こんにちは、株式会社はねの矢嶋です。
第3回となる今回は「頑張っているのに評価されない…」という、現場の広報担当者から愚痴混じりによく聞かれるお悩みについてです。
ちょっぴり耳が痛いところもあるかもしれませんが、「評価されない」という悪循環から抜け出すために、背景にある3つの要因と向き合ってみたいと思います。
「行きつけの店」、ありますか?
突然ですが、皆さん「行きつけのお店」ってありますか?
私は家族の都合で、5年前に妻・子どもが(妻の実家である)岐阜県に移住しました。以降、東京で単身赴任しつつ、月に一回、岐阜に帰省する生活を続けているのですが、ふだんの一人暮らしの寂しさを紛らわすため、近所に行きつけのバーが2軒ほどあります(単にお酒が好きなだけ説もあります)。
一軒目は、カウンター越しにマスターを囲みながら、他のお客さんとカジュアルに世間話ができるスナックのような店。もう一軒は店内が薄暗くシックな佇まいで、独りまったりと過ごしながら、たまにマスターと何の気ない会話を一言二言話して帰るバー。どちらも私にとっては大切な居心地の良い場所です。
5年前にそれまで家族で住んでいた埼玉の家を引き払い、現在の場所に引っ越してきたときは当然ながら近所に知り合いもおらず、「行きつけの店」も自分の足で開拓して見つけるしかありませんでした。
そのとき意識したのは「いかにマスターの記憶に残るか」ということでした。
「1~2カ月に1回くらいのペースで散発的かつ不定期に訪れても、“その他大勢のお客さんのひとり”になってしまい、埋もれてしまう。でも一週間に3回とか、短期間に多頻度で訪れれば、顔と名前を憶えてもらえる。私の性格や人となりも含めて理解してもらえるだろう(=自分にとって居心地の良い関係性がつくれる)」という算段のもと、“短期集中”で足しげく通いました。
果たして目論見は成功し、いまでは私の「一人東京生活」において欠かせない存在になっています。
これは広報の世界においても同じで、日々のプレスリリース配信や取材対応、記者発表やPRイベントなど、ただ散発的にやっていても埋もれてしまいます。
「いかに埋もれずに、記者、あるいは(その先の)生活者の記憶や印象に残るか」という<インパクト>の視点は大事ではないかと思います。
「何のためにやっているの?」よくある広報組織の失敗
すいません、こじつけが過ぎました。枕はこのくらいにして、いよいよ本題です。よくある広報組織の失敗事例として、次のような相談をよくいただきます。
広報担当者が頑張ってメディアとの人脈を開拓し、プレスリリース配信など積極的に情報発信活動を行った。その結果、定期的に新聞やテレビ・Webメディアなどを中心に記事が出ている。
にもかかわらず、経営陣や事業部からは「事業貢献につながっているのかよくわからない」と言われてしまう。
はたまた極端なケースとしては「メディアに取り上げられたって喜んでいるけど、広報チームの自己満足では?何のためにやっているのかよくわからない」といった具合で、「成果が出ていない」と思われてしまうケース、本当によく聞きます。
より厳密にいえば、「最初は評価される」が、「次第に慣れて」きて「評価されなくなる」。
テレビの経済・情報番組や大手経済紙などに初めて取り上げられたタイミングでは、社内も経営陣も大賑わい。でも、二度三度と実績が積み重なってくるうちに社内も慣れてきて、相対的に広報チームの評価が霞んでしまう、という悪循環に陥ってしまうのです。
「頑張っているのに評価されない…」悪循環をもたらす3つの要因
理由はいくつかあると思うのですが、私の経験上、大きく以下の3つに大別されるのではないかと思います。
- 理由(1)
- 広報戦略が不在:
- 総花的でフォーカスポイントが定まっていない
- =「選択と集中」ができていないため、インパクトが生み出せていない
社内に専任が一人しかいない「ひとり広報」に代表されるように、一般に広報組織はリソースがヒト・モノ・カネのいずれにおいてもナイナイ尽くしであることが多いです。
一方で、(大企業を除き)コーポレート広報、事業広報、採用広報、インターナル広報などカバー範囲が広く、どうしても目先のやるべきことにリソースを奪われがちです。
その傍ら、わかりやすい成果指標としてのメディア露出をKPIとして持たされていることが多く、広報担当者は(内容の質・インパクト云々はさておき)「1件でも掲載を獲得したい」、というマインドに陥ってしまう。
