マーケティング×デジタル×プロジェクトマネジメントを兼ね備えた人材を目指すあなたへ、成長のヒントを様々な切り口で解説していく本コラム。今回は「取り組むべき仕事」についてお話しします。
自社環境の正確な把握から、頼られるマーケターへ
マーケティング×デジタル×プロジェクトマネジメントのスキルを磨くために取り組むべき仕事として、最も効果的なのは前回解説した新規事業開発です。マーケティング、デジタル、プロジェクトマネジメント(PM)のすべてのスキルが網羅的に急速に磨かれるので、チャンスがあるならぜひチャレンジしていただきたいですが、特にデジタルスキルの中でも、データ分析スキルを磨きたいマーケターの方に絞るなら、データマネジメントのプラットフォーム導入案件などは良い機会になると思います。
この種の導入案件では、まず導入にあたってベンダーと社内関係者の間で立ち回って導入プロジェクトを動かす機会がある(規模によってはベンダーコンペの管理や経営会議に上程する経験も積める)ので、PMスキルが上がります。
特にマーケター向けと言った理由は、導入・構築フェーズから関与することでプラットフォームの仕様やデータテーブルの理解が深まるからです。分析は、切り口や掛け合わせ次第でいくらでも可能性が広がります。しかし、自分達のプラットフォームでは何ができるのか、どういうデータを保持しているのかを知らなければ、新しい切り口の分析が可能か、想像することができません。
「自分のやりたい分析の可能性を、自分で即座に判断できる」ことが大事です。そうしたトライ&エラーを繰り返し、分析作業に深みと鋭さを増していくことで、データ分析と言えばマーケターの〇〇さんと呼ばれることにつながります。そういう意味でも、プラットフォームの仕様やデータテーブルの理解を深めることには価値があると思います。
アナログな環境で、分析力の根っこを磨く
もし現在の環境が、分析を強化したいが、分析ツールが機能的に不十分で、でも予算的にリプレイスもできず途方に暮れている…という状況でしたら、ものすごく地味で重量ファイルを扱うことになる(人によってはダサいと思う)方法ですが、自社のファーストパーティデータをエクセルファイルに集約して管理することも最終手段としてはアリかなと思います。
というのも、私はこの方法を実践した経験があるのですがアナログ的な作業に加え、重量ファイルを扱う多少のストレスはあるものの、マーケティング資産である自社データを自分で加工しながらフル活用するので、分析の切り口を考えるクセが身につきました。「ファーストパーティデータにはxxのデータ項目があるからxxの軸で分析ができる」という発想が可能となり、CRMの会議中はずっとそんなことを考えていました。おかげで、質問されたら即答できるスピード感が得られましたし、様々な分析を試みることができました。
これは今思うと良い経験で、こうした発想を自分で考えて思いつくことが大事だったのです。それを考えないと、与えられた分析環境をなんとなく使うだけになる。そうなると出力したデータをどう扱えば有益なのか分からなくなります。決まった環境から決まった出力ファイルを落として、いつも同じように考えるだけでは、分析力は身に付きません。いかに思考を回すか。アナログ環境は、そのきっかけともなりました。
そして、実務をすべて自分で担ったことで、相談に乗れる、解決策を提示できる、歪な部分を指摘できる、といった貢献が可能になりました。講習や参考書で学ぶのもいいですが、小さな案件でも構わないので、とにかく仕事を担当すること。自分ごととして取り組むことが、いちばんの教科書になることは間違いありません。
目の前の仕事を利用する
ただ、導入案件なんてそうそうあるものではないですよね…。そういう場合は、日頃の仕事から学びの機会を得られるよう工夫していきましょう。
例えば、すでにCDP環境があるけど自分はデータ抽出をしていないなら、自分でSQLを書いてデータ抽出してみる。SQLは、対象テーブルに対して指示を具体的に記述するという意味ではエクセル関数と似ているので、SQLをまったく新しい言語と思わず、ハードルを下げて気楽にトライしてみましょう。
htmlを覚えるなら、まずはhtmlメルマガをたくさん作ってみるのがおすすめです。私がEC運営担当をしていた頃、顧客に配信するhtmlメールを毎回、異なる構成で作成して配信していました。その目的は、レイアウトや素材、画像列数やサイズなどをメルマガ上の表現を変えて、ABテストを繰り返し行うことでしたが、毎回構成を変えることで結果的にhtmlを調べて試す機会となり、理解が深まりました。もちろんメルマガだけでは、基本的かつ部分的なhtmlの使用なので学びは限定的ですが、そこからLP制作へのチャレンジに移っていくなかで、学びの入り口としては十分でした。
…というように、特別なことをしなくても、日々取り組んでいる業務を少し工夫するだけで、学びの場は創出できます。特に私は、構造のすべてを理解してから取り掛かるというよりは、実践ベースで取り組んだ方が感覚的に理解できるタイプなので、こうしたやり方がマッチしました。とにかく必要なことだけを網羅的に集中して学ぶスタイルです(あまり余計な情報はインプットしたくないので 笑)。実は同じようなタイプの方は世の中にけっこういらっしゃるのではないでしょうか?そんな方々には、ひとつの参考にしていただけると幸いです。
だから、どうするか?
