新刊『SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』の発売を記念して、著者の一人である横山隆治氏の期間限定コラムを掲載します。3回目のテーマは「トリプルメディア」の再検証です。
米国の「POE」から生まれた日本の「トリプルメディア」
書籍『トリプルメディアマーケティング』(インプレス刊)を上梓したのは2010年ですが、この概念に触れたのは2008年から2009年です。実は「トリプルメディア」と名付けたのは私ではありません。2009年に広告主協会のWeb広告研究会のセミナーで登壇して、POEの概念を紹介したところ、後にWeb研が命名したものです。セミナーでは確か単に「3つのメディア」として紹介したと思います。同じものが3つではないので正確にはトリプルではありませんが、米国ではPOEをそのまま発音していたりして、ネーミングでは日本版が優っていたかもしれません。
この「トリプルメディア」が普及したんだなあと実感したのは、何気なく見ていたテレビドラマ『スミカスミレ』の中で主人公の桐谷美鈴さんが大学のゼミの勉強として町田啓太さんからPOEを教わっているシーンがあったことです(笑)。
さて、「トリプルメディア」を提唱して、広告マーケティング業界には浸透したと思いますが、この概念についての検証をしてみようと思います。
3つに「分ける」のではなく「連携させる」ための概念だった
「トリプルメディア」は、企業のマーケティングメディアを整理するための概念です。
時々、これをスマホ、テレビ、デジタルサイネージの3つをトリプルメディアなどと称している方が見受けられますが、それらは「トリプルスクリーン」とでも言った方がいいですね。メディアという概念をしっかり定義しましょう。
私が提唱したのは、POEと3つに整理するだけではありません。POEを「有機的に連携、連動するようにしましょう」ということです。
ですから概念図でいうと、POEの3つの輪があって、それをバラバラにならないように真ん中にピンを打ってというものです。つまり企業内では自社のマーケティングメディアを動かすCMOにこの3つを差配させよということです。まあ企業広報は別にするとしてブランドのPRは、CMOに権限をもたせるべきです。
それがこのトリプルメディアを提唱した意味であります。しかしながらこれを提唱後に下記のような機能分掌を促すような区分モデルが出て来ました。
この表にしてしまう考え方(考えがあったかはわかりませんが)機能分化を勧めるものにしか映りません。はっきり言ってこれはダメです。企業のマーケティングメディアが従来より多岐に渡って複雑に増えていくからこそ、それらが有機的に結びつくため、企業の組織のなかでこれらをうまくハンドリングするために、別々のものと区別して、分掌化してはいけないのです。
またアーンドメディアに関してより分化して考えることで、3つを4つにしてみたり、何かと新しく見せようと苦心している向きもありますが、あまり意味があるようには思えません。
「必ず3つ使わなければいけない」というのは誤解
いずれにしても、「企業のマーケティングメディア」としてこれらを駆使しなければなりません。ですから企業内のマーケティング推進者が、ペイドはわかるけど、アーンド系は不得意とか、「オウンドに携わっているが、ペイドはからっきしわかりません」ではいけないのです。何度も言いますが、これらの連携・連動にこそ「トリプルメディア」の意味があります。
もっと言えば、別に必ず3つを使わないといけない訳ではないのです。なにか無理やり3つ使わないといけないように思っている向きがありますが、そんなことはありません。最初にPOEに整理したフレームがあり、そこを埋める作業をすると無理やり3つ使うプランニングをしてしまいそうです。トリプルメディアは企業のマーケティングメディアを「漏れなく、ダブりなく」全体像として捉えた上で、何が使えるか、何が効果的かを考えるためのものです。
提唱した「トリプルメディア」の概念は検証するに、劣化している訳ではなさそうです。
ただ、この概念をベースに行なう企業のマーケティング活動、特にコミュニケーションプランニングにおけるプロセスはもう一度検証すべきでしょう。
コミュニケーションプランニングはターゲットである消費者側に立って発想することが大事です。用意できる手立てとして3つに整理できる様々なマーケティングメディアがあるとして、消費者側に立ってみてそのパーセプションをどう変えていくのがいいのか、そのための施策は何かを先に考えることです。
もう一度いいますが、P・O・Eとかマス・デジタル・リアルと区分した枠(フレーム)をつくって、その中を埋めることでプランニングできた気になるのはいけません。
誤解なきよう。
横山隆治(よこやま・りゅうじ)
横山隆治事務所(シックス・サイト)代表
株式会社ベストインクラスプロデューサーズ 取締役
トレンダーズ株式会社 社外取締役
青山学院大学文学部英米文学科卒、ADK(旧旭通信社)入社。1996年DAコンソーシアム起案設立、代表取締役副社長就任。黎明期のネット広告の理論化、体系化を推進。2008年、ADKインタラクティブ代表取締役社長就任。2011年デジタルインテリジェンス代表取締役社長、現横山隆治事務所(シックス・サイト)代表。企業のマーケティングメディアをP・O・Eに整理する概念を紹介。主な著書に『トリプルメディアマーケティング』(インプレス)、『広告ビジネス次の10年』(共著、翔泳社)、『CMを科学する』(宣伝会議)ほか多数。
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