これはリソースが枯渇しがちな広報組織における構造的な問題に拠るところも多分にある気がしていますが、発信する情報の優先順位やメリハリがなく、経営や事業部からのオーダーに応じて散発的に情報発信をしているので、結果インパクトが出せない。それゆえ、頑張っているにもかかわらず評価されない、というケースです。
- 理由(2)
- 広報戦略が不在:
- 短期偏重で中長期視点に欠ける
- =「足もとのメディアニーズ」に応えるための切り口・文脈設計に
- 終始し、事業課題やあるべき姿からの逆算ができていない
これは特に駆け出しの状態から一定の経験を積んだ、中堅の広報担当者に多いケースです。
メディアとの人脈も出来上がってくると、定期的に「リスキリングのネタを探しているんだけど、御社ではそういう取り組みをしているか?」「Z世代の特集を組もうと思っているんだけど、何か情報はあるか?」といった問い合わせや相談をいただくようになります。
頑張って社内にヒアリングし、無事メディアでの掲載に成功!となるまでは良いものの、冷静に考えたときに「果たして“Z世代に強い会社”という認知を取ることが会社や事業の後押しになるんだっけ……?」となると「よくわからない」みたいなこと、よくあります。
もちろんメディアとの人脈を構築するのは、広報担当者として最も重要な活動のひとつです。その過程において、こちらが書いてほしい情報を売り込むだけでなく、彼らが取材先の確保に困っていたりする際に協力することで関係性が深まっていく「貸し借り」の要素もあるので、一律にこれを否定するものではありません。
また、どういう形であれメディアに取り上げられることにより、少なからず会社・サービスの認知向上に寄与することもあるでしょう。
そもそも、メディアの記者たちは別に企業の“宣伝”のために記事を書いているわけではありませんので、「取り上げてもらえるだけでも良し」という考え方もあります。
ただ、今回のコラムの主題である「評価される広報チームのつくり方」という観点でいえば、「メディアニーズが高いから」という理由で、目先の露出・掲載を追いかけることに終始してしまい、企業価値の向上や事業機会の最大化といった広報活動の本質的なゴールを見失っていないかどうか――。
そもそもの目的に立ち返り、冷静に判断することも必要になってきます。
- 理由(3)
- 広報戦略が不在、
- あるいは存在しているが経営との連携(アライメント)が弱い
- =経営・事業における広報の期待役割・成果を説明しきれていない
- (やっているのに評価されない)
これは前回のコラムでご紹介した通りです。
トップマネジメント層との共通言語として、足元のテクニカルな広報戦術・アクションプランといった「PRの言語」ではなく、「経営の言語」(「経営機能のひとつとしての広報の在り方」)で会話できていないことによる課題です。
一連の活動を通じてどういう形で経営・事業に貢献するか、という目線をいま一度すり合わせる必要があります。
メディア人脈、メディア露出「だけ」では不十分
結論、メディア人脈も露出も広報活動においては非常に重要です。ただ、それ「だけ」では不十分です。散発的に表面的な露出をひたすら積み上げても、会社としての理想の見られたい姿への認知変容(=パーセプションチェンジ)に繋がるわけではありません。
経営層と目線を合わせながら、誰に、どういう認知を得て、最終的にどう経営や事業に貢献していくのか――。
ゴールセットや広報戦略を明確にしたうえで、「意図」を持って「ここぞ」というタイミングで(散発的ではなく)集中的に発信・露出の山場(モメンタム)をつくり、社内外にインパクトを創出すること。
これを限られたリソースで実現するためには、時には目先の露出機会をあえて勇気をもって「捨てる」。そして、次の発信の山場に向けた仕込み・準備に「専念する」。そういったメリハリ、「選択と集中」が必要となるのではないでしょうか。
今回も現場で日々頑張っている広報担当者の方にとって、耳の痛い話が続いたかもしれません。
でも、日々の頑張りをちゃんと評価されるようになるためにも、悪循環をもたらす要因と向き合い、これまでのやり方を「ひと工夫」し改善していくことも大事ではないかと思います。そのための考え方を次回以降、順次お話しできたらと思っています。
ということで今回も長くなりましたが、また次回お会いしましょう。