【前回コラム】この映画が大変な人の逃げ場になればうれしい(前田弘二・倉悠貴)【前編】
今回の登場人物紹介
※本記事は2023年11月12日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
映画のなかでは自由な人間を見たい
権八:今回はね、映画『こいびとのみつけかた』(2023年、監督:前田弘二)ということで、これはあれですよね「自分ってどこか変わってんのかな」って思ってる人ももちろんそうなんだけど、むしろ普通の人が見ると多分いい意味でショックを受けるんじゃないかなと。「たしかに子どもの頃はこう思ってたな」とか。なんかそんな感じですよね、子どもがそのまま大人になっちゃったような。
前田:そうですね。ある種の幼稚さを出したいなっていうのはありましたね。
権八:本当にすごい面白かったんですけど、何ていうのかな、似てる映画が思い浮かばなくて。だから前田監督は何から影響を受けたのかなって。昔のヨーロッパとかの映画だったりするのかしら。
前田:基本的にはアメリカのクラシック映画が好きで、それがいつもベースで。そういう意味では大筋はわりかしベタであって、その人なりの価値観を持った自由な人間を置いて、ベタな話でも、そういう人がはじめて体験するかのようなつくりをしたい。なので、人物からつくって、物語はわりとオーソドックスなものを目指そうみたいな感じはありますね。
澤本:人物からつくるんですか。
前田:そうですね。「こういう人を見たい」みたいな。逃避じゃないんですけど、映画のなかでは自由な人間を見たいんですよね。少し常識外れだったり、そこがコメディ的ではあるとは思うんですけど、せっかく映画の中で見るならそういう人がいいなと思って。「本当はこういうことやっちゃいけないな」ってことをやっていたり。映画のなかでそういう自由な人間を見ることが体感として好きっていうのもありますね。ヤクザ映画とかも好きなんで。
澤本:へえ。
前田:身近にいると多分近寄りがたいですけど、映画としてある種の見世物となると別で。「映画ではこういう人間を見たい」から始まって、でもテーマとかどういう物語になっていくかは本当にわからないまま最初スタートして、大枠だけは昔のクラシックっていうか、オーソドックスなものを取り入れてって感じかなと思ってます。
澤本:じゃあ今回のやつだと、主人公の男の子をまず頭につくったっていうことなんですか。
前田:そうですね。今回の脚本は高田(亮)さんなんですけど、高田さんと「こういう人どうかな」とか「木の葉を並べて彼女を誘おうとするのはどうかな」とか「そこにやってくる子ってどんな子だろうな」みたいな感じの、いびつな部分から始まって、「じゃあその物語ってどうなるんですかね」ってなっていって。脚本の高田さんもどちらかというとプロットを最初つくらず、もう一気に脚本を書いちゃうタイプなので。昔はプロットも書いていたんですけど、前作の『まともじゃないのは君も一緒』(2021年)とこの作品に関しては、もうどうなるかわかんないまま、でもとにかくそういう人物を見たいってところから描き始めてて。
澤本:じゃあ最初は高田さんと監督とで素の状態でお会いして、「次は何しようか」ってところから始めるんですか?
前田:そうですね。今回の映画は『まともじゃないのは君も一緒』ができて、最初に高田さんと一緒に見た時に、「もう1回こういうのやりたいよね」って話になったんです。『まともじゃないのは君も一緒』はどちらかというと、掛け合いのコメディ的な部分があったんですけど、メロウな部分も映画のなかにはあったので、メロドラマ的な雰囲気が強いのをつくってみたいですねってなって。
澤本:あ、だから冒頭に1行、「メロドラマです」と。
前田:そうですね。何の宣言って感じですけど(笑)。そういう感じでやってみようって。
よくこんな話を考えられるなと感じた撮影期間
澤本:監督はハリウッドのクラシックが好きっておっしゃっていたけど、どのあたりが好きなんですか。
前田:もともとはスクリューボール・コメディがすごく好きで、あと、西部劇とかも好きで、今回撮るときに見たのは『赤い河』(1948年、監督:ハワード・ホークス)とか、あの辺をパクって。パクってっていうのは、顔がいっぱい出てくる、いきなり登場人物全員の顔がバーンって映るのがかっこいいなと思って、「これ使えないかな」とか。昔の映画を見直した方が意外と刺激をもらえるんですよね。90分台だったり、70分や80分の映画も多いので、飛躍の仕方がすごく面白かったり、今見ると結構過激に見えたり、「そこを吹っ飛ばすんだ!」って思うようなフットワークを含めてかっこいいなと思っちゃうし、そういう意味でも学べるものが多いですかね。
澤本:前田さんの作品って、大体時間がそんなに長くなくていいですよね。
前田:そうですね、90分台でいつも収めたいというのはありますね。120分を超えると、それなりの感動を求めちゃうじゃないですか。
全員:あははは。
権八:そんな考え方するんだ監督。
前田:そのための用意をしなきゃいけなくなるじゃないですか。それがすごくストレスでもあって。短いと突っ走れて、この世界だけを味わえるので、100分以内には収めたいなっていう感じ、何かそのほうが自由になれるっていうのがあるんですよね。
澤本:ハワード・ホークスとかって、1940年代、50年代ぐらい?
