「宣伝会議のこの本、どんな本?」では、当社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。
今回は、3月21日に発売した新刊『ビンゴ型コミュニケーションプランニング』(横山隆治、トレンダーズ株式会社著)の発売を記念して「はじめに」を紹介します。
「消費者がブランドをコントロールしている」と聞いて、読者のみなさんはどう感じるでしょうか。また「消費とはコミュニケーションである」ではどうでしょう。
前者は15年ほど前には既にマーケターたちに語られていたフレーズであり、後者は50年以上前にフランスの思想家ジャン・ボードリヤールが『消費社会の神話と構造』の中での語った言葉です。
「消費はコミュニケーション」と聞くとまさにSNS時代のことかと思いますが、ボードリヤールの時代は当然インターネットもない訳です。彼は「消費とは商品を介して個性を主張する言語活動であり、コミュニケーションの手段である」と言っています。
いずれも現代のSNSの台頭以前のものであり、その内容は「消費者がソーシャルメディアで発信者にもなり、互いに影響力を発揮する」ということを前提にはしていません。
ただフレーズだけ聞くとあまりに現在を言い当てた予言的なものに感じます。そうです。まさに現代はボードリヤールが語った「消費者とはコミュニケーションである」をさらに高い次元で成立させている訳です。SNS時代を前提としても「消費とは商品を介して個性を主張する言語活動であり、コミュニケーションの手段である」という言説は成立しています。SNSは「承認欲求」をベースにしているとも言えるので、「個性を主張する」はその範囲内ではあります。ただ個性を主張するというだけでなく、もっと幅広くなっているように思います。
そこはまた別途検証するとして、「消費とはコミュニケーション」であり、「消費者がブランドをコントロールしている」を現在のマーケティングコミュニケーションの大前提としてマーケティングプロセスを進行させてみましょう。
そうすると、「ブランド側の論理」(送り手の論理)をかなりのレベルで放棄しなければなりません。また従来のマーケティング用語(とその発想)も見直す必要があります。なぜならマーケティング用語はほとんど戦争用語だからです。「ターゲット(標的)」から始まり、消費者を「刈り取る」「囲い込む」「刺さる」といった言葉の発想には消費者が「有難いお客さまである」という感覚が乏しいのです。それは買い手(受け手)からブランドはどう見えているのかについて徹底的に思考する作業が、マーケティングプロセスから抜け落ちているからでしょう。
本書「ビンゴ型コミュニケーションプランニング」は、そうした買い手から見た発想プロセスを強く提唱しています。現状で「消費者があなたのブランドにどんなパーセプションを持っているかをSNSから抽出しましょう」がスタートです。従来なかなか抽出できなかった消費者の本音はSNS上にあります。
「消費者の本音ならグループインタビューをしているから理解しています」とおっしゃるマーケターもいるでしょう。しかしグループインタビューは(特に日本人は)誰か意見を主導する人に同調してしまうことが多く、本音を聞き出すのが難しいのです。SNS上につぶやかれているフレーズに耳をそばだてることは、ブランドの立ち位置を明確にするだけでなく、コミュニケーションコンセプトを設定することにも役立ちます。SNSはマーケターにとってビッグデータでもあり、注目すべきN=1の意見・感性・こだわりが発見できる宝の山です。
消費者はどんなパーセプションをあなたのブランドに持っているか。それをどうすれば変えていけるか、について思考実験をしてみてください。送り手マインドのままだと、無理なパーセプションチェンジを追求してしまいます。受け手マインドになると、どんなパーセプションなら良い方向に変えていけるかも自然とわかるはずです。
本書では、その方法として「ビンゴ型コミュニケーションプランニング」を提唱します。
ビンゴカードはそれぞれ書かれている数字が違っていて、いくつも種類がありますよね。消費者一人ひとりがこのカードを持っています。カードに載っているナンバーは、消費者パーセプションです。数字の種類や配列は人によって違うので、穴のあいていく順番は違いますが、1列の組み合わせが揃うとビンゴ!、つまり購入意志決定となります。
- ①パーセプションの組み合わせ(カード)はいくつかある
- ②順列ではなく組み合わせである
- ③カードごとのコミュニケーション戦術に落としやすい
これが「ビンゴ型コミュニケーションプランニング」の基本です。
つまりカスタマージャーニーモデルのように、みんなをひとつのレールに乗せて順番に消費者の状態を設定していくものではありません。
そして、本書ではこのカードのもとになるビンゴリストの作成(取り組むべき消費者のパーセプションの設定)をプロダクトマネージャーが主導して、宣伝部、広報部、場合によっては商品(研究)開発部などマーケティング活動に関わる関係者を集めて行うことをおすすめします。どんなパーセプションが揃うとビンゴになるかを参加者同士が共有することで、この商品のマーケティングコミュニケーション活動のコンセプトや言語が共有されます。
本書では「世の中の認識が変わる」というような“大きな”パーセプションチェンジではなく、消費者個々の内面に起こる“小さな”パーセプションチェンジを扱っています。
どんなパーセプションが揃うとビンゴ!になるのかと、こうしたパーセプションの変化を起こせるコミュニケーションとは?を思考するので、どんな施策が想定できるかも一緒に考えていることになります。マーケティング戦略なるものが“戦術に落ちない”ことはよくあります。施策の実行につながらない戦略では意味がありません。
消費者のパーセプションをビンゴカードのナンバーに置き換えてカードを作成し、そのナンバーが揃うように小さな複数のパーセプションチェンジを仕掛ける——本書では、この新しいコミュニケーション設計手法の実施方法を解説します。ぜひ試してみてください。
『SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』(横山隆治、トレンダーズ株式会社著)定価:1,760円(本体1,600円+税)
マーケティングファネルやカスタマージャーニーモデルはもう破綻している。なのに違和感を持ったまま使い続けていませんか?「順列」のジャーニーモデルから「組み合わせ」のビンゴカードモデルへ。SNS時代ならではのコミュニケーション設計手法を提唱。