ブランドの持続的な成長に必要な「心を動かす」と「ROIを動かす」の両輪
――日産自動車としてのマーケティング戦略の方向性と、そのなかで松村さんが担っている役割について教えてください。
松村:私たち、日産自動車には創立90周年を迎え、「他のやらぬことを、やる」という精神のもと、イノベーションをドライブし続けるDNAが宿っています。現在は電動化技術と運転支援技術に注力し、「技術の日産」としてのブランド発信に力を入れています。「やっちゃえNISSAN」というキャッチコピーに企業としての姿勢が表れていると考えています。
マーケティングにおいてはお客さまの心情に寄り添い、インサイト戦略に落とし込むことを強く意識しています。時代の変化やコロナ禍などの影響で人と人のつながりが、より意識されるようになり、企業姿勢やフィロソフィーに共感することで買う「エモ消費」へと移ってきていると考えているからです。
そうした変化に伴い、広告やコミュニケーションも一方的にお伝えするのではなく、企業姿勢や活動に対する「共感最大化」を重視しています。それを実現する2本柱が「インサイトドリブン」であり、お客さまデータをタイムリーにモニタリングして分析する「サイエンティフィックアプローチ」になります。
私が属するブランド&メディア戦略部では、消費行動をしっかりと見つつ、イベントチームや車種ごとの担当チームと協力しあって戦略を立てる体制が整っています。ただ、技術というものはまっすぐ伝えても、なかなか理解されないもの。そのため、われわれがずっと大事にしてきた「ワクワク感」を切り口にお伝えする工夫が欠かせません。
―― 昨年9月には「W杯バレー2023 女子大会」でスペシャルなパフォーマンスを披露されました。どのような狙いがあったのでしょうか。
松村:世界の一流プレーヤーが来日する大会であることから、まずはお客さまに寄り添い、大会を一緒に盛り上げることを最優先に考えました。日産のロゴを出すだけではなく、日産の先進運転支援技術の「ProPILOT2.0」に着想を得た自動運転清掃モップ「ProPILOT MOP」ショーで会場を盛り上げるアイデアに至ったのです。W杯などのイベントは、自動車への関心の有無に関わらず、新たなお客さまとの出会いの場となる機会。いつか自動車を買う際に「日産、いいじゃん!」というイメージを伴うブランド想起につながるよう、 “一緒に盛り上げていく” という姿勢だけは崩さないようにしました。結果的に、当社調査によると、若年女性の日産への好意度が大幅に向上する結果へとつながりました。
――中長期のブランド構築とメディアROI最大化の両立をどのように図っていますか。
松村:私たちのチームが日ごろから心がけているのが「ROIでは測れないこと」にチャレンジすること。だからこそ、可視化できる効果は可能な限り、明確にしておく必要があります。当社では博報堂DYグループが提供する「AaaS※1」を導入していますが、ここではまず予算投資の大きいテレビとデジタルの広告投資配分最適化を見極めるために活用しています。
関谷:博報堂DYグループのあらゆるリソースを活用してサポートする私たちTBWA\HAKUHODOとしても、日産ブランドに対する共感の醸成というゴールまでご一緒させていただきたいと思っています。ただ、共感というステージに至るまでの道のりは長く、広告やコンテンツやコミュニティといったすべての体験をブランドイメージ醸成につなげるために、マーケティング活動の基礎体力を強化することは必要不可欠です。そこで、様々な中間KPIを設定しながら「AaaS」で得られた目に見える成果を、ひとつずつ点検するといった裏側の仕組みを整備しています。
きちんとKPIを設定し、興味を持ってくれそうな方に車種のニュースや強みをしっかりと伝えていく。その上で、各施策に対して生活者がどう反応するのかを「AaaS」で予測しながら、毎週・毎月といった単位で日産さんとお話しする形をとっています。「AaaS」は「ブランド視点」と「メディア視点」の両方で回していくための共通言語になっていると感じています。
――CTVなど、マルチデバイス横断のコミュニケーションプラニングではどんな挑戦をしていますか。
関谷:最近、行ったのがミニバン「セレナ」でCTVに最適化したクリエイティブを検証する試みです。ターゲットであるファミリー層は、様々なデバイスで動画を見る傾向があるため、新たにCTVにフォーカスすることにしました。具体的にはナレーションや尺の最適化など、大画面ならではの試みができることに可能性を感じました。こちらは、通常クリエイティブとCTV特化型クリエイティブのA/Bテストを行っています。
――今後の展望を聞かせてください。
松村:今後もROIの効率化は検証しながら着実に進めていくと同時に、日産ならではの「やっちゃえ精神」を大事にしたコミュニケーションを展開していきたいと考えます。また、そうした試みがお客さまからの「いいね!」につながっているのかを見るためにも、デジタルプラットフォーマーにおけるシェアオブボイスの部分をしっかりと上げていきたいですね。
関谷:Disruption Company※2としてメディアと戦略・データ・クリエイティブが一体となって生活者にとって意味のある一連の体験を設計することに、よりこだわっていきたいです。その上で、裏側の仕組みを「AaaS」やAI技術などを活用して統合的に把握して運用することで、日産ブランドが「人々の生活を豊かに。イノベーションをドライブし続ける。」ことに貢献していきたいです。
編集協力:博報堂DYメディアパートナーズ