ドトールコーヒーは、2月9日に日経新聞に15段の広告を出稿。JR東日本とJR東日本において、中吊り広告を展開した。
同社は、2023年2月に「すべての今日を、支えていく。」という新タグラインを発表。昨年12月末に、公式YouTubeでこのステートメントに基づくブランドムービーも公開している。また、タグラインとステートメントを発表後、順次店舗のショッパーなどの入れ替えも進めてきた。そして2024年はそれらの「浸透の年」ということから、ドトールコーヒーショップ全国のチェーンオーナー会が開催された2月9日に新聞広告を出稿、同時に交通広告も展開した。
同社では、過去にも何度かスローガンを発表しているが、今回のステートメント開発にあたっては、星野正則代表取締役社長から「ドトールで働く人が、ドトールのファンになるようなブランディングを」という話があったという。
「お店で働くパートナーの方々が誇りに思えるようなものを目指したというのが最初の想いです。その上で、ドトールの『いまの時代における価値とはなんだろう』と考えました」と、ステートメント開発にあたったコピーライター こやま淳子氏。
「これまでドトールは、『がんばる人の、がんばらない時間。』というコピーで、働く人の「目的地」であることを、『ドトール、のち、はれやか。』というコピーでは、職場や自分の勝負する場にいく合間の『経由地』であることを伝えてきたのですが、コロナ禍や生活様式の多様化などの時勢もあり、そのように規定することが時代にそぐわなくなってきたというオリエンをいただきました。そこで今回は『ターゲットや使い方を規定しない』という規定にしようと決めました」
コンセプトは、「誰も置いていかないコーヒーショップ」だ。
「ここ何年かの間でも、瞬く勢いでカフェ文化は進化し、広がっていますが、その多くは、おしゃれな空間でこだわりの強いコーヒーを提供するというもの。味もエスプレッソなど少し濃いめのものが多くなっています。それに比べ、ドトールはずっと『毎日飲める優しい味』『誰でも買いやすい値段』『親しみやすい店舗』を貫いており、相対的に『個性を際立たせすぎない』『どんなお客さまにもよりそう』ことが『個性』になっているのではないかと思ったのです。
工場や社内の方々にも取材を重ねましたが、話を聞けば聞くほど上記の考え方がピッタリで、焙煎の仕方も『誰もが毎日飽きずに飲める優しさ』にこだわっていたり、接客もマニュアルを超え、その時々のお客さまに寄り添うことを優先していたり、社員の方にも『お客さまに押し付けるようなコピーはドトールに合わない』と言われたりもしました」
そうした取材の裏付けもあり、コピーでは「誰も置いていかないコーヒーショップ」を、いかにドトールらしく伝えるか、ということに力を注いだ。また、社内の人々に誇りに思ってほしいという気持ちから、「特別じゃないから特別なんだ」と思えるキラーワードをステートメントに仕込んでいる。
昨年末に公開されたブランドムービーでは、このステートメントが歌になって流れている。
「ステートメントを歌にしたのは、何度も繰り返しこのメッセージを聞いて欲しかったからです。せっかくコピーやムービーを開発しても、それ以降なかなか見返したり、読み返されなければ、あまり浸透せずに終わってしまいますが、歌にすれば、楽しみながら聞き返してもらえるのではないか、と考えたのです」
こやま氏は、最初から歌にする前提でステートメントを書いている。そのため、普段コピーを書くときとは少し違う作り方をしたという。例えば「1番」「2番」という二層構造になっていたり、同じリズムの文節を繰り返していたりと、曲にしやすい言葉づくりになっているのだ。曲は、Ongakushitsuのプロデューサー 福島節さんに依頼した。
「福島さんとはそれ以前にも何度かお仕事していて、言葉がしっかり心に入ってくるような音楽を制作してくださる方なので、今回もぜひお願いしたいと考えました。実際、歌にしたおかげで、発表会やイベントで何度も繰り返し流したり、店舗で何度も流したりという使い方をしていただけました」
店舗では、タグラインをショッパーやレシートに載せるのはもちろん、毎時ごとにこのブランドムービーの曲が流れるなど、タグライン・ステートメントを周知することが徹底されている。特にムービーでは全国のドトール店舗やそこに通う顧客に「あ、私がよく行っているあのドトールだ」と共感してほしいという意図から、映像にイラストを活用。最後の方で店舗が映るシーンでは、街にあるドトールの周りの景色だけがイラストで変わっていく演出をいれており、それによって「あなたの近くのドトール」を表現している。
「新聞広告ではコピーを読んでほしいので白地のデザインが採用されましたが、開店準備する店員さんを入れることで、『接客のクオリティも含めてのドトール』であることを伝え、全国の店員さんに誇りを持ってほしいという意図も入っています」
同社では、2023年2月のチェーンオーナー会でこのステートメントを発表。その際には、こやま氏が企画意図をスピーチしている。その後も全国各地の店舗責任者会議で、このステートメントに込められた想いや考えを伝えていった。昨年末には9ヵ所の地区大会と全国大会の計10回のCSアワード(接客を競う大会)が行われ、このステートメントに込められた想いや考えを伝えていった。昨年11月には、パートナーコンテスト(接客を競う大会)が行われ、そこでも新タグライン「すべての今日を支えていく。」というテーマに相応しい接客かどうかという評価基準が掲げられている。さらにブランドブックの制作、社内の広報誌で特集など、会社の結束力やパフォーマンスを上げるためのツールとして最大限にこのステートメントとブランドムービーを活用している。
現在、ブランドムービーで流れている音楽は各店舗で毎時流しており、パートナーにはかなり浸透したという。大阪地区の店舗責任者への新ブランドスローガン説明会では、中堅社員が自分が店舗に立っていた頃を思い出し号泣したり、北海道のある店舗では、自分たちでこの曲の楽譜を書き起こし、パートナー全員で歌って、その様子を動画に撮影して本部に送ってくれたり、というエピソードも。また、この音楽は、渋谷本社ビルでも毎時流しており、社内に浸透させることで、「すべての今日を支えていく」全国の店舗を本社一丸で支えていくことにもつなげているという。
そして新聞出稿後、社内外からさまざまな反響があったという。
「ドトールコーヒー創業者で現名誉会長の鳥羽博道さんにも、さまざまな経済界の方より連絡が入ったそうです。コピーに感銘を受けたイオンモール関係者より、現在出店準備中の店舗の壁にも、あの広告を何枚も貼らせてほしいという要望が届きました。また私個人にも、友人、知人の皆さんからドトールでの体験エピソードが寄せられるなど、非常に多くの反響をいただきました」と、こやま氏。
同社では、このステートメントをもとに、5年かけてブランディングを築き上げていくと発表している。
スタッフリスト
共通
- 制作会社
- THINK vinc.
- CD、C
- こやま淳子
- BP
- 栁豊治、遠藤泉
グラフィック(新聞・ポスター)
- AD、D
- 今岡祐樹
- 撮影
- 菅英也
ムービー
- 制作会社
- パラゴン
- ExPr
- 公手誠
- Pr
- 中村祐也
- PM
- 植田鴻
- 演出
- 園田定宏
- 撮影
- 山西英二
- 音楽
- 福島節
- イラスト
- 三階直史