく、なにかアクションを起こそうとしている際に、判断材料を収集するためのツールとして活用されているなど、より生活に密着したコンテンツになっています。
手塚孝氏:私たち自身は実は、TikTokを“エンターテインメントプラットフォーム”であると定義しています。堤さんのおっしゃる生活者の行動は、まさにTikTok上で顕著に起きていることです。TikTokを見た方の9割以上※がなんらかの行動を起こしますが、なかでも購買行動が高まった方は25%※に上ります。このような結果も受け、私たちとしては、コンテンツによって人の態度変容が起きるものと考えています。
※出典:カンター「TikTok Marketing Science Global Time Well Spent」、2021年3月
また、TikTokの特徴のひとつに「レコメンドシステム」があります。これは、コンテンツを関心のある方に届けるための仕組みで、それによって、コンテンツが持つメッセージがユーザーに直接的に響いていくことがポイントです。この点がまさに、コンテンツが主体の“エンターテインメントプラットフォーム”として果たす役割と考えています。
堤さんに「検索」という例を出していただきましたが、ここ20年ほどのWebにおける生活者の行動を大まかにとらえると、やはりまずは検索。ユーザーがほしい情報を自ら取りに行くことがメインだった時代があります。その後、ソーシャル(メディア)の時代になって、友人や知人、同好の士といったコミュニティの中で情報を共有しあうようになりました。
いまそのあとに何が起きているか。それはコンテンツの時代です。興味関心はあるのだけど、まだ自覚的でない段階があります。コンテンツにふれて初めて、自分の求めているものがわかる、発見がある、ということです。能動的に欲しい情報を取りに行くだけでなく、コンテンツの力によって、自身の興味を発見する、プラットフォームとユーザーの関わり方が広がっていると考えています。
堤:また、TikTokは、プラットフォームのブランド力という点でも、他のプラットフォームとは異なった魅力を感じます。実際、クライアントにおいても、現場の担当者だけではなく、経営層も、TikTokに関心を向けていらっしゃいます。TikTokで施策を打つことが、企業のマーケティング活動における新たなチャレンジとして捉えられています。
宮内良輔氏:先ほどお話にあった、どのプラットフォームを選ぶか、という点とも無関係ではないように思います。マーケットを広げていく上で、私たちとしても改めて、なぜTikTokなのか、TikTokをどのように活用するのかについて考えを深めていきたいと思います。
――商品の価値を伝えるには、クリエイターを起用した「Through Them」と企業が主語の「To Them」の組み合わせが大事と。
堤:TikTokが、オリジナリティある世界観をつくっている理由の一つには、クリエイターの存在が大きいと思います。これは、エンターテインメントの文脈だけではなく、さまざまな業種・商材においても言えます。
当社の事例では、一見、商材特性がわかりにくいと感じられてしまう金融サービスなどが挙げられます。先ほど、手塚さんから「発見」というキーワードがありましたが、クリエイターの力を借りながら、TikTokの世界観のなかで、どのように表現し、ユーザーに届けていくか、そこが大切なポイントです。企業が一方的にメッセージを発信するだけではなく、よりユーザーに近い目線を持ったクリエイターを起用することで、一見わかりにくいと感じてしまう商材でも、自身の身近にあることとして関心を寄せてもらえると考えています。
宮内:TikTokはまさに、クリエイターのコンテンツによって拡大しているプラットフォームです。彼ら・彼女らの言葉で伝えてもらうことを、私たちは「Through Them」と表現しています。クリエイターの世界観を通じて、ユーザーの行動を喚起するということです。
対となる手法は「To Them」です。企業を主語にメッセージを発信するということになります。
手塚:当社としては、「Through Them」と「To Them」のふたつを組み合わせ、相乗効果を高めることがポイントだと考えています。