前田:30年、40年代ですね。
澤本:てことは、フランク・キャプラとか。
前田:そうですね。フランク・キャプラとかレオ・マッケリーとか。
澤本:じゃあ本当に第二次世界大戦前後ぐらいの。
前田:そうなんですよね。あの頃の映画とか見るとやっぱり面白いですね。コメディも今見ても過激で、「そんなやり方があるの」って思ったり、一周回って新鮮に見えたりもして。
澤本:そういうものって、監督はどこで出会うんですか。
前田:子どもの頃にはジャッキー・チェンにハマってたんですよ。世代的に香港映画ブームだったのでいろいろ見ていて。で、のちのちにたとえばバスター・キートンとか見るじゃないですか。そうするとジャッキー・チェンのルーツ的なものでもあったり、サモ・ハン・キンポーやチャップリンだったり、昔に遡っていくと「こういうのあるんだ」みたいな、スクリューボール・コメディとかもあったし。あと脚本の高田さんがもともとコメディ好きなんだけど、書きたくない人だったんで。
澤本:ふうん。
前田:ていうのも書くのが大変だからっていう。澤本さんも映画をやっていらっしゃったと思いますけど、結構裏切らないといけない部分あるじゃないですか。次どうなるんだってひっくり返さなきゃいけない。そうしながら物語を展開していくっていうのがわりと大変だし、コメディって評価もされにくいから。
澤本:あれなんででしょうね。
前田:だからすごい苦労して大変だっていうなか、スクリューボール・コメディだけは、こういう人物の面白さっていうつくり方があるので、「こういう人を描きたい」ってことだけに特化して、「別に笑えなくていいです」くらいの感じからスタートできた。こういう常識外れの人間がいました。で、どうでしょうっていうような、その人の物語ですっていう距離感で。高田さんも「それならやれる」みたいな感じからスタートしたところもありましたね。
澤本:前田監督と高田さんとのタッグって長いですよね。
前田:長いです。『古奈子は男選びが悪い』(2006年)が一番最初なので、2005年ぐらいからずっと一緒にやっていましたね。
澤本:そもそも一番最初はどういうきっかけで始めたんですか?
前田:もともとはですね、今回の映画にフランク役で出てるフランク景虎さんという人がいるんですけど、その人と当時仲良くなってアパート行ったときにVHSがあって、彼の出演作だって言うので持って帰って見たら、高田さんが監督やってたんですよ。自主映画をつくっていて、それが本当に面白くて。自分には脚本は書けないなっていう部分もあったりしたので、「会いたい」と思って現場の手伝いに行ってから、仲良くなった感じでしたね。
澤本:じゃあそういうきっかけで。高田さんと撮られた作品どれも面白いんですよね。『婚前特急』(2011年)もそうですよね。
前田:そうですね。彼はコメディだけじゃなくていろんなものを書いているんですけど。
権八:『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年、監督:森義仁)もそうなんだ。
前田:そうですね。
権八:前田監督はご自身では脚本は書かないんですか?
前田:いや自分で書いているのもあるんですけどね。『婚前特急』(2011年)までは、高田さんと一緒に共同脚本みたいな感じでやったりもしてたし。
権八:それ自分の中で何かあるんですか、今回は高田さんの世界でとか、一緒にやってみようって時と、やっぱ自分が書きたいなって思う時と。
前田:自分が書きたいっていうのもあるんですけどね。でも「次どんなものになるんだろう」っていうどこかファン心じゃないですけど、「こういう人物を置いたときに、高田さんはどういう答えを出してくるんだろう」っていう面白さや楽しみも含めて、想像を裏切りながら答えを出してくれるのがいいですね。何に惹かれているのかわかんないですけど、どこかロマンチックさがあって。そこが一番惹かれるところなのかなと思います。
権八:うんうん。めちゃくちゃロマンチックでした。
前田:相当変わってますよね、多分ね。
権八:うん、不思議だ。
倉:よくこんな話を考えられるなって、高田さんと前田さんを見て思ってました。
役によってまったく違う顔を見せる倉さん
中村:倉さんは実は2023年だけで出演映画が5作も公開されていると。
前田:すごい、めちゃくちゃ売れっ子。
倉:いやいやいやいや。
権八:めちゃめちゃ謙遜してますね。
中村:風が来た!みたいなやつあるんですか。
倉:僕も来たかなって少し思ったりしたんですけど、まったくそんなことなくて。
中村:いやいや、きてるんじゃないですか。
倉:街中でも誰にも気づかれないですし、フォロワーも増えないし。
前田:なんですか?インスタ?Twitter?
