前回のコラム「誰のための『美しさ』か――資生堂『一瞬も、一生も、美しく』のラジオCM」はこちら
今回はおふたりが手がけた初期の衝撃のラジオCM、古川さんとラジオCM、企画のコントロールの仕方などについて話を聞きました。
こちらから音声もお聞きいただけます。
ふたりの初期のラジオCM体験
正樂地 今日は大阪・北新地のヒッツさんのスタジオで、日曜日の昼間に録音をしています。ちょっと緊張しております(笑)。
今回改めて20年以上前からお2人が一緒につくってこられたさまざまなラジオCMを聞かせていただいたのですが、まず、古川さんと谷さんが一緒にラジオCMをつくることになったきっかけは。
古川 一緒につくろうとしたというよりかは、仕事が来た形だったかと。初めはラジオの競合プレゼンがあって、それをヒッツさんと一緒にやらしてもらいました。その時にツーカーホン関西という携帯会社のラジオCMのプレゼンに勝って、それが割とボリュームがあったり、本数たくさんつくらせてくれたりする時期で。いきなり始まった感じでしたね。
谷 そうですね、私はまだこの会社に入ってそんなに時間が経っていなくて、弊社の社長の勝田(淳巳)のアシスタントとして一緒に作業した感じでした。
古川 それが多分24、5年前、2000年になる1年か2年前かなと思います。
正樂地 ACC賞ではずっと金鳥で賞を取られてきて、谷さんは「ラジオの匠」みたいなイメージがありますが、谷さんは25年前の当時から一緒にスタートされたんですか。
谷 私は弊社に入ってからラジオCMを始めたので、元はラジオCMをつくるなんて全く考えていなかったんです。だからもう無我夢中でやっていた感じで(笑)。でも古川さんは毎回本当にありがたいテーマを与えてくれて、定期的に、しかも長尺のものを含めてガッツリつくれたので、ものすごく勉強させていただきました。
古川 最近の若い人はラジオCMをつくるチャンスが減っているのかもしれないですけど、僕が前の会社にいた頃の時代は、まずグラフィックとラジオというのが基本で。一枚絵に一つのコピーを付けるグラフィック、もしくは「自分でキャスティングから演出まで全部できるラジオCMで勉強しなさい」みたいな空気があったんです。
その当時は松下電器産業の「ナショナル」がラジオCMの名作をたくさんつくっていて、そこの賞狙いのラジオCMを一番下っ端でやらしてもらって、たまに採用してもらえると世の中に出るという感じでした。それが最初の頃のラジオCM体験ですね。
正樂地 そこで経験を積まれて、基礎を蓄えた時期があったんですね。
古川 基礎を蓄えたところと、今になるとちょっと反省すべきところとがあって。反省するところは、毎回朝までやってたとかね。そこから「飲みましょう」って。若かったですね(笑)。でも量を書く練習にはなったし、長尺に対していろんなやりようがあるということは勉強になったと思います。
あとは良し悪しなんですけど、「現場で何とかする」っていうことは覚えました。120秒の原稿といっても、自分で事前に読んだら120秒に収まるのに、現場だと「20秒オーバーしてます!」って全然入らなくて、(いや僕が自分で読んだら入るけどな……)みたいなことがあって(笑)。もしくは現場で「面白くない」と気付いて原稿を削ったり書き直したり。そういう現場力みたいなのはついたかもしれないですね。周りは大変やったやろね(笑)。僕は楽しかったけど。
衝撃の64回「ワオ~ン!」と鳴き続けるラジオCM
正樂地 その中で、特に印象深いのが、ツーカーホン関西の2000年頃のラジオCM「64ワオ~ン」篇です。「64和音で音楽が再生される(音に強みがある)携帯」という商品自体も今となってはすごいなと思うんですが、その特性を伝えるものです。今回は原稿で読んでいただけたらと思います。
ツーカーホン関西/funstyle「64ワオ~ン」篇
ラジオCM120秒
〇企画制作/電通 関西支社+ヒッツコーポレーション
犬:ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
ワオーン!
