「アドタイ・デイズ2024(春)」では、テーマを「Humanity 「人」と「思考」と「感性」-AI浸透時代のマーケティングとクリエイティブを考える-」と設定。テクノロジーの力でマーケティングが進化した時代、マーケター、プランナー、クリエイターに求められるクリエイティブとは?実務の世界のトップランナーとの議論を通じて、コミュニケーションビジネスにおけるクリエイティビティを再定義した。本記事では、「アドタイ・デイズ2024(春)」の中でも、注目のセッションをレポートする。
「キッザニア・ジャパンの挑戦~マーケット環境に属した顧客体験のアップデート~」というテーマでKCJ GROUP 代表取締役副社長の宮本美佐氏が登壇したセッションでは、キッザニアとはどのような施設か紹介したうえで、キッザニアが抱える課題と解決策について解説した。
こどもが主役の街で楽しみながら社会の仕組みを学ぶ
本日はまず「キッザニアとは」、「キッザニアで育まれる生きる力とはどういうものか」、最後に「キッザニアの評価と課題」についてお話をさせていただければと思います。
1999年にメキシコで始まったキッザニアは、日本では3カ所で展開しています。2006年にキッザニア東京(東京都)、2009年3月にキッザニア甲子園(兵庫県)、2022年7月末にキッザニア福岡(福岡県)がオープンしました。世界では17カ国26ヶ所で展開をしておりまして、日本は最初のフランチャイジーになっています。
キッザニアのコンセプトは「こどもが主役の街」です。これは世界各国のキッザニアで共通です。日本では3歳から15歳までの子どもが対象になっておりまして、施設によって多少の違いはありますが、だいたい各施設60個のパビリオンがあり、約100種の職業社会体験ができる施設になっています。
我々のコンセプトは、「こどもが主役の街で楽しみながら社会の仕組みを学ぶ」ということで、単に楽しく学習をするのではなくて、楽しさの中にも学びや気づきがあるものとして捉えており、これを「エデュテインメント(楽しみながら学ぶ)」と呼んでいます。エデュケーション(学び)とエンターテインメント(楽しさ)由来の造語になります。
キッザニアの施設では、随所にこどもが本気になれる工夫を凝らしています。
- 1.こどもサイズのリアルな街並み
- 「リアル」を追求しております。街自体がこどもサイズのリアルな街並みで、実社会の約3分の2サイズになっています。これはこども目線で大人と同じように見えるようになっています。本物と同じようなユニフォームや、実際に使われる道具を用意しています。
- 2.独自の経済圏
- 専用通貨「キッゾ」というキッザニアで流通している紙幣があります。仕事をするとお給料としてもらえるこの通貨は、キッザニア内での買い物やサービスに使えたり、施設内の銀行で預金することもできます。
- 3.1人の大人として活動
- キッザニアのスタッフは、こどもを「さん」づけで呼び、丁寧語で話すなど、1人の大人として接するようにしています。
キッザニアはこどもが主役なので、こども達が「自分で考え、自分で決める」施設です。また「自分でやり抜く」「仲間と協働する」こんな経験もこどもが主役であるということを表しています。
To CからToBまで、多種多様なパビリオンがあり、本格的な体験ができるようになっています。
キッザニアでは職業とともに、社会体験として、国政選挙と同じタイミングで実施する〈模擬選挙〉、20名ほどのこども議員が参加する〈こども議会〉の他、〈SDGsの取り組み〉も行っています。
多様な仕事と社会の仕組みを知り自己を知る
キッザニアでは保護者の方々がご自身のSNSに投稿した記事を、許諾をいただいたうえで、ランディングページ等に掲載をさせていただいております。「体験を通して子供の自信につながった」「アクティビティが終わるごとに自信に満ちた表情に変わった」等の投稿が寄せられています。
このようなキッザニアでの体験を、我々は大学の先生や、研究機関と一緒に研究しながら、キッザニアの体験効果をまとめ、2014年から『キッザニア白書』として刊行しています。
キッザニアでは、多様な仕事を知る、社会の仕組みを知ることで自己を知り、これからの時代に必要な生きる力として主体性、やり抜く力、創造力など「10Valuesの獲得」を目指しています。