倉:インスタとかもやってます。
前田:フォローします。
全員:あははは。
倉:でもたまたま映画の公開が重なったって感じです。2023年は映画が多かったですね。
中村:お忙しくされていると思うんですけど、プライベートでは何かご趣味とかあるんですか。
倉:趣味はないです。本当に僕、家から出るのが好きじゃなくて、家でダラダラ過ごすのが好きなので。ごめんなさい、あんまり面白くなくて。
中村:全然全然。
権八:そんな倉さんは、どうして俳優の道を。
倉:僕はもともと早く就職して幸せな家庭を築くのが夢だったんですけど。
全員:あはははは。
権八:本当?
倉:リアリストといいますか。でもひょんなことから、きっかけがあって、もう引き返せないなっていうところで。
権八:どういうことなんだろうそれは。なんの話を聞かされてんだ今、大丈夫?騙された?
倉:大丈夫です。「交通費あげるから東京遊びにきなよ」って言われたから行ったらオーディションに連れて行かれたりとか。
権八:へえ。
中村:面白い。
倉:そこで刺激を得て。そこから始まって、楽しさも覚えて、もう引き返せないなっていうところで、やってる感じですね。
権八:じゃあそのオーディション行ったら、わりとうまい感じで進んじゃったとか。
倉:落ちたんですけど、僕より年下の子が「こんなに夢中になって頑張れることってあるんだな」ってくらい頑張ってたんで、興味が出てきて。それで「やってみようかな」ってはじめた感じですね。
権八:本当だね、まだ2019年にデビュー。
倉:そうですね、
権八:まだ4年だよね、もう4年かもしれないけど。倉さんに「交通費あげるから来いよ」って言った人は誰なんですか。
倉:マネージャーさんですね。
権八:じゃあその人にスカウトされたってこと?
倉:そうですね、スカウトっていう形にはなりますね。
全員:あははは。
権八:スカウトっていう形(笑)。スカウトだよね。そうなんだ。じゃあそこで若者たちが一生懸命やってる姿見て。
倉:飛び込んでみたいなっていう気持ちに。
権八:いいきっかけですね。そこからはすぐ東京出てきたんですか。
倉:いや、1年間は大阪から通いで、オーディションとかレッスンとか、たまに撮影があったりとかっていうのを繰り返して、ようやく『夏、至るころ』(2021年、監督:池田エライザ)っていう映画に出演させてもらったときに、1回東京に出てみようかなって出てきた感じですね。
権八:あ、『街の上で』(2021年、監督:今泉力哉)にも。
倉:もうほんとちょこっとですけど、撮影部の役で出てました。
権八:え、飲み屋で喧嘩する人?
倉:喧嘩を止めたりする人。
全員:あはははは。
権八:そっかそっか。見返してみよう。『窓辺にて』(2022年、監督:今泉力哉)は、(玉城)ティナちゃんの彼氏役。
倉:そうですね。金髪の。
澤本:はいはいはい。めっちゃ変わりますね。
権八:繋がりましたよ、頭のなかで。
前田:いい役でしたよね、あれもね。
倉:最後に映画をすべてぶったぎるっていう役で新鮮ではありました。
権八:面白かったですよ。倉さんのターニングポイントっていうか、ここで自分にとって俳優としてのステージが変わったなっていうのは、どれだったんですか。
倉:いやでも毎回がターニングポイントですね。毎回違う役に挑戦するし新たな方に出会うので、何かこれといってターニングポイントっていうのはないんですけど、毎度毎度成長させてもらってるなっていう感じではあります。2回目に呼ばれたときはすごいうれしいなって思いますね。
権八:そっかそっか。
中村:だから今回も『まともじゃないのは君も一緒』での出演がまずあって、前田監督と高田さんから。
倉:そうですね、呼ばれたってことは。
権八:前田さんから見てどういうところが魅力なんですか、倉さんは。
前田:最初に杜和役を誰がいいかなって想像したときに、倉くんは柔らかくてまっすぐなんだけど、ちょっとズレると危ない匂いもするような、杜和とは違うけど、結びつくなって気がして、いい意味で。その危うさってすごく魅力的じゃないですか。それに惹かれて、想像したときに「倉くんだったらスッと入れるな」って気はしたんですよね。意外に杜和みたいな役って、演じられる役者さんが限られて難しいなと思っていて。わざとらしくなってもあれだし、持ってる資質もあるので。
権八:そうですよね。まったくわざとらしくなかった。
前田:そうですね。それを自然と演じる人を考えた時に、倉くんのことがスッと降りてきたってのはありましたね。
澤本:髪型もこういう人だよね、だって。
権八:髪型ってどういうこと?