NA:64和音
本格ミリオンエンシンセサイザー機能内蔵の
ハイグレード携帯
ツーカーファンスタイル5月デビュー
世界初64ワオーン!
正樂地 このラジオCMは、犬がひたすら……あれは狼?犬ですかね?
谷 犬ですね、犬の遠吠えみたいなのをサンプラーに入れて。
古川 鍵盤を押したらワオ~ンと鳴るようにして。「今のはちょっと前半に固まりすぎだ」とか、しょーもないこだわりでね(笑)。
谷 なんとなく覚えているのが、古川さんが鍵盤を押したら一発で64回になったんですよ。「奇跡が起きた!」ってなって(笑)。世界で一番いいラジオCMができた!って。
古川 たいした奇跡ではないけど(笑)。気のせいやったな。
谷 気のせいでしたね(笑)。
正樂地 これはびっくりしたのと同時に、今の金鳥さんのCMのような、どうやって思いついたのかがわからない突飛な企画の片鱗を感じました。
古川 思いつく人がいても、やらないだけかもしれないですけどね(笑)。
谷 でもこの「ワオ~ン」は当時原稿を見たときに、ものすごい発明やなと思ったんですよ。
古川 それはなんかというか、自分の企画にも飽きるじゃないですか。
120秒のラジオCMで自分が一番簡単に書けそうなのは、やっぱり掛け合いの会話なんです。兄と弟など設定を決めて、そこにどういう兄弟かというアイデアを足すと。たとえば「ワンプッシュで画面がミラーになります」っていう特徴の携帯が出たときは、「鼻毛兄弟」っていう企画を考えて。「鼻毛兄弟」のお兄ちゃんと弟が、そのミラーで鼻毛が出ているのを見て鼻毛をつい抜いてしまって、もう鼻毛がないので「鼻毛兄弟は解散」みたいなアイデアがあったりしました。
そういうことをやってきて、会話劇って自分の喋りの感覚で「できた!」って感じてしまうんだけど、でもそれにも自分でだんだん飽きてくるんですよね。そんな中で、64和音というところから、「64回ワオ~ンって言っているだけのラジオCMは今までないかな?」と思いついて。割とまともに考えてはいるんです(笑)。
企画が途中で変わること、をどう受け止めている?
正樂地 ちなみに、そもそも古川さんは、ラジオをたくさん聞いてきてその経験で企画をしているのか、テレビCMの企画の脳みそからラジオCMを考えているのか。そのバランスはどんな感じでしょうか。
古川 ラジオは昔から聞いてきて、ハガキも出したりしていましたね。僕らの時代は『ヤンタン』と『オールナイトニッポン』。延々とイヤホンを耳に突っ込んで部屋で聞いて、出演したこともあったりしました。
でも大人になってからは実はそんなに聞いてなくて。ラジオCMは、ラジオを聞いていた頃の感覚と繋がっているというより、広告の手法として学びました。僕は元々グラフィック出身なんですが、グラフィックとテレビCMの間にラジオCMをやるっていうのがちょうどよくて。
グラフィックをやっているときはテレビCMをつくりたいなって思ったけど、テレビCMって関わる人の数も多いし、決めないといけないことがいっぱいある。着る服の袖の長さから、どこに立つか、どこからカメラを撮るかとかね。ラジオはもう少し手前で、まだグラフィックを学んだだけの自分でも、音と時間さえコントロールすれば言葉で何とかなるっていうものだった。僕自身、元々は言葉発想のところから始めているので、ラジオCMは取っかかりとしてはやりやすかったんですかね。テレビCMは初めだとやっぱり難しいと思いました。
正樂地 グラフィックの発想とラジオCMとは、言葉を考えるっていうところで共通しているという。
古川 やっぱり最後の一言を考えるとか、初めはそういう練習の仕方をしますよね。CMのラストの、商品名の前に来る言葉を考えてから、その前段を考えるみたいな。そういうオーソドックスなやり方をしていました。逆に今はもう割と自由になってしまっていますね。でも困ったらやっぱり、「何言うんかな」っていうところに戻るようにしています。
正樂地 ありがとうございます。私が今そうなんですが、自分が想像していないことを現場でやってみようってなったり、提案されたりしたときに、一瞬ひるむというか。提案された方に行って切り替えるという判断をするのが怖いから、「もともとこっち考えたのに」ってなって、結局振りきれないことがあって。そのあたりはどういう呼吸でうまいことやっているんでしょうか。途中ですごい変わることもあったりしますか?