私はエンジニアではありませんので、技術的な知見や実装力はエンジニアには敵いません。それでもデジタル人材として自分の存在価値を高めるには、「だから、どうするか?」を大事にしています。デジタルの仕事といっても、専門的な技術的知見がないと仕事にならないわけではありません。説明能力や調整能力など誰にでも備わっている能力を、誰も追いつけないレベルにまで磨き上げることで、存在価値を高めることができます。
私はある時期に複数の優れたエンジニアと仕事をする機会があり、技術面以外の領域で自分の強みを極限まで高めたい想いに駆られました。役割や立場は違っても、彼らと対等に仕事をするには、自分は彼らにリスペクトされるほどの絶対的な武器を持ち、立場を確立させないとダメだと思ったのです。その立場とは、PMとして企画・推進を担う全体のハブとなる役割です。
最初に強化すべきと考えたのは説明能力、いわゆる言語化でした。言語化は、人と向き合う限り、永遠に求められます。しかし言語化の品質が悪ければ、経営陣への説明は理解されず、プロジェクトメンバーの認識は合わず、エンジニアへの依頼も滞ります。その重要性は日頃から感じていました。
一方で、他人に説明するには、その対象を網羅的に収集・理解し、論理的に話す思考が求められます。その作業は私には決して簡単ではなく、とにかく感覚を掴むために、私は他人への説明機会を強引に作り、ひたすら繰り返して訓練化しました(求められてもないのに説明を話しだすこともありました…笑)。
言語化の訓練、情報整理の訓練、環境や技術の学び、矛盾点の発見と再思考…。言語化の重要性を実感していたことが行動のエネルギーになり、結果的にはリスペクトとまでいかずとも、多少の信頼を得られたかなと思います。
向いている人材タイプ
マーケティング×デジタル×プロジェクトマネジメント人材において、私は人のタイプにも適正があると考えています。
まず、物事を発見することに喜びを感じる人。こういう方は、ABテストを積極的にトライしたり、新しい分析の切り口を模索したり、新しいサービスや技術を試してみたり、日々の業務がルーティン化しないように動ける人なので魅力的です(自発的に勝手に動いてどんどん知見をためることに貪欲な点がポイントです)。
また、ONとOFFの区別をしない人も向いてると思います。というのも、プライベートの時間や日常生活では仕事で使える発見が意外にあります。ECサイトを使っているとき、クラウドサービスを使っているとき、SNSを観ているとき…。そこにヒントがあっても、OFFでは気づかず流れてしまう。OFFもONと同じテンションでいる必要はありませんが、スイッチは完全OFFではなく、なんとなくONのようなOFFのようなスリーブ状態が続くイメージですね。
そして、なんといってもスピード感のある人です。デジタルの世界は動きが速いので、モタモタしていたら他に先を越されます。朝に思いついたことは昼には実行する、意思決定を即断する。とにかくすぐ動く人、すぐ試す人は伸びる傾向があります。
リターンの大きさを考えて仕事に臨む
どんな仕事でも、経験すればスキルは大なり小なり上がります。リターンを最大化するにはどの仕事がベストなのか?仕事を選べなくとも、どういう姿勢で臨むべきなのか?答えは人それぞれですが、共通して言えるのは、とにかく能力を伸ばす方法を自分で考えて、行動する。これがすべてです。
誰かに言われたことばかりやっていても、能力はさほど伸びません。もちろん作業スキルは伸びます。しかし、本質的に能力を伸ばすことには繋がらないのです。自分の長所に基づいて、自分で考えていないからです。やはり、何を伸ばすべきかは自分で考えないと、加速度的な成長は果たせません(その他大勢の一員となってしまいます)。
そして共通して言えることを、もうひとつ。短絡的に楽な環境や仕事を選ばないことです。結局は楽をするなら当然、利幅もわずかであり、大した経験値を積めずに歳をとってから後悔することになります。短期的に厳しい思いをするとしても、数年後に大きなリターンがあると思うのなら、無理ができるうちに頑張った方が絶対に良いと思います(年齢を重ねると段々無理もきかなくなるので…泣)。
自己投資が、いちばんのリターンとなるのは間違いないので、あとはどの分野で自分の存在価値を発揮したいか?今回のコラムが、目の前とその先の目標を描くきっかけにしていただけたら嬉しいなと思います。