澤本:今みたいなかっこいい髪型じゃなくて、映画みたいにボサボサってなっている感じの人が新聞記事を持ち歩いてるみたいな。
前田:でもいろんな役やっていてすごいですよね。品川(ヒロシ)監督の『OUT』(2023年11月公開)も。
倉:そうですね、こちらヤンキーもので、幅広く。
澤本:不良やるときはイキる?
倉:イキリましたよ、それはもちろん。かっこいいのがやっぱ不良だと思ってたんで。
澤本:今日の状態から不良になってるの想像できないけどね。
権八:確かに、そうそうそう。本当に魅力的で、すごくナチュラルで優しくてほっこりしてるじゃないですか。でもたしかに監督がおっしゃるように、時々目とかがギラッとしたりとか、すごいかっこいい目力があったりとかするから、今のこの状態と映画のパンフレットの感じも全然違うし。多分『OUT』で演じる不良もまた違うんだろうし。で、ほら『窓辺にて』の金髪のチャラい彼氏もまったく違ったし。面白い。
澤本:すごいですよね。
権八:すごい。
中村:今後は監督と倉さんそれぞれ、撮ってみたい作品とか、こんな役も演じてみたい、といったことはいかがですか。まずは監督からどうですか。
前田:コメディをつくり続けたいなっていうのはありますね。いろんなことが試せるし、いろいろやってみたいこともあるので、それはずっと引き続きずっとやっていきたいなと思いますね。
中村:(上映時間は)2時間にはなかなかいかないと。
前田:個人的に短い映画が好きで。
権八:あー、すごいわかります。
前田:だからそこですね。
中村:倉さんは今後こういう役を演じてみたいとかありますか。
倉:本当に僕もいろんな役をやるのが好きなので、それこそ任侠ものとかはやってみたいです。まだ強い方は行けないかもしれないですけど、鉄砲玉ぐらい。
中村:実は大阪では結構悪い奴だったみたいな(笑)。
倉:いや、まったくそんなこともないんですけど、やってみたいんですよね。
中村:鉄砲玉をやってみたいそうです。
全員:あははは。
倉:シリアスじゃないですけど、そういう作品もやってやっていきたいなって思ってます。
権八:憧れの俳優さんとかっています?
倉:2022年か2021年に海外に10カ月ぐらいいたことがあって、それは海外の作品なんですけど真田広之さんとご一緒して、やっぱり真田さんを見ていたらすごく憧れて。完全に憧れですけど、こうなれたらすごくかっこいいなと思いました。すごい人こそ謙虚だし腰も低くて、物事に対してまっすぐで、温かいしっていう。すごくいいなって思っていましたね。
権八:へえ、面白い。
中村:ありがとうございます。というわけで、実はめちゃくちゃ楽しく談笑してる間にお別れの時間が。改めまして映画『こいびとのみつけかた』について、改めて監督と倉さんから見どころを一言ずついただければと思うんですけど、監督からいかがでしょうか?
前田:映画『こいびとのみつけかた』、誰かの何かのガス抜きに、厳しい日常の人休みにでも、ぜひ見ていただけたらうれしいです、よろしくお願いします。
中村:ありがとうございます。では主演の倉さんから。
倉:映画『こいびとのみつけかた』、本当にジャンルもわからないですし、結構奇想天外な物語ではあるんですけど、クセになる、僕も20年後30年後にまた見たくなるだろうなと思えるような人を選ばない作品です。そして温かい作品でもあるので、ぜひ劇場でご覧ください。
中村:ありがとうございます。澤本、権八も大おすすめ。
権八:いいシーンがいっぱいありましたね。上尾園子役の芋生悠さん、この子もすごいよかったですね。
澤本:僕この子すごい好きなの。
権八:この子すごい好き?
澤本:でも今まで見たなかでこの映画が一番良かったんじゃないかな。
権八:芋生さんも完全に園子を自分のものにしていますよね。重大な秘密を抱えているわけなんですけど、またそれが本当に切なくて、後半は完全にそういう目で見てしまうわけですけれども。
澤本:演じ方によってはさ、完全な“メンヘラ”的にもできると思うんですけど。でもそういう風になってないじゃない。ちゃんとしてるんだけどっていうふうになってるところとかさ、とてもよかったよね。
権八:とてもいいです。
澤本:でもそもそも葉っぱについてく時点で、というところはあるんだけどね。
権八:いや面白いですよね、葉っぱについてく人って。
中村:今夜のゲストは映画『こいびとのみつけかた』監督の前田弘二さん、そして主演の倉悠貴さんでした。ありがとうございました。