奈良クラブ
広報・営業担当
木田奈都子氏
プロ野球チーム、Bリーグチーム、Tokyo2020大会と多様な形でスポーツに携わり、現在は地元奈良で2023年よりJリーグに参入した「奈良クラブ」で広報・営業を担当している
Q1:現在の仕事の内容とは?
昨年よりサッカー明治安田J3リーグに参入した「奈良クラブ」で広報・営業を担当しています。3年前、当時Jリーグのひとつ下のカテゴリーに位置するJFL(日本フットボールリーグ)というアマチュアリーグで「リーグ優勝・Jリーグ昇格」を目指して活動するクラブに魅力を感じ地元へのUターン転職という形で入社しました。現在は広報を主担当としながら社員7名と少数体制のため社員全員が営業も兼務し地域に愛されるクラブとなることを目標に様々な地域活動を行っています。
具体的な業務としてはJリーグの試合・中継のメディアオペレーション、プレスリリース作成、取材対応、SNS運用、メディアリレーション構築、クライアントワークというベースの業務に加え、クラブの認知拡大や興行への集客のためにメディアへの企画持ち込み営業などを行っています。
地域との活動もただ受け身になるのではなく、より地域課題の解決となるような・地域の輪を拡げていけるような企画を、理解してもらいやすいようストーリーも描きながら立案することを心がけています。アイデアには選手発案のものも。まだまだ小さな組織なので選手もスタッフも一緒に活動しており、日々の選手との会話から始まった企画も沢山あります。また今年に入ってからは、クラブのブランド力向上を目指し選手の教育にも携わり力を入れていくところです。
Q2:これまでの職歴は?
学生時代のインターンシップを経て、2011年に北海道日本ハムファイターズに新卒入社しました。コンシューマービジネス部でファンとチームをつなぐイベントの企画運営をしながら、1軍・2軍の場内アナウンスを担当。アナウンス業務を兼務したことで、道内各地で開催する試合に帯同し、試合中はアナウンス・試合前後にはファン拡大にむけた地域交流の機会を持つという、少しユニークで貴重な経験をさせてもらいました。
その後、放送局でのプロ野球ラジオ中継のアシスタントスタッフや海外語学留学を経て、2016年からBリーグに所属するバスケットボールクラブ、大阪エヴェッサで広報宣伝を担当。新リーグ創世期のリーグやクラブの認知拡大のため先輩社員と二人三脚でメディアミックスや地域連携イベントの企画を毎日遅くまでアイデアを出しあい、がむしゃらに取り組んでいました。
その後、広告代理店に転職しTokyo2020大会のパートナー営業担当として権利ビジネスの世界に入ることに。担当企業の大会に付随するPR業務ではパラアスリートを起用しての広告・CM制作から大会の機運醸成イベントの企画提案を経験。特に深く関わせていただいたパラスポーツは、東京大会のひとつの取り組みであった「パラスポーツへの関心」や「共生社会への実現」といった多様性への幅広い理解促進を「パラアスリートの声を通して伝える」という業務に携わり、現役パラアスリートの想いを取材するなど、これまでとは少し違う角度からスポーツの力を感じさせられました。そして現在、奈良クラブで広報・営業と、多様な競技と関わり方で約13年間スポーツに携わっています。
Q3:転職や社内異動などに際して、強く意識したこととは?
これまで3度の転職を経験していますが、強く意識していることは自己成長につながっているかという点です。
これまで3つのスポーツチームと広告代理店での仕事を経験させてもらいましたが、この中でも私自身の中で一番大きな転機だったのが広告代理店への転職でした。これまで事業会社で、かつ同じ業界での職務経験しかなかったため、そのままスポーツチームで広報宣伝の知見を深化させるのか、それとも新しい環境やスケールでの業務を経験し新たなスキルを学ぶのか。悩みに悩み結論を出したことを鮮明に覚えています。転職当時は、代理店での業務の進め方について右も左も分からず苦しい時期だったと今、振り返るのですが、新しい環境に身を置くことでこれまでは知り得なかった知識、仕事を通しての沢山の出会いがありそこから学べたことが非常に多いです。
新しいことにチャレンジすること、特にキャリアチェンジにあたっては自身にとってもそうであったように不安も大きくあると思います。しかし自己成長につながることを意識しチャレンジした経験が今の仕事にも活きていると強く感じています。
Q4:国内において広報としてのキャリア形成で悩みとなることは何?
日々めまぐるしいスピードで進む昨今の情報社会では、「伝える」という広報活動も様々な手法がありますし全ての媒体での発信を、外的要素を理解・日々キャッチした上で行うことが求められ難易度が上がっているように感じています。
日々の情報収集ははどの職に就いても共通だと思いますが、広報活動は経営層とダイレクトにやり取りしそれを伝えることが根幹の仕事であると思います。社外と積極的に交流し、「外の感覚」を常にアップデートしなくてはいけないと感じます。
特に私自身が身を置いているスポーツビジネスにおいては、ファン・地域・ステイクホルダ―皆が一緒につくり上げていく組織です。ビジネスの柱となる「興行」はプレーする選手がいて、観戦にこられるファンを始めとしたステイクホルダ―の皆さまの支えがあり、成り立つものです。今後、組織が成長するためには、多くのステイクホルダ―の期待に応えて輪を拡げていく必要があり、そのためには組織のブランド力を高めていくことが求められます。ブランド力を高めるためには、選手・スタッフ一人ひとりの意識の底上げも必要で、その中心となる「動く・喋る選手」にクラブの理念や取り組みを伝えることもスポーツチームでの広報のミッションだと私は捉えています。
公共性という面を持ったスポーツ組織は、地域の課題を解決したり、地域を元気にできるか、が長い視点でのファン拡大やビッグクラブへの成長への鍵となります。その活動で地域とダイレクトに関わる選手一人ひとりの振る舞いや発言は、選手自身はもちろん、組織のブランド力向上にもつながるものです。プロ選手は毎年3分の1ほど入れ替わりがあるのでクラブ理念を浸透させるために多くの時間はなく、様々な年代やキャリアをもった彼らへの伝え方は言葉のチョイスから考えさせられることも多く、まさに外の感覚を備えた上でのコミュニケーションの必要性を感じます。
Q5:広報職の経験を活かして、今後チャレンジしたいことは?
長年スポーツに携わらせていただいていますが、スポーツ(試合)は同じ展開は2度とないもので、人々に感動を与えられる唯一のものだと私は捉えています。そのスポーツを通して「地域の輪」を拡げていくことにチャレンジしたいと思っています。
具体的にはまずは先ほどお話した、組織の理念や取り組みの理解を社内や選手たちに促し、組織力を底上げすること。そして私たちのようなスポーツチームが地域のさまざまな「ひと」や「商業」をつなぐハブとなり、最終的には地域の経済をまわす「地域に欠かせない存在」へと成長させていくことに少しずつですが取り組んでいます。
【次回のコラムの担当は?】
大胆なキャッチコピーでも話題を呼び10年連続で志願者数日本一「学校法人近畿大学」経営戦略本部広報室にて広報を担当されている土山真佑実さんです。土山さんは近畿大学在学時代から大学スポーツ編集部で活動され、その後大学職員として広報室へ。広報一筋10年、大学のPRに携わられています。入学式の演出や、オープンキャンパス、数々のスポーツシーンでのメディア発表を企画から手がけられている土山さんのお話をぜひ聞かせてください!