ふるさと納税を通じたシティプロモーションも奏功、関係人口が累計94万超に「自治体広報の仕事とキャリア」リレー連載(富士吉田市 萩原美奈枝)

広報、マーケティングなどコミュニケーションビジネスの世界には多様な「専門の仕事」があります。専門職としてのキャリアを積もうとした場合、自分なりのキャリアプランも必要とされます。現在、地方自治体のなかで広報職として活躍する人たちは、どのように自分のスキル形成について考えているでしょうか。本コラムではリレー形式で、「自治体広報の仕事とキャリア」をテーマにバトンをつないでいただきます。横須賀市の小甲 諭さんからバトンを受け取り、登場いただくのは、山梨県富士吉田市の萩原美奈枝さんです。
写真 人物 プロフィール 山梨県富士吉田市ふるさと創生室部長 萩原美奈枝氏

山梨県富士吉田市
ふるさと創生室部長
萩原美奈枝氏

1985年年富士吉田市役所に入庁。ふるさと納税を立ち上げから担当し、今年で10年目。
返礼品を送るだけでなく富士吉田市を知りファンになっていただくための取り組みに注力したことで、年々寄附額も増加。2022年度には、88億円を超える寄附を集め全国9位となり、累計寄附額は397億円を超える。また、ふるさと納税は寄附を集めるための手段ではなく地域資源をいかに活用してまちの経済的な発展へ投資できるかが、まちの活性化に必要なことであると考え、使い道を明確にしたクラウドファンディングを活用。これまでに行ったプロジェクトは、すべて目標額達成しまちの課題解決につなげている。

Q1:現在の仕事内容について教えてください

まず初めに、富士吉田市について紹介させていただきます!

山梨県富士吉田市は富士山の北麓に位置し、かつて富士山信仰の拠点として栄えたまちです。富士山がきれいに見える絶景ポイントは各地にありますが、なかでも均整の取れた美しい姿が見られるのが、富士吉田市です!

今や世界に知られるようになった富士山と桜と五重塔で有名な「新倉山浅間公園」だけでなく、最近では、昔ながらの商店街の真ん中に大きな富士山を見ることができる、本町通り商店街にも、世界中から観光客が集まっています。私たち住民は、日頃から自宅の窓、職場の窓、通勤道等、毎日眺める富士山に癒されたり、励まされたり、その存在はとても大きいです。

毎朝7時 市内に響き渡るチャイムは、だれもが口ずさむ「♪あたまを雲の上に出し~」の富士山が流れます。私たち住民だけでなく日本人にとっても、富士山は特別な存在であり、多くの人に愛されるシンボルであり、本市にとっては、大変大きな誇りであるとともに、限りにない恩恵を与えてくれています。

写真 富士山
写真 富士山

私が所属するふるさと創生室は、主にふるさと納税業務を所管する「ふるさと寄附推進課」と本市の魅力を内外に発信する「ふるさと魅力推進課」の2つの課により構成されています。

ふるさと寄附推進課においては、ふるさと納税事業の維持・拡充はもちろんのこと、ふるさと納税による寄附金がしっかりと街の活性化につながるよう各種事業に取り組んでいます。

また、ふるさと魅力推進課においては、若い世代を中心に郷土愛の醸成事業を通して地域への帰属意識を高め、地域に関わる人材の育成や、移住者に向けた移住前支援や移住後のコミュニティ形成等の支援、市の魅力や住みやすさ等の情報を市内外にSNSを活用し発信することで本市に関心のある関係人口との関係強化を図るとともに、市民の郷土愛を醸成することで定住の促進に注力しています。

Q2 広報部門が管轄する仕事の領域について教えてください。

令和5年の7月に、新たに設置された部署である、ふるさと創生室での広報活動は、主にふるさと納税寄附者や移住希望者に向けたものとなりますが、広く富士吉田市の魅力を伝えるという観点から、シティプロモーションも担っています。

ふるさと寄附推進課では、制度の認知度向上により全国的にふるさと納税の寄附額は増加していますが、本市においては寄附額の増加を目指すことはもちろんですが、寄附者のみなさんとの繋がりを大切に考え、返礼品を送って終わる関係ではなく、富士吉田市を知りファンになっていただくための取組に注力しています。地場産品の魅力を伝えるための寄附サイトのページ制作、返礼品送付の際の梱包、メルマガ配信、SNSの活用、寄附者向けのイベント開催など多岐にわたります。

寄附を集めることに特化せず、ふるさと納税を通して関係人口となった皆さんに寄附の使い道や、本市のイベント情報などを発信し、関係人口から交流人口につながるよう、取り組んでいます。

また、ふるさと魅力推進課では、移住相談、イベント開催、空き家バンクの活用、地域の情報発信、ワーケーションの受入実施など、多様な事業に取り組みながら富士吉田市の認知度向上のための魅力を伝えることはもちろん、市の魅力や住みやすさ等の情報を市内外にSNSを活用し発信することで本市に関心のある関係人口との関係強化を図っています。

Q3:ご自身が大事にしている「自治体広報における実践の哲学」をお聞かせください。

『まちを愛すること!』に尽きます!!

