カメラマンのネット募集で炎上

埼玉県の撮影会社代表が小中学校の入学式のカメラマンを募集するとSNSに投稿し、炎上した。素性の分からない人も集まってしまう印象を持たれ、懸念や批判の声が広がった。

※本記事は月刊『広報会議』2024年5月号(4月1日発売)に掲載する連載企画「ウェブリスク24時」の転載記事になります。

文/鶴野充茂
社会構想大学院大学 客員教授
ビーンスター 代表取締役

社会構想大学院大学客員教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

 

2月末、埼玉県の撮影会社代表が個人のX(旧Twitter)アカウントで、カメラマン募集の投稿をした。仕事は首都圏1都3県で4月8日に行う小中学校の入学式での子どもたちの撮影で、「3人しか決まっておらず、あと100人くらい大丈夫」であり、報酬は1日の撮影で交通費込み3万5000円、一眼レフカメラで人物撮影の経験があればよく、不安なら3月の別の撮影に同行すれば教えるという内容だった。

この投稿にネット上は騒然となった。素性の分からないカメラマンが入り込む可能性や、幼い子どもたちの画像データの扱いなどについて不安視する声などが広がり、炎上状態に。3月初旬、同代表は投稿を削除し謝罪。撮影は中止することになったという。この事例から何を教訓とするかを考えたい。

発注者も保護者も見ている

まず状況を大まかにイメージしておきたい。町の写真館やフォトスタジオの数は、デジタルカメラやスマホの台頭、新型コロナによるイベントの激減などで減り続けている。また、卒業式や入学式などは日程が集中し、一時的に人手不足になるという事情がある。一方、ネット上でのマッチングやスタッフ探しが一般的になって久しい。そこでカメラマンをネットで募集しようとなった。その背景は理解できそうだ。

ところが今回の場合、応募のハードルの低さやチェックの甘さが強く印象付けられるような呼びかけでのカメラマン探しが問題視され、批判が殺到した。児童の安全確保や小児性愛者が紛れ込むことなどを危惧するコメントが溢れている状況である。

告知の際、学校関係者や保護者などが不安を感じることのないように表現に配慮し、また採用プロセスをはっきり示すことは、最低限必要になるだろう。告知や発表が、スタッフも含めてステークホルダーに不安感や不信感を与えるようでは明らかに問題だ。

発注者にも受注者にも責任がある

ただし、今回このSNS投稿だけが問題だったとも思えない。カメラマン派遣の条件や写真の品質確保、カメラマン採用時の人物確認、画像データの管理、発注金額の妥当性など、観点は幅広く、その中には発注者の指示や契約などにつながる点もあり、受注者だけでなく発注者の責任や発注条件も含めて問われるべきものだと考えられる。

昔から続く地域の祭りなどが、「今の時代に合っていない」と指摘され、見直しを迫られている例は珍しくない。学校行事においても、今回のような問題を踏まえて、カメラマンの発注やアルバム制作など、そのあり方や運用を改めて議論する機会にできるかどうかが、今後、子どもたちや教育の環境を守ることにつながるのではないか。たとえ周りに面倒な顔をされても、今まではどうしてきたのか、その運用で無理はないのかを確認しておきたいと声を上げる人がひとりでもいれば、そこでその組織はアップデートされる。

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