企業を主語としたブランドメッセージ、商品・サービスの世界観をユーザーに届けること、つまり「To Them」は重要なアクションです。しかし、堤さんのおっしゃるとおり、それだけでは、ユーザーが当事者意識を持ちづらいケースがあることも確かです。商材特性がそういった企業からのメッセージの形態ではなかなか伝わりづらい。
志田宇大氏:そうですね。広告業界で動画を制作しているなかでもそのように感じます。専門性の高い商材・サービスであっても、クリエイターの皆さんのように、わかりやすい言葉や親しみのある言葉を用いるなど、表現を少し工夫するだけでユーザーに届きやすく、反応を得やすいということを強く実感します。
手塚:「Through Them」が効果的であることは、ここまでのお話のとおり確かです。ではなぜ、双方をうまく組み合わせる必要があるかというと、やはり守るべきブランドとしての世界観というものがあって、それは企業から発信することが大切だからです。ブランドの世界観を守りながら、ユーザーに発見してもらい、当事者意識を高めてもらう「Through Them」を活用していくことが、TikTokを用いたマーケティングでは有効であることがわかってきています。
――オプトでは、TikTokのコンテンツ制作においてどのようにPDCAを回していますか。
志田:オプトは、これからもTikTokに注力していく方針です。それは、動画コンテンツの制作についても同様です。社内では、TikTok向けの動画広告制作をリードする組織「縦型スタジオ」を立ち上げ、1年強が経過しました。
「縦型スタジオ」では、特にTikTokを活用したダイレクトマーケティングに注力しており、この分野で不可欠なのがPDCAを回していくことです。PDCAを回していく上で、大切なのは、動画を制作する「量」とその動画の「品質」です。
制作する動画の数については、パートナー会社との連携や参考となる動画素材の収集に努めるなど、対応するための体制を構築しています。
品質については、TikTok上でユーザーから多くの反響を得ている動画について、その背景を詳しく研究しています。そこでは、さまざまな要素を発見しています。特に、新しい発見だと感じたことは、人気のある動画には、セールストークの原理と同じ要素が含まれていたことです。詳細は省きますが、PASBECONA(パスビーコーナ)の法則※があてはまるのではないかと思っています。人気のあるクリエイターのコンテンツは、この原理のもと制作されていることもあり、共通の原理があると感じました。
※1999年に神田昌典が提唱した「ユーザーの購買行動を促しやすいメッセージの伝え方」を具体的に示したマーケティングの基本法則。
表層的に有名な動画をマネよう、模倣しようではなく、当社として培ってきた知見を生かしながら、TikTokの世界観に合わせてアレンジしていく。そうした制作を重ねることで、品質を高めています。
堤:先ほど、金融サービスの事例についてお話ししましたが、成果の部分についてもう少しお話ししますと、志田が紹介した動画制作の工程を踏まえて、TikTokの施策のみで、新規顧客からの問い合せ件数が、支援当初からの対比で400% というシンボリックな事例となっています。
私たちのようなエージェンシーの存在意義は、クライアント、商材やサービス、そして生活者について理解することが重要です。それは、TikTokでプロモーションする際も変わりません。私たち自身が、クライアントを理解すること、商材を理解すること、そしてユーザーインサイトをとらえていなければ、広告運用やクリエイティブにも反映できませんし、それをクリエイターに伝えてもらうことは極めて難しいと思います。
例えば、金融サービスのクライアントは、検索連動型広告に比重を置かれているケースが多いのですが、先程お話したクライアントの場合は、成果を踏まえて、TikTokを中心にディスプレイ広告の比率を高めています。手塚さんのお話にもありましたが、検索は欲しい情報を自ら取得する行動です。しかし、自分に必要であることを自覚する前のユーザーに、いかに共感していただき、振り向いていただくか。クライアントのビジネス上でも、とても重要な戦略になっていると思います。
志田:成果をもとに、どう次に生かすかという点で重要なものはデータです。オプトが開発・提供している統合データ活用プラットフォーム「ONE’s Data 」は、昨年3月から、TikTok for Businessとサーバー間の連携をしています。Cookie規制にも対応しており、ユーザーの興味関心に合わせたターゲティング、広告の最適化、キャンペーンの測定ができるようになりました。
