局所最適に陥らないためには。プロジェクトドリル07「すっごい高いところの葉っぱを食べる首長ジカを設計せよ」

本コラムでは、プロジェクトマネジメント力を高めるために必要な思考の型・原則・技法を身につけるドリル(練習問題)を、「プ譜」という共通フォーマットを使用して提供します。出題のネタは、古今東西のビジネス事例、歴史上の出来事、SNSで話題になった事例、マンガなどから幅広くピックアップ。すきま時間で楽しく取り組みながら、プロジェクトの計画立案や意思決定の力を高めることを意図しています。今回は「キリン=首の長い動物をデザインする」お話を例に考えます。

今回のドリルで鍛える力(ドリルの狙い)

  • ・プロジェクトを構成する要素を洗い出す力
  • ・要素を「望ましい状態」にするための施策を選択し、組み立てる力
  • ・洗い出した要素の辻褄に注意して、全体の整合性を取る力


こんな問題に心当たりがある人にお薦め

  • ・目標を実現するための「思いつきの、安易なアイデア」しか出せない
  • ・局所最適に陥ってしまう
  • ・思いつきを重ねて納期と予算を超過してしまう


 

ドリル7問目「すっごい高いところの葉っぱを食べる首長ジカを設計せよ」難易度★★☆

ドリルのシチュエーション:

今回は漫画『天地創造デザイン部』からの出題です。みなさんは動物をデザインする事務所のデザイナーです。クライアントである神様から、すっごい高い所に生えている葉っぱを食べることのできる動物をデザインしてほしいと依頼がありました。以前、事務所では鹿をデザインしたことがあったので、首を10m伸ばせばいいだろうと考えて試作品をつくってみました。

出典:『天地創造デザイン部』 (C)蛇蔵&鈴木ツタ・たら子/講談社

 

ところが、首を10m長くしたところ、頭に血液を持ち上げることができず、すぐに脳貧血を起こしてしまいます。貧血を起こさずに済むよう、首ではなく足を10m長くすることにしましたが、今度は水を飲むことができなくなってしまいました。これでは生きていくことができません。

出典:『天地創造デザイン部』 (C)蛇蔵&鈴木ツタ・たら子/講談社

 

この2つの方法をプ譜で表現すると下記のような設計図になります。

「首の長さを10mにする」と「足の長さを10mにする」という施策では、首長ジカが生きてくために必要な「脳への血液供給」と「水分補給」という構成要素を“望ましい状態”にすることができませんでした。

 

問題

そこでみなさんに行っていただきたいのが、首を長くしても生命が維持できる首長ジカの設計です。この設計のために必要な中間目的と施策か下図の候補リストに並べました。

中間目的は、プロジェクトを構成する要素の「状態」を表現します。

施策はその状態を実現するための方法・素材・行動などを指します。

さて、上図に記載した施策を下図のプ譜のどの欄に書き入れれば、中間目的を実現できるでしょうか。

 

解答と解説

このドリルのネタ元となった『天地創造デザイン部』と書籍『キリン解剖記』を元にすると、以下のような解答例になります。

例えば、「頭の血液が高い血圧のまま脳に流れこまない」という中間目的を実現するために、「ワンダーネットという毛細血管の束を後頭部に置いて、血流と血圧を調整する」という施策を結びつけています。ワンダーネットはキリンが水を飲むために頭を下げ、再び首をもたげるときの急激な血圧の降下を緩和する役割も担っているそうで、1つの施策で複数の要素に影響を与える重要な施策になっています。

このように、プロジェクトの勝利条件=成功の定義を構成する要素が“望ましい状態”になるよう適切な施策=方法や素材を選択することが、プロジェクトを設計するために必要な力です。

 

レベルアップするための解説

このドリルでは中間目的間のバランス・辻褄を調整する力を鍛えることも狙っています。

中間目的間で影響を与えているものに赤い矢印点線を引いてみましょう。

例えば、「水分を補給できている」という状態は、水を飲むために「頭を下げてまた首をもたげるときに急激に血が上る」という状態に影響を与えてしまいます。そうなると脳貧血などの症状を引き起こしてしまうため、そんな状態を防ぐための施策(ここでは「ワンダーネットを置く」)を行う必要があるわけです。

中間目的の状態は施策によってつくられるだけでなく、他の中間目的の影響を受けてつくられるものもあります。中間目的間の関係性や相互依存性は実際に製品をつくり始めるなど、プロジェクトを動かしてみて初めてわかることが多いです。

 

ドリルの教訓

漫画では「すっごい高い所の葉っぱを食べる首長ジカをつくる」という目標を実現するために、最初はすぐに思いつく「首を10m長く」したり「足を10m長くする」という施策を行いました。しかしそれではうまくいかないという試行錯誤を繰り返しています。

未知のプロジェクトでは試行錯誤がつきものですが、試行錯誤にはそのぶんのコストがかかります。それだけのコストの余裕がない場合は、時間の許す範囲内でできるだけ情報収集して予測する必要があります。

この予測の精度を上げる肝が中間目的です。思いついたアイデアを直接「獲得目標」や「勝利条件」に結びつけるのではなく、「勝利条件を構成するどの中間目的につながるのか?」という視点を持つことで、その施策の有効性や意味を事前に検討することができるのです。

このドリルで参照した書籍・Webコンテンツ

  • 『天地創造デザイン部』1巻(集英社)
  • 『キリン解剖記』(ナツメ社)
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写真 書影 複数 左 『天地創造デザイン部』1巻(集英社) 右 『キリン解剖記』(ナツメ社)

『プ譜』についての詳細はこちら

『予定通り進まないプロジェクトの進め方』 (前田考歩・後藤洋平著)

ルーティンではない仕事はすべて「プロジェクト」である――独自のフレームワーク「プ譜」を使って、プロジェクトの状況や諸要素の関係性を構造化し、成功に導くための方法を解説。プロジェクトの全体像を俯瞰し、進行の技術を身につけるための実践書。

「プ譜」の解説動画はこちら


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前田考歩(プロジェクトエディター)
前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

前田考歩(プロジェクトエディター)

1978年三重県生まれ。平日8:00〜10:00のみ開業の、問いかけと構造化でプロジェクト進行を支援する『プロジェクト・クリニック』を運営。
自動車メーカーの販売店支援・CSR事業、映画会社のeチケッティング事業、自治体の防災アプリ、保育園検索システム、夫婦の育児情報共有アプリ事業、魚の離乳食的通販事業、テレビCM制作会社の動画制作アプリ事業など、様々な業界と製品のプロジェクトマネジメントに携わる。
プロジェクトに「編集」的方法を活かした、プロジェクト・エディティングを提唱、実践中。
著書に『紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本』(翔泳社)、『予定通り進まないプロジェクトの進め方』『見通し不安なプロジェクトの切り拓き方』(宣伝会議)、『ゼロから身につくプロジェクトを成功させる本〜はじめてのプロジェクトマネジメント〜』(ソーテック社)など。

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