「AIの浸透でクリエイティブはどう変わる?」パルコ、リクルートと考える

広告制作において生成AIの導入例が増えている中、事業会社でクリエイティブに携わるキーパーソンたちは課題をどのように捉えているのか。パルコ 宣伝部部長の手塚千尋氏、リクルート マーケティング室クリエイティブディレクターの萩原幸也氏が語る。

※本記事は3月1日に開催された宣伝会議主催のイベント「アドタイ・デイズ2024春」の内容をレポートしたものです。

手塚千尋(てづか・ちひろ)
パルコ 宣伝部 部長。2006年入社。広島店、パルコ・シティ出向を経て、エンタテインメント事業部ではキャラクターコラボカフェ「THE GUEST cafe&diner」事業を立ち上げる。その後、渋谷店準備室では、2019年にリニューアルした渋谷PARCOのリーシングおよびプロモーションを担当。2022年宣伝部へ異動、2023年より現職。

萩原幸也(はぎはら・ゆきや)
リクルート マーケティング室 クリエイティブディレクター。山梨生まれ。武蔵野美術大学卒業後、入社。リクルートグループのコーポレート、サービスのブランディング、マーケティングを担当。武蔵野美術大学大学校友会 会長、同大学ソーシャルクリエイティブ研究所 客員研究員、日本アドバタイザーズ協会 クリエイティブ委員、県庁公認山梨大使。

 

「AIを使う」意義・意味が問われる

――社内での生成AIの活用状況は。

手塚:パルコではホリデーシーズンにおける広告をAIで制作し、2023年10月末に公開しました。2023年は渋谷PARCO誕生から50周年で、宣伝部として「伝統と革新」というテーマのもとで広告を展開しました。パルコの広告には各時代の象徴を組み込んできた歴史があるので、2023年はAIの時代だと定義したものです。プロジェクトは2023年春頃から始まりました。

パルコが2023年10月末に公開した、ホリデー広告。AIを使用している。

萩原:実際に目にすると、現時点において日本企業によるAIを活用したクリエイティブの最高峰だと感じました。

手塚:ありがとうございます。クリエイティブディレクターにはAIへの造詣が深い木之村美穂さんを迎え、グラフィックやムービー、音楽に至るまで全てをAIで制作しています。当初は近未来感のある、いかにもAIを連想させるクリエイティブだったのですが、実在のモデルが出演していると見間違えるようなリアリティを追求しました。

萩原:リクルートとしては、まだ外部に発表できる広告制作などの事例はありません。ただ、AIを活用していないわけではなく、たとえば、企画案出しなど制作のプロセスにおいての検討は進んでいます。今後、より直接的な表現を生成AIで追求する際には、「なぜAIで制作するのか」という意義と意味が問われてくるのではないかと考えています。その中で、パルコさんの今回の広告はAIでなければできない表現になっていますし、発表時期もAIへの注目度が高まっていて、これ以上ない絶好のタイミングであったと思います。

 

注目すべき海外のAI活用例

――お2人が注目された、海外でAIを活用したケースは。

手塚:2023年にニューヨークで開催された「AI Fashion Week」というイベントです。モデルがランウェイを歩く姿を全てAIでつくり出したもので、AIのあまりの進化に衝撃を受けましたね。広告制作にも活かせると確信しました。ランウェイを歩くモデルだけでなく、個々のファッションアイテム、バックヤードで見せるモデルの素顔まで全てAIで生み出されていたことに驚き、「ここまで進化しているなら、私たちもAIを使った表現に挑戦したい」と考えるきっかけになりましたね。

萩原:2023年の「カンヌライオンズ」でもAI活用は大きな話題になりました。入賞作の中で、特にオーストラリアの法律事務所による難民保護を促す施策「Exhibit A-i」が印象に残っています。10年以上にわたって難民を非人道的に収容してきたオーストラリア国内の施設の実態をAIで表現したものです。難民への残虐行為は証拠が残っておらず、あるのは当事者の声だけ。そこで難民たちへのインタビューをもとにAIを活用してグラフィックを生み出したわけです。CGや合成とは異なりコメントに基づき生成したことで「ある程度公平性が保たれている」という意見もあれば「虚偽ではないか」という意見もあり、議論が巻き起こった企画でもありました。

ほかにも、食品メーカーのモンデリーズがインドで行った「Shah Rukh Khan-My-Ad」という企画も気になった入賞作のひとつ。コロナ禍で小規模商店が苦しむ中、商店がシステムに店名などを入力すると、インドの国民的俳優であるシャー・ルク・カーンが自店舗名などを口にする動画を生成できるという仕組みです。

手塚:さらにこの1年でAIの進化が想像より早まっていますよね。

萩原:そうですね。広告以外にも、マーベル・スタジオの『シークレット・インベージョン』というオリジナルドラマのオープニング映像がAIで制作されたケースも。人間に擬態する異星人による地球侵略がテーマのドラマなので、人間への擬態をAIで訴求したと考えると、AIの活用法として意味があったと思います。ほかにもOpenAIが2024年2月に発表した動画生成AI「Sora」などでは、もはや実物とAIの見分けがつかないくらいのクオリティの動画が作り出されています。

手塚:少し前までは、AIによる動画生成も静止画をズームインやズームアウトさせるくらいが限界でした。そこから1年足らずの間に実物と見違えるほどの動画ができていることを考えると、今後も想像を超えるクオリティが生み出されていきそうです。

 

質を追求する“微調整”は人間の役割

――今後のクリエイターの役割はどう変わっていきそうですか。

萩原: AIは数ある手段のひとつでしかありません。AIによってクリエイターとしての役割が変わるのではなく、クリエイティブのつくり方が変わる可能性があるという意味で、フィルムカメラからデジタルカメラへの変化と同じような現象だと捉えておけばいいのではないでしょうか。

手塚:確かに広告に活用してみて、新しいツールを手にした感覚はありますね。動かすのは結局のところ人間。AIを活用しても、クリエイターの価値や存在感は今後も変わらないと言えそうです。

実際、AIは納期を短くしてコストも減らせる“夢の道具”というイメージもありますが、広告にAIを活用してみたところ、実際のモデルを起用して制作したケースと、期間もコストも変わりませんでした。AIは一気にゴールまで到達できるものの、微調整が必要になるというのが弱点です。細部にこだわって、クオリティを追求しようと思うとどうしても時間はかかります。

萩原:AIに丸投げしたら思いのままのクリエイティブが出てくる未来は、まだまだ実現しないと思います。一方で、AIは一定の品質のクリエイティブの“量産”に寄与していく可能性もあります。ひとつの型から多種多様なターゲットに合わせた固有のクリエイティブを大量生成できる時期は近いでしょうから、活用の幅もさらに広がっていくのではないかと考えています。

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