古川 そういうつくり方をするときもあるかな。(企画を)ちょっと広げたかったり、いびつだけどちょっと大きくしたいときに、自分が思いついてないことを取り込むと、何か違う形に見えることがある。だから谷さんに提案してもらって、それでうまいこといったものは結構ありますよね。
谷 テレビCMの時も、古川さんはいっぱい企画をつくって、探りながら一番強いものを探すスタイルですよね。
古川 たしかにテレビCMに近い感覚かもしれない。クリエイティブの情報量や手数の多さは、グラフィック→ラジオCM→テレビCMという順番なんだけど、そうしてテレビまでやってラジオに戻ってきたときに、いろんなものをつくっていいんだな、って思いましたね。テレビCMはいろんな人の力を借りてつくるから、自分の企画でも知らないうちに良くなったり、音楽を入れるタイミングなど天才的なことを提案してくれる監督もいたりするので。
正樂地 なるほど。特に20秒のCMだと、私は事前に自分で家で何回も読んで、録音して聞いて考えていくので、それをどうしても現場でそのまま再現したくなるんです。だからナレーターさんとかがちょっと違う感じで言うと、「全然違うんやけど」と、元に寄せたくなったりします(笑)。
古川 ああでも、ラジオCMが上手な人は、読むのがうまい人が多いね。直川(隆久)(電通(Creative KANSAI) クリエーティブディレクター)もそうだし。やっぱり自分の原稿の面白さを伝えるのに、プレゼンで読むときにみんな上手なんよね。それって、「こういうニュアンスで読んで欲しくて、ここでこの間が必要で、そのときに食い気味にこう言う」みたいに、自分の頭の中できちっと設計されているからで。その再現力はすごいですよね。逆に言うと再現力が弱い人は、ラジオが少し苦手なんかな?って思うぐらい。
ただ再現ができるからといってその通りつくったら面白いかというと、それは自分の中にある限界を超えられていなくて。違う人の力も借りてやったら、違う面白さが出るんちゃうかなと。試してみたら、すごく開けることもあるかもしれない。
正樂地 悩み相談みたいな話になってしまいました(笑)。ありがとうございます。
〈後篇に続きます。〉
古川雅之(ふるかわ・まさゆき)
電通(Creative KANSAI) グループ・クリエーティブ・ディレクター/CMプランナー/コピーライター。「無視されない広告を」「できればユーモアで解決したい」がモットー。大日本除虫菊(キンチョウ)、赤城乳業、日清紡などのクリエーティブを担当。TCCグランプリ(2017/2020)、ACCテレビグランプリ(2010)、ACCラジオグランプリ(2019/2021/2023)、クリエーター・オブ・ザ・イヤー特別賞(2017)、佐治敬三賞など受賞。OCC(大阪コピーライターズクラブ)会長。
谷道忠(たに・みちただ)
プロデューサー。ラジオCM、テレビCM音楽などの制作、メジャーアーティストの広告マネージメント、関西最大級音楽コンテストeo Music Tryを企画運営して来たヒッツコーポレーションに所属。キンチョウ、Pocky、日産、上田安子服飾専門学校などのラジオCMでプロデューサーを担当。総務大臣賞ACCグランプリ、TCC賞グランプリ、OCC賞グランプリ、広告電通賞オーディオ広告部門最高賞、HaHaHa Osaka Creativity Awardsグランプリほか。