堤幸彦監督に聞く!大きなうねりの中でいま「広告」にできること

数々のヒット作品を世に送り出してきた演出家・映画監督の堤幸彦氏。近年では地域振興プロジェクトを手がけたり、クラウドファンディングやNFTを取り入れた映像制作を行うなど、ものづくりを通じた新たなビジネスのあり方を追求してきた。同氏は今の「広告」をどのように見ているのか、話を聞いた。
(本記事は月刊『宣伝会議』5月号巻頭特集に掲載されているものです)
写真 人物 堤 幸彦氏

演出家・映画監督
堤 幸彦氏

東放学園を卒業後、映像制作会社でテレビ番組のディレクターとして働く。CMやPVを手がけたのち、1988年に映画監督デビュー。ドラマ「金田一少年の事件簿」、「ケイゾク」「池袋ウエストゲートパーク」や「TRICK」シリーズ、「SPEC」シリーズ、映画「20世紀少年」など数々の話題作の演出を手がけてきた。

「笑い」を追求したCMにはホッとして希望が持てる

――堤さんの現在の仕事の中では、広告会社とはどのような関わりがありますか。

最近はテレビCMをつくる機会が減ってきていて、広告会社の方々と一緒にものをつくることは年に1回あるかないか、という感じです。映画やドラマでは製作委員会に広告会社が参加しているケースが多いですが、現場ではあまりやり取りすることはありません。

そんな中で映像に関わる僕として興味深く感じているのは、タクシー内で流れる動画広告です。この数年で急速に普及して、スタートアップ企業を中心に多くのクライアントが出稿するようになりました。タクシー広告から地上波に進出して、「ビズリーチ!」のように多くの人が、そのフレーズを知るところになるという流れには、広告を取り巻く環境の変化を感じます。

タクシー広告はターゲットがはっきりしていて、だいたいが「部長はデジタル苦手ですよね、名刺の整理もできませんよね」というコンセプト(笑)。僕も1本制作したことがありますが、タレントの起用やアプローチの仕方も地上波のCMとは異なっていて、そのビジネスモデルやクリエイティブ共に、時代の写し鏡であると感じています。

クリエイティブの観点では、数学の文章題をモチーフにした塾のCM(九州の学習塾・英進館「歩く男」篇/ 2015年)は面白くて、印象に残っていますね。商品やサービスの特性を伝える手法として『笑い』のジャンルで追求している人がまだまだたくさんいることは、なんだかホッとしますし、希望を持てています。これだけお笑いのコンテンツもあふれていると、CMでそこを表現することは諦めてしまいそうになるけれど。ギャグを押し付けられるのはつらいなあと思ったりもしますが、そうやってクスっと笑えるCMはたくさんありますよね。


写真 人物 堤 幸彦氏

――堤さんからご覧になった広告産業および広告業界は、どのように映っていますか。

ドラマや映画づくりにおいてもそうですが、スポンサードする企業の意向は非常に大きい影響を与えます。お金がなければ作品がつくれないという状況はもうどうしようもなくて、時には歪な力関係が生まれてしまう場合もあります。

『奥さまは魔女』(1964~1972年・米ABC)ではダーリンが広告会社勤務で、クライアントが無理難題を突き付けて、魔女の奥さまが助けてくれるというシーンが毎回のように描かれていましたが、広告会社の人は、その頃からずっと変わらずに大変ですよね。働き方改革が進んでいるとはいえ、深夜の打ち合わせとか、企画を100本出すとか、どうしてそんな辛い思いを…と思ってしまうのですが、予算も制限されている中で肝になるのはアイデアですから、そうした厳しい環境にならざるを得ないのかもしれません。

ただ僕は、企業の経営者が確実に若返っていく中で、広告業界においても、旧来の慣習は変わっていくのではないかと肌で感じています。その証左が先ほどのタクシー広告のクライアントで、30~40代の方々が、いかに資本主義の“隙間”を縫うかということに注力している。僕も今スタートアップと連携した「SUPER SAPIENSS」というプロジェクトで、トークンによる資金調達と共創コミュニティづくりを通した映像制作に取り組んでいますが、そうして若い経営者が新たな商品やシステムをつくっていくことで、過去のしがらみや慣習を越えた、自由な経済活動、表現活動ができると考えています。

…この続きは4月1日発売の月刊『宣伝会議』5月号で読むことができます。

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