私は、現在2つの課を所管していますが、ふるさと納税の業務に携わって10年目を迎えます。この間に、知れば知るほどこのまちが好きになりました。好きだからこそ、このまちの魅力を多くの人に伝えたい。知ってほしいと強く思うようになりました。

また、ふるさと納税は広報と密接に関連していますが、これまでの自治体広報とは少し視点が違います。ふるさと納税の返礼品を提供する事業者の皆さんはもちろん、小中学校の児童生徒、高校生までが、このまちのふるさと納税に携わってくれているからです。

本市では、市内の高校と連携し「ふるさと納税返礼品の魅力発信」を目的とした取り組みを行っています。返礼品提供事業者の想いを届けるギフトカードや冊子、動画の制作や富士吉田の魅力を伝えるおもてなし観光ツアーの企画及び開催など、高校生が事業者を訪ね、PRのための取材活動などを通して返礼品や生産者の隠れた魅力を様々な媒体で発信してきました。高校生ならではの視点で返礼品の魅力を寄附者の方々に伝えられることはもちろんのこと、地元で生まれ育つ若い世代が地元の良さに気づき、向き合うという郷土愛の醸成とともに、本市の魅力発信という大切な貢献ができる機会にもなっています。

また、小中学校の児童生徒のみなさんは、それぞれが感じている富士吉田の魅力を絵手紙にしています。それを返礼品の中に同梱することで、寄附者の皆さんにお届けします。関わる全ての皆さんの富士吉田愛が形になり、全国に発信することで、寄附の増加と共にリピーターが増加しています。

実データ グラフィック 返礼品に同封されるカード
  • ●カードを受け取った寄附者の声
  • ・「生産者、事業者の方々の『顔が見える』ことが、とてもよいと思いました。ポストカードの写真、デザインも『読ませる』工夫があってよかったです。」
  • ・「高校生のふるさと愛のすばらしさが伝わりました。高校生の目から見た生産者に対する思い、考えもすばらしいと思いました。」
  • ●取材を受けた事業者の声
  • ・「我々が思いつかないこと、やろうとも思わないことを高校生がカードにしてくれて、とても意義が深いものになったと思います。」( フラワーデザイナー業者)
  • ・「事業者にはない目線で、我々の技法を表現してくれたのが良かった。」( 織物業者)
  • ●制作した高校生の声
  • ・「肌で感じたことを言葉や絵にして上手く伝えることは難しい。でも、形になって達成感が味わえた。事業者さんにも喜んでもらえてうれしかった。」
  • ・「活動を通して、自分たちの知らない富士吉田のこと、地元の特産品のことを知った。より多くの特産品や生産者さんの思いが、たくさんの人に届いてほしいと思った。」
  • 写真 ツアー参加者
  • ●ツアー参加寄附者の声
  • ・素晴らしい企画。地元を愛し、心から富士吉田市をアピールする気持ちが伝わりました。おもてなしに心から感謝します。ありがとう!富士吉田市が好きになりました。
  • ・富士吉田市そのものを色々な形で知ることができ、食べ物も産業も発見があり、魅力を感じました。今後も気になるまちになりそうです。」

高校生が作り上げたカードや動画は、商品に込められた事業者の想いを寄附者に届け、事業者のふるさと納税に対する想いを変え、高校生の郷土愛がうまれました。

これらの取り組みは、寄附者の皆さんに返礼品をお送りするだけでなく、寄附者の皆さんとの繋がりを大切にしたい本市が力をいれている取り組みです。行政だけではなく、このまちの多くの皆さんと共に、このまちの魅力を一緒に発信していくことが大切であると考えています。

Q4:自治体ならではの広報の苦労する点、逆に自治体広報ならではのやりがいや可能性についてお聞かせください。

行政の事業としては、これまでにない新しい視点での業務であり、まだ浅い事業なのですが、広報活動は、双方向のコミュニケーションが大切であると考えます。

ふるさと納税の返礼品(地場産品)の魅力を伝えることはもちろんですが、寄附者の皆さんに寄附の使途を明確に伝えることで、寄附者の信頼を得るだけでなく、ふるさと納税の財源によって、変わったまちに来訪するきっかけにもなり、寄附へのモチベーションを高めるものと考えています。

本市では、ふるさと納税クラウドファンディングを積極的に活用し、本市の課題解決に向けた取り組みに力を入れています。クラウドファンディングは、子育て、教育、福祉、防災等の大きな柱ではなく、本市の課題を解決するためのプロジェクトに賛同し寄附をいただくことができます。これまでに本市では、9つのプロジェクトを立ち上げ、全て目標額を達成し、プロジェクトが動き始めています。これらのプロジェクトは、使い道が明確であり、まちの変化を伝え訪問してもらえるきっかけになり、寄附者と本市の関係がより身近になると考えています。

本市では、「ふるさと納税」に取り組む上で、これまでに本市独自の手法で、寄附者の皆さんとの関係性を大切にしてきました。その積み上げてきたことが、多くのリピーターになりファンが増加し寄附額につながりました。人口47,000人の本市の関係人口は累計94万人を超え、関係人口の創出につながっています。

単に、返礼品を届けるだけではなく、「ふるさと納税制度」の趣旨を大切にし、寄附者との関係づくり、特産品の磨き上げや新商品の開発等、そして寄附の財源を活用した取り組みを行うことで、まちづくりのキッカケにつながる力がふるさと納税にはあると感じています。今後もご協力いただく、多くの皆さんと共に本市の魅力を多くの方に伝え、富士吉田市のファンを増やし、このまちがより一層盛り上がるよう取り組んでいきたいと考えています。

【次回のコラムの担当は?】

山梨県富士吉田市の萩原美奈枝さんが紹介するのは、福井県の嶋田 拓実さんです。

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