そのため、自社Webサイトなどのユーザー行動を「ONE’s Data」経由でTikTok側に共有することで、ショッピング広告やダイナミックプロダクト広告、カスタムターゲティングなどのTikTokソリューションを強化することが可能です。こうしたPDCAの「C」の部分をどう強化するか、ということを、いままさに考えなければなりません。
宮内:オプトさんとは昨年、クライアント向けの動画コンテンツ制作のワークショップも開催しましたね。TikTokクリエイターと一つのテーブルで動画を企画するものでした。クライアントとテーブルを囲み、同じ目標に向かうというのも重視しているところです。
志田:PDCAというと、いかにプラン(P)、事前計画を綿密に組み上げるかというところに工数をかけてしまいます。しかし、動画制作で忘れてはならないことは、感覚的な面白さ、視聴するユーザーへの親近感です。
実行(D)してみて初めて、プラン(P)で足りなかったものがわかりますし、チェック(C)の項目も、実行したのちに増えるということもあります。この結果を、次のプラン(P)に生かすのであれば、最初のプラン(P)を必要最小限で実行に移すほうが、成果としては伸ばしやすいということです。
手塚:まさに。クライアントにコンテンツについて、より直接的、当事者としてご認識いただくことで、クライアント自身での「To Them」にもつながっていくことでしょう。PDCAを確実に実行する上で、エージェンシーは極めて重要だと思います。クライアント、オプトさん、TikTok for Businessの3ウェイで共にキャンペーンを回していくことが、クリティカルな成功要因になると思います。
――今年はCookie規制が本格化することが見込まれています。
堤:「Cookie規制」による追跡型広告制限(LAT:Limit Ad Tracking)は、マーケティング領域において大きなインパクトになると考えています。各社準備をしているところだと思いますが、それでも衝撃をもたらすでしょう。
いわゆるマーケティング・ファネルにおける上層部である、認知や興味に該当する、アッパーファネルを広げることが非常に重要になります。
手塚:LATはデジタルマーケティングにおけるパラダイムシフトだと思います。従来のCookieをベースとしたパフォーマンス・マーケティングではない、新たなパフォーマンス・マーケティングを、このCookieレスの時代において構築すること。そこが大きなマイルストーンになります。
「ONE’s Data」との連携も、新しい計測手法にかかわるところです。そして冒頭でもお話ししましたが、コンテンツの力が大変重要。トラッキングによって追いかけるのではなく、ユーザーのほうから興味・関心を示し、メッセージを受け入れ、結果的にアクションにつながる、そういった態度・行動を起こすことができるのは、コンテンツにほかなりません。
堤:広告業界に身を置くものとしては、広告が持っている特徴の一つにある、エンターテインメント性を大切にしていきたい思いもあります。広告を通じて明るく楽しい気持ちになるという感情はもちろんのこと、感動する、心が動く、といった、より本質的に人の感情に訴えかけるような広告を提供していきたいです。
しかしながら、リターゲティングを代表するように、企業側のマーケティング効率を求めるがあまり、広告には強いコンテンツ力があるということよりも、生活者に、邪魔なもの、見たくもないもの、というネガティブな印象を抱かれてしまったことが、特にデジタルマーケティング界隈での、ここ10年、20年だったのではないかと思います。
広告が持つ本質的な価値、広告のエンターテインメント性は、企業がマーケティング活動をするうえで重視していただきたいことです。今後も、TikTokが持っている世界観を生かした、人の感情の琴線に触れるような、エンターテインメント性を感じていただける広告表現をより強化し、顧客に寄り添った取り組みを一緒につくっていきたいと思っています。
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