シティプロモーションの肝は共感にあり 「なんか、いいじゃん」を増やしていきたい「自治体広報の仕事とキャリア」リレー連載 秋山千賀子(富士市)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。
 
京都福知山市の市長公室秘書広報課シティプロモーション係 係長の宇都宮萌さんからバトンを受け取り、登場いただくのは静岡県富士市総務部シティプロモーション課 課長の秋山千賀子さんです。

静岡県富士市総務部
シティプロモーション課課長
秋山 千賀子氏。

1991年富士市役所入庁。以来、国民年金課、富士市立中央病院医事課、広報広聴課、農政課、企画課、スポーツ振興課、多文化男女共同参画課、を経て、現在シティプロモーション課課長。


Q1.現在の仕事内容について

静岡県東部に位置する富士市は、静岡県内で浜松市、静岡市に次いで3番目の人口規模の地方都市です。南は駿河湾に面し、海抜0メートルから、北は富士山の9合5尺(3,680m)までを市域とする、人口約25万人の製紙業を中心に発達してきた産業都市。

私はその富士市で現在、総務部シティプロモーション課に所属し、シティプロモーション、移住定住推進、広報広聴業務を担っています。

グラフィック 地図 富士市の場所と市域
富士市の場所と市域
写真 じゃらんの 美しい「富士山と桜」が眺められる絶景スポットに選出(富士市 龍巌淵)
じゃらんの 美しい「富士山と桜」が眺められる絶景スポットに選出(富士市 龍巌淵)。
写真 富士市役所CP課から見える風景
富士市役所CP課から見える風景

 

写真 日本テレビの番組で全国工場夜景日本一に選出。富士山と工場夜景。
日本テレビの番組で全国工場夜景日本一に選出。富士山と工場夜景。

Q2.広報部門が管轄する仕事の領域について

広報広聴業務では、広報紙や市政暮らしのカレンダー、市勢要覧等の編集・発行、市長定例記者会見の開催や報道機関の窓口、市長への手紙、陳情・要望、市政モニター、世論調査、パブリックコメント、総合案内、コールセンター等の広聴業務、市ウェブサイトやSNS(LINE、X)の管理・情報発信、災害時や非常時・緊急時の報道対応、情報発信及び庁内連絡・調整等を担っています。

またシティプロモーション業務では、富士市の魅力創造発信、イベント、市長をトップとしたシティプロモーション本部会議、市民や有識者で組織する市民懇話会の開催、SNS(YouTube、Instagram)を活用した魅力発信等を担います。

移住定住推進業務では、移住後の満足度を高める事業、移住定住ポータルサイトの管理運営、各種補助金の窓口、出張・オンライン相談等 と多岐にわたります。

Q3.大事にしている「自治体広報における実践の哲学」について

「シティプロモーション」と「広報」は、リンクしていますが、若干、異なります。ここでは「自治体シティプロモーション」として考えました。

これは哲学なのか…と問われたら回答がむずかしですが。シティプロモーションに限らず…ですが、「共感」と「尊重」、「税金から給料をいただいて市民のために働く」ことかな、と思います。当市のシティプロモーションは、市内外に富士市の魅力を発信し、富士市を知って、できれば好きになっていただくことを目的としています。

シティプロモーションの肝は「共感」だろう、と私は思っています。素材の良さがあれば、小さな共感が自然に広がっていき、事業等が生まれ、効果が高まります。市民や企業、市外、庁内の他部署の皆さんに「なんか、いいじゃん」(「じゃん」は静岡県を代表する方言です)と思ってもらえることから始まり、シティプロモーション課(以下「CP課」)以外から自由に富士市の魅力を発信していただくことが理想です。

市民や企業等の皆さんの中には必ず、富士市のために何かしたい!と思っている人がいます。そういう「市の宝」である皆さんのやりたいことを実現するために行政ができることを行うことで、シティプロモーションの輪が幾重にも広がっていくと感じています。

富士市は市域も広く、魅力と成り得る要素が多々あり、公平性から一つに絞って応援できないという公務員的な姿勢があります。しかし、皆さんの「推し」が市の魅力や応援であれば、次々と支援でき、結果、公平になります。次々と言っても、古くなったもの、終了したいものを廃止する、業務を切り出して市民団体等と連携する、「市民が主役」で行政は黒子に徹する、こうした当たり前のやり方で、業務負担が急増することは、今のところ、ありません。

また、皆さんがアイディアや情報を寄せてくれるための秘訣は、CP課の敷居を低くすることにあります。万一、的外れな提案でも、まずは聴く。すると、「推し」は人の数だけあり、その中にこちらが共感することがあります。寄り添ってできる方向を考えてみると、「こうしたらできるかも」と実現に向けてシフトできます。話しやすい窓口、人がいることは徐々に知られるようになり、どこに相談したらよいかわからない「まちのために」「情報がある」といったお話が、様々な方向から持ち込まれるようになります。これは庁内の他部署からについても同様です。CP課職員と提案者がお互いに尊重し合いながら一つのチームになれるとき、感謝し感謝されることが多くあり、イベントや事業の効果が何倍にも高まります。すんなり行かずに障害が発生することもありますが、乗り越えられることが多く、チームになると雑談が耐えず、改善などのアイディアも自然に生まれます。関わった皆さんは富士市によい印象を抱き信頼感が生まれ、次の情報やアイディアが持ち込まれます。

ここ数年、富士市CP課では、毎年毎年、新規事業が誕生していて、シティプロモーションの好循環が生まれているのかも!と嬉しくなり、市民や企業の皆さん、当課の職員に心から感謝しています。

公務員は全体の奉仕者で厳しい仕事も多々あります。その中で、市民や企業等の皆さんと共にできる前向きな仕事に就いているという基本に立てば、共感してもらえるシティプロモーションに努め、お互いに尊重し協働することができます。関わった皆さんは市のために何かを成した達成感を感じ、達成感は新たな意欲を生み出し、結果、市の元気に繋がる、それが私なりの自治体シティプロモーションの実践の哲学なのかもしれません。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

あえて言うなら、人の話をまずは聴く、ということかもしれません。アポなしで休日、早朝や日中、夜間でも、皆さんの隙間時間に連絡が来ます。価値観もジャンルも異なる提案やご意見は、市役所に該当しないことやクレームもありますが、お断りせずにまずは傾聴に徹します。時間内なら即答できることも多いので、できるだけ時間内の相談をお願いしているのですが…。この活動は給料には反映せず、職場の携帯もないので、営利目的ではない自治体ならではの苦労なのかもと時々思います。

やりがいは、市町村職員は特に住民と密接に関わるので、皆さんの喜んでいる笑顔や声をダイレクトに見聞きでき、共感できることです。営利目的ではなく、純粋に感動を分かち合うことができます。また、シティプロモーションは法律もなく基本的に自由。素材もやり方も決まりはないので、無限の可能性を秘めていると思います。

【次回のコラムの担当は?】

静岡県富士市総務部シティプロモーション課 課長の秋山千賀子さんが紹介するのは神奈川県横須賀市広報課課長の小甲諭さんです。

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