トレードマーケティングの役割
メーカーにとって、自社の商品を店頭に並べてもらう難易度が上昇しています。様々な小売業態でM&Aが進み、小売のバイイングパワーが拡大していくことで、商品導入の際の交渉条件はますます厳しくなっています。また、DtoCブランドのオフライン店舗への進出や、消費者ニーズの多様化に基づく主要ブランドのバージョン数拡大に伴い、SKU(*1)数増加による店頭配荷の競合性が高まっていることも大きな理由です。
これらの難易度の解消に向き合うのがトレードマーケティングであり、その重要性は日に日に増しています。
トレードマーケティングとは、主に「小売(主にバイヤー)やショッパー(購買者)」を対象にしたマーケティングであり、「消費者」を対象としているブランドマーケティングとは異なります。またマーケティングとは、対象者のインサイト(*2)を言語化、定量化することで戦略やプランなどの売れる仕組みをつくることであるため、トレードマーケティングとは「小売やショッパーインサイトを深く理解し、それに基づき小売やショッパーに売れる仕組みをつくること」と言い換えられます。
昨今、コロナ禍によって「小売インサイト」は変化してきており、トレードマーケティングの非常に重要なミッションとなる「店頭に商品を並べてもらう難易度の克服」のためには、そのインサイト変化に対応した流通戦略や実行プランの策定が求められています。
「売りたいか」「売れるのか」の双方を満たす言語化が重要
「バイヤーはなぜあなたの会社の商品をサポートするのか」の問いから始めると、このインサイト変化に対応する必要性をよく理解できます。バイヤーがある商品をサポートしたいと思うのは「売りたいか」と「売れるのか」を同時に満たしているからです。
例えば、利益率が平均よりも非常に高く「売りたい」と思える商品であっても、「売れる」ことに自信がなければサポートはもらえません。また「売れる」ことに疑いの余地がない商品であっても、カテゴリー平均単価を大きく下げてしまうような商品は「売りたい」と思えず、この場合もサポートはできません。
つまりバイヤーにあなたの会社の商品を贔屓してもらうためには、「売りたいか」「売れるのか」の双方に常に“YES”と判断してもらう必要があります。トレードマーケティングは、まさにメーカーが提案する商品やプランが、バイヤーにとって「売りたい」「売れる」ものだと判断してもらえるよう、小売インサイトに基づき最適に言語化をすることで、店頭の4Pを改善していくことが期待されています。
「小売インサイトに基づく言語化」とは何かを理解するため、例として「売りたいか」を説得するうえで重要なインサイトの一つである「売上要素分解」を挙げてみましょう。
バイヤーはメーカーが提案する商品やプランについては、無意識に「この要素のうちどこに効くのか」を見極め、売れる売れないを判断しています。このインサイトを理解すれば、「なぜテレビCMはアウト展開(*3)獲得につながるのに、デジタル広告では寄与しないのか」に答えが出ます。
テレビCMはバイヤーの過去の経験から、無意識的に「客数」や「来店者内の買上率」といった売上要素の伸びが期待できると解釈され、その結果「お客さまが商品を買いに来てしまうから、アウト展開しよう」という意思決定につながる一方、デジタル広告については、バイヤーは「何の要素に効くか分からない」ためアウト展開の必然性を感じず、獲得につながりにくいのです。
言い換えれば、この小売インサイトを理解し、いかに「デジタル広告がどの売上要素に効くのか」を正しく言語化できれば、アウト展開獲得に好影響を与えることができるということです。
実際に直近では、メーカーが提供する「『客数』の拡大を意図したデジタル広告」の実施に伴い、アウト展開が実現されるケースなども増えてきています。
(後編は2月26日掲載)
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井本 悠樹 (いもと・ゆうき)
P&Gジャパン、ジョンソン・エンド・ジョンソンで、トレードマーケターとして20を超える新製品開発や流通戦略策定に携わり、複数ブランドでNo.1シェアを獲得。4度の年間アワード受賞などの実績を残した。2019年4月フェズに参画し、リテールメディアを活用した統合プランニングの責任者を務める。また、自身でもコンサルティング会社のキャプロを創業し、大手メーカーやD2Cブランドの流通戦略策定を支援するほか、講演や寄稿などを通じてトレードマーケティング領域の啓発に努めている。