(本記事は月刊『宣伝会議』5月号巻頭特集に掲載されているものです)
落語家
立川志の輔氏
富山県生まれ。1983年立川談志に入門。1990年真打昇進。古典から新作まで幅広い芸域で知られる。2015年紫綬褒章受章。CMは「龍角散」「日本ガイシ」に出演。NHK長寿番組「ガッテン!」では27年間司会者として、現在は文化放送「志の輔ラジオ落語DEデート」のパーソナリティを務める。
広告を見るとその時代が鮮明に見える
─―広告会社にお勤めのご経験もある立川志の輔さん。広告をどのような存在とお考えでしょうか。
CMは“15秒の芸術”だと思っています。宣伝とは本来なら、商品名を連呼したり、ことさらに大きく書いたりすればいいだけのこと。「この商品はとっても良いですよ」と褒めそやし、お客さんを良い意味で洗脳するのが宣伝ですから。だけど、それじゃあ芸がないだろうと、宣伝という文化が始まったわけですよね。
あっという間に過ぎる15秒をいかに凝視させ、ハッとさせるか。その手練手管が宣伝の歴史だと思います。「これを買ってください」という匂いが強ければ強いほど、警戒したり不愉快に感じたりするのが日本人の国民性です。そのおかげで素晴らしいCMが生まれてきました。
「このドリンクを飲むと、こんな爽やかな風景が見えてきますよ」という錯覚を見せてくれたり。冷たい飲み物のCMにペンギンが出てくると、なぜか「涼しくなる飲み物なんだろうな」と錯覚しますよね。
あるとき聞いたのは、戦時中は特攻隊の零戦などが飛んでいる絵が商品の広告に描かれていると「良いな」と思われていた、そんな時代もあったそうです。とても恐ろしい錯覚です。
宣伝は時代とともに呼吸をしているから、悪い方に迎合する時代もあったということでしょう。テレビ、ラジオ、新聞・雑誌など平面の媒体も含めて、広告を見るとその時代が鮮明に見える。僕ら落語家も、一生懸命頑張って時代が見える落語をやっていきたいなと思っています。
─『宣伝会議』の創刊時は、民放テレビ局が相次いで開局し、テレビCMをはじめとするマス広告が大きく花開いた時代でした。現在ではSNSやネットが浸透し、マス4媒体よりもネット広告の方が売上で上回るようになっています。こうしたメディア・情報環境の変化はどのように感じていますか。
変化のさなかで仕事をしているということを十分感じています。僕がレギュラー番組の仕事を続けてきたこの40年間は、テレビが熟していき、そして熟し切った期間でした。今となっては、テレビが次のメディアに取って代わられることも必然だったように思います。
それはレコードがCDに変わっていくのと同じこと。逆に70年もの長い間、変化しなかったことの方が驚くぐらいですね。そうは言っても70歳の僕が、YouTubeを毎日見ているかというと見ちゃいない。最近は、タクシーの後部座席の眼の前に画面があって、ずっとCMが流れてるでしょ。「こういう時代になったんだ」と思いました。
僕は、CMは1番組に匹敵すると本当に思っています。30分のつまらない番組のあと、15秒の素晴らしいCMを見たら心が洗われるんです。「本編は要らないからCMを見よう」と思えるぐらい、それぐらい力のあるCMをクリエイターの方にはどんどんつくっていただきたいですね。
…この続きは4月1日発売の月刊『宣伝会議』5月号で読むことができます。
月刊『宣伝会議』2024年5月号
- 【特集1】
- 月刊『宣伝会議』創刊70周年 特別企画
- 企業も個人も「脱・広告」
- ビジネス変革の行く末
- ・広告界のトップに聞く、次なる構想
- ・広告コミュニケーション産業を見る、トップランナーの視点
- ・創刊70周年記念座談会
- ・若手マーケターが創刊号の“宣伝会議”を再現
- 日本のマーケティングの今と昔
- ・30年後、広告界はどうなっている!?
- 未来を担う若手クリエイターの匿名座談会
- ・世界の産業はモノづくりからコトづくりへ
- 教育の現場から考える、競争力を高める提案
- 【特別企画】
- 第61回「宣伝会議賞」
- 最終結果発表
- 【特集2】
- 体感するメディアのブランド創造力
- OOHの最新動向とクリエイティブ
- ・2023年話題になった国内OOH事例集
- ・広告主に聞く!「今、OOHに期待する価値」
- ・2024年注目のOOHメディア枠