(本記事は月刊『宣伝会議』2023年11月号の転載記事です)
ChatGPTで、ジョブを捉えたキャッチコピーを出力
多様な情報を基に、質問応答やアイデアを出力する能力を持っているChatGPT。この技術を利用することにより、ジョブ理論(JBTD)のアプローチをより具体的に、かつ柔軟に実行できる。今回は、JBTDとChatGPTを、「広告・宣伝」で活用する手法を考えていく。
まず前半では、大都市郊外のターミナル駅近くに新しい商業施設を立ち上げるシチュエーションを考えてみる。ターゲットとなる顧客層の「ジョブ」を明確にし、それに基づいて効果的な広告戦略を練りたい。
商業施設の立ち上げやリニューアル時、顧客の“ジョブ”を解明し、それに基づいた広告戦略を練るのは至難の業だ。しかし、JBTDをしっかりと活用することで、その難題が解決へと進む可能性が高まる。
大都市郊外のターミナル駅の近くに商業施設を開く際、そのターゲットは駅近くのファミリー層や、やや遠方のシニア層であるとしよう。この2つの顧客層が抱える“ジョブ”は何か?ファミリー層は「子供との楽しい時間を過ごしたい」「家族全員で買い物を楽しみたい」など。一方、シニア層は「健康を維持したい」「日常の疲れを癒したい」などが考えられる。
今回、商業施設は、そのポテンシャルを最大限に引き出すために、ファミリー層とシニア層の2つの主要な層に焦点を当て、共通のジョブを探求するという戦略をとることにしてみよう。
ここでの最大公約数的なアプローチとは、両層に共通するニーズや欲求を探ることを意味する。例えば、先に挙げた世代間のコミュニケーションや健康といったトピックは、ファミリー層もシニア層も共通して関心を持つテーマである。この共通のテーマに基づいて、各店舗のコンセプトやサービスを展開することにより、より広い顧客層にアプローチすることが可能となる。
具体的にテーマと、キャッチコピーをChatGPTに考えさせてみると、以下の候補を得た。
1.ヘルスハーモニー:
-共通のジョブ:「健康を維持・増進したい」という共通のニーズ。
-キャッチコピー:「健康とハーモニーの中心、すべての世代のためのワンストップヘルスケア」
2.ジェネレーションズカフェ:
-共通のジョブ:世代間のコミュニケーションや交流を深めたいという共通の欲求。
-キャッチコピー:「世代を超えて繋がる、心温まる交流の場所」
3.リラクゼーションハブ:
-共通のジョブ:日常の喧騒から離れ、リラックスしたいという共通のニーズ。
-キャッチコピー:「家族と共に深呼吸、すべての世代が心安らぐ隠れ家」
これらの広告戦略の打ち出しは、各顧客層の特有の「ジョブ」を捉えるだけでなく、それらの「ジョブ」が共通部分である最大公約数を見つけ出すことで、効果的なアプローチを展開することを可能としている。このように、JBTDを活用し、複数の顧客層に共通するニーズや欲求を捉えることで、幅広いターゲットに訴求する広告戦略を打ち出すことが可能となる。
Advanced Data Analysisで広告効果を確認する
次に後半では、広告がどれだけ効果を持っているのかを確認するために、データサイエンスの側面からABテストをChatGPTのAdvanced Data Analysis(旧Code Interpreter)で行ってみたい。ABテストは、マーケティングの効果を検証するためのシンプルだが強力な手法だ。どちらの戦略が優れているかを明確に示すことができ、これにより、マーケティング戦略の方向性を迅速に決定することができる。
ここでは仮にKaggle※1に公開されているデータを使い、ABテストのようなアプローチ※2を行ってみる。
今回使用したデータは、企業広告を見たグループと、社会課題啓発などを目的とした公共広告(PublicService Announcement)を見たグループのコンバージョン率についてである。Kaggleに記載されたデータ本体をアップし、データ概要を貼り付けた上で、「何がコンバージョンに有効か、分析してください。」とChatGPTに問うと、下記の4点について分析してくれた。
1. 各テストグループ(広告を見たグループと公共広告を見たグループ)のコンバージョン率
2. 広告の数とコンバージョンの関係
3. 最も広告を見た日とコンバージョンの関係
4. 最も広告を見た時間帯とコンバージョンの関係
ここで1に関して、「広告と公共広告を見たときのコンバージョン率の違いの有意差を視覚的に確認したいです。図にしてください。バープロットを行い、95%信頼区間も示してください。」と入力すると下記の図を得た。
広告と公共広告を見たときのコンバージョン率の違い
この図について説明を求めると、以下のような回答があった。
95%信頼区間とは、統計的に推定される値(この場合はコンバージョン率)が含まれる可能性が95%と考えられる範囲のことを指す。具体的には、同じ実験を100回行ったときに、その範囲内に真の値が含まれるのは約95回と予想される。広告を見たグループのコンバージョン率は、公共広告を見たグループよりも明らかに高い。95%信頼区間を考慮しても、この差は統計的に有意であり、広告が購入行動にポジティブな影響を与えることを示している。したがって、ビジネスの成果を向上させるためには、この広告キャンペーンを実施することが強く推奨される。
ここまで、宣伝に関して、JBTDとChatGPTの組み合わせが有効に利用できるかのケーススタディ、およびChatGPTのAdvanced Data Analysisの適用の検討を行った。次回以降も様々なシーンに対して利用できるかを考えていこうと思う。