エデュテインメントで子どもたちの生きる力を育む
キッザニアが、どのような評価をいただいていて、今どんな課題を抱えているかについて説明します。
このグラフはキッザニアの来場者数で、2022年12月現在で累計2200万人を突破しています。2020年は新型コロナの影響で大打撃を受けましたが、21年、22年と来場者が戻ってきている状況です。
22年9月の調査では、2回以上の来場経験者はおよそ6割でした。
キッザニア認知度・推奨率の調査では、認知度85.8%、推奨率は33.7%でした。
こちらは日経BPの調査をもとに、当社が作成したブランドランク調査です。イノベーティブ、アウトスタンディング、フレンドリー、コンビニエントの各項目は、2015年に比べて2023年には下がっています。
これは、昨年の9月の調査になりますが、キッザニア東京と他のエンターテイメント施設を比較したものになります。弱みとなっているのは第一想起から第三想起です。「こどもと一緒にどこへ行こうか?」となった時に最初に上がってこないのが、我々の弱みだと思っています。
我々のブランドは成熟期を迎えておりますので、改めて基本に立ち戻ったマーケティング活動をする必要があると思っています。やはりメインである施設の中の体験をアップデートしていくのが、一番大事なことだと感じています。
施設内体験の利便性向上のため、キッザニア公式アプリを刷新しまして、施設内にデジタルサイネージなどを設けながら、より効率的に楽しんでいただく取り組みも行っているほか、体験の質向上のため定期的な顧客満足度調査からSNS戦略の見直しを行っています。
これは、先端技術やトレンドを取り入れたコンテンツの事例です。野村総合研究所さまのビジネスイノベーションセンターでは、社会課題のひとつである産廃物問題に悩む企業向けにAIによる画像認識を活用して、自動で資源ごみの分別ができるロボットシステムを開発しようという仕事です。子どもたちが簡単なプログラミングをすることで、ロボットアームを動かしながら、自分の前に流れてくるゴミをロボットアームに識別をさせる体験をします。
このように自身がその技術の創り手にならなくても技術の進化を享受して、健全な倫理観を持ちながらそれを使っていこう、そんなマインドを持つ機会がキッザニアを通して体験できたら嬉しく思います。
アウトオブキッザニアは施設を飛び出して、実際の企業や街の中でよりリアルな仕事体験を行うプログラムで、近年非常に拡大をしています。2023年度、全国17カ所で開催しました。
デジタルの接点も用意していまして、アプリ上でキッザニアを体験できるコンテンツを用意しております。コンセプトは「いつでもどこでも何度でも」。キッザニア施設に来られない病院にいらっしゃるお子さま、施設に来ても、知らないお子さまと一緒に何かをやるのが難しいお子さま、そういうお子さまからも非常に好評をいただいています。デジタルは多様性を拡大するものだと実感をしています。
KCJ GROUPでは自分たちの価値をわかりやすく顧客に届けながら、キッザニアを体験し、リピーターになっていただき、顧客の声を聞きながらサービスを磨いていこうと考えています。
最後になりますが、キッザニアの顧客体験価値向上に向けて、お客さまの感動指数を全社KPI化しております。金銭的な損得勘定だけでなく、感情的な大満足を顧客にもたらすことで、ファンになっていただき、リピーターになっていただきたいと思っています。
ブランド価値を向上するには、“一発逆転ホームラン”はないので小さい改善の積み重ねが大きな進歩をもたらすと考えています。
キッザニアは未来を担う子どもたちの応援団のリーダーとして、“エデュテインメントで子どもたちの生きる力を育む”、その責務を今後も誠実に果たしていきます。ぜひお子さまと一緒にキッザニアにお越しいただければと思います。
【登壇者】
KCJ GROUP 代表取締役副社長
宮本 美佐 氏
1990年 国際電信電話(現KDDI)入社。 海底ケーブル投資・運用計画策定等、グローバルネットワーク 構築事業に従事。2016年よりKDDI新規事業として、位置情報を活用したサービスの開発、保育ICT事業のほか、地域活性化支援事業を担当。2020年4